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コソアード国完全制覇の旅(14)

「あの、サヤマ殿……?」


「サヤマ殿?」


「おーい、サヤマ殿ぉ〜!」


「全然ダメですね。」


「みぃ……。」


 クロにまで心配させんじゃないよ。


 佐山くんのいつもの元気は何処へやら。グレップの使者に会うというのに大丈夫なのだろうか。


 向かうは迎賓館。市内で車は目立ち過ぎるので馬車で移動をしている。


「ご無沙汰しております、トガワさん。ご健勝のご様子で何よりです。」


「そちらこそ、遠いところをはるばるお越しくださりありがとうございます。」


「いえいえ、なんの!ユキヒト・サヤマ氏ご本人にお会い出来るとあらばたとえ火の中、水の中!なのですが……」


「すみません。彼、昨日から放心状態で。」


「何かあったのですか?」


「あったというか、これからあるというか、それをまだ決めかねてるというか……」


 全く大丈夫ではなかった。まだぼんやりしてる。昨日の総統閣下の話でかなり混乱していた。無理もない。無理もないが、こちらのお二人も遠いところをやって来ているのだ。時間が勿体ない。


「コラ、佐山!しっかりしろ!」


「いてえ!何するんですか戸川さん!」


 前回と同じ二人の使者、シャリクェ・ベントー氏とドッコ・ミテルノ氏はわたしが佐山くんをどついたので大慌てとなった。割とよくあることなのでそんなに慌てないで頂きたい。


「ご挨拶もせずに失礼でしょ!」


「あ、すいません。佐川由紀人です。初めまして。」


 テンションが低い。こんなのは佐山くんじゃない。


「まずはノブドを代表してユキヒト・サヤマ氏に謝罪申し上げます。」


「あ、そういうのは結構です。私もやりすぎたと思いましたので。じゃ、これで。」


「待て待て待て待て!」


 じゃ、と言って片手を挙げたかと思うと回れ右をして足速に立ち去ろうとする佐山くんの首根っこを掴んで止めると「ぐえ」と聞こえたので今度は手を離したら、佐山くんは反動で前に倒れ転んだ。膝を打ったらしく、涙目でわたしを睨みつける。


「なんでっすか!?謝罪のための会談すよね!?謝ってくれたからこっちも謝って喧嘩両成敗でおしまいになりました!帰っていいですか!!??」


「いやいやいや、これから腰を落ち着けて旧グレップとの和解を示すんでしょ!?」


「和解しましたよ!ていうか、和解なんか出来ませんよ!この人たちには何の関係もないことじゃないすか!三百年経ってんすよ!?俺にとっては二年くらいしか経ってないけど、こっちじゃ三百年経ってるんです!この人たちに謝ってもらう必要なんて初めからないんですよ!!」


「分かってるけどさ!そういう体面も必要だって言ったの自分じゃん!」


「言いましたけど!もうこれで終わりです!俺は帰るんだから関係ないです!」


 ぽかんとするノブドの使者、他数名。同席している同行者たちは事情を知っているので何とも言えない顔をしている。佐山くんの歴史は重過ぎる。誰だってこんな顔になる。それでもだ。


「このまま消化不良で帰る気!?また転移して来たらどうすんの!?」


「二度と来ないように効果かけてから帰りますよ!」


「『我家族再会』の効果が切れてないからこっちに来ちゃったんじゃないの!?どうせまた来るよ!そんときになってまた浦島太郎になればもっとイヤな思いするよ!!いいの!?」


「戸川さんには分かんないよ!まともな家族も知らないくせに!偉そうに言うなよ!……あ。」


 自分でも分かる。わたしの口はへの字になって、眉間には山脈が築かれているのだろう。痛いところを突かれたと思う。だけど、売り言葉に買い言葉で返していたら埒があかない。ここはわたしが大人になって水に流すべきだ。


「そうだよ。わたしは普通の家族なんて知らない。わたしは()()()()()だったから。」


「す、すいません、言い過ぎました……」


「いいよ。怒ってない。ショックだったけど、怒ってない。再認識しただけ。」


「ご、ごめ」


「謝んなくていい。だからほら、立って。ちゃんと椅子に座って。わたしも、一緒に聞くから。聞きたいことがあるなら聞いておこうよ。」


 そう伝えると、佐山くんはのろのろと立って、ソファに背中を預けて座った。態度が悪い。いや、打ちひしがれた様子にも見える。まだ打たれてないのに、打たれ弱いな。


「あの、大丈夫ですか?もしご不快でしたら今日はもう……」


「いいんです。俺が最後に使ったスキルで人、何人死にました?」


「え?」


「俺、どうせ人殺しですから。そんな気、遣ってもらわなくていいです。」


 自暴自棄になってんな。膝にクロ乗せとくか。クロは空気を読んだのか、いつも以上に甘えた仕草で佐山くんに擦り寄った。隣に座ったわたしにだけ佐山くんが喉を鳴らした音に気がついた。


「ですがそれは」


「いいんですって!結局人の命を奪っておきながら、自分の嫁と子どもも守れないヘタレなんです、俺。」


「奥様というのは、シーマ・ガーラ将軍のことですか?」


「そうです。シーちゃんです。」


 シーちゃんて呼んでたのかよ。それとも呼ばされていたのだろうか。奥さんは縞柄だったのか。確かに縞柄だわ、虎。


「ガーラ将軍は、遠征に出た海で船を陥され、行方知れずという風に記録が残っております。」


「知ってます。行方不明のままですか?」


「そうですね。」


「虎白宇は?」


「御子息のコシロー様はですね、誠に残念ながら、ガーラ将軍と同じように……」


「行方不明なんでしょ。」


「ええ、はい。左様でございます。」


「やっぱり……生きてるわけないんだ……」


 ノブドの使者たちは首を傾げる。二人は顔を見合わせてかける言葉を考えているようだ。するとベントー氏が何かを思い出したようで口を開いた。


「コシロー様はサーイダーイと秘密裏に同盟を組んでいたマンナーカに囚われていたという記録があります。牢につながれていたようですが、ある日突然、いなくなった、と。」


 手で顔を覆っていた佐山くんの体がピクリと揺れる。


 マンナーカは中立国だったと言っていたのに、サーイダーイと手を組んでいたのか。サーイダーイが落とされれば次は我が身に火の粉が降りかかると考えたのだろう。そしてその推測は間違っていなかった。佐山くんが阻止しただけだ。


「満身創痍だったそうなので、死亡ということで処理されたようですが、遺体は見つかったおりません。」


「同じ時期から、マンナーカと、現在キョダインになっているヨワーイとの国境付近の竹林で白い大型の猫モンスターの目撃情報が相次いでおります。五十年ほど前から姿を見せなくなったそうですが。」


「竹林内に出来たダンジョンのモンスターを狩っていたようです。当時はまだ国境線が曖昧で国の目が行き届かぬ地でして。大型のスタンピードが起きて近隣の村が危険に晒されたのですが、突然白虎が現れてモンスターを単騎で駆逐し、村を守ったという言い伝えが残っております。今ではその土地で神格化されて、白虎を信仰の対象とする者たちがおりますけれど。」


「ね、ね、ねえ!それって!」


 わたしが体をゆすると佐山くんがわたしの手に手を重ねてきた。その手はとても冷たくて、震えている。顔を背けているのでこちらからは佐山くんの表情が見えない。


「こ、こしろ、は、いい子だから……正義感が、強くて、俺みたいな、弱いヤツを、守るんだって、母上みたいに、強い戦士に、なりたい、って、言って、たんだ……脳筋、親子だから、仕えてる、皇帝が、クソみたいな男だって、全然、分かって、なくて……」


「うん、うん。コシローくんはいい子だね。ただ、利用されただけなんだよね。」


「そ、ですよ……嫁だって、そ、です……小さい、頃から、そういう教育を、受けてただけ、で……ホント、ウザくて、ヤでした、けど……ガサツで、色気なんかなくて、力こそ正義な、脳筋で……でも……悪いヤツじゃ、ないん、です……」


 佐山くんが泣いている。彼の中ではまだ二年しか経ってないことだ。消化出来るような時間は経ってない。もしかしたら、一生、自分の中に溶けずに残るのかもしれない。

 掴まれた手はいつの間にか佐山くんの膝に下ろされ、肩を震わせながらぎゅっと力を込めている。


 怖いんだね。大丈夫。一緒にいるから。夏、会いに行ってみよう?マ総統の島にいる、虎の親子に。会うときは、バルトも一緒だよ。


 わたしたちがついてるから、佐山くん、勇気を出して。


 わたしも、勇気を出すから。

コシロー・ガーラ・サヤマ(?)

虎白宇 宇宙一かわいい白い虎

佐山由紀人が命名


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