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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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コソアード国完全制覇の旅(13)

 アッティラーノの旅程は初日の第四ダンジョンを除きとても順調だった。クロのレベル、どれくらいになったかな。日々、大きくなってる気がする。というか、ダンジョンにいると大きくなる?外で一緒に暮らしたいというのはわたしのエゴなんだろうか。やはりダンジョンに住むしかないのか。


「カッシーコ、入領ぉ!」


 佐山くん、あの番組知ってるのかな。どう考えても言い方がパクリなんだけど。


 カッシーコ産業特区。ここはダンジョンで集められた素材を加工し、大量生産する工業地帯だ。シディーゴはシディーゴ経済特区と呼ばれ、その中でも政治の中心地である首都シディーゴは中央府という別名もある。要は、カッシーコは第二次産業の担い手。シディーゴに近いので、京浜工業地帯みたいなもの。海があるので巨大な貿易港もある。そして首都シディーゴは東京。政治経済の中心。というのが賢い佐川くんの見解である。


 カッシーコには安定して存在する中規模ダンジョンが一つとほとんどが海中にある大規模ダンジョンがある。地質の関係なのか、出来ては消える超小規模ダンジョン群があり、そこはレアアイテムの宝庫らしい。

 海のダンジョンは気になるが、クロは猫なので、誰が何と言おうと可愛い猫なので、今回はご遠慮する予定。え?シャパリュって猫の品種でしょ?違うの?


「はーい、オッケーでーす!」


 書きだめしてるから〝実現〟するだけで本当にあっという間に仕事が終わる。佐山くん曰くカッシーコの面積と役割は「神奈川県と千葉県足した感じ」。コッティラーノ始めとする四領は平均して本州最大の岩手県くらい。ドッティラーノが一番広くて隣の秋田県を足したくらいだそう。日本で一番狭いのが香川県ってそうだったっけ?沖縄だと思ってた。

 そういうわけで、観光しなければ泊まらず終わるカッシーコ。車だと速いな。馬車も渋滞作るような台数走ってないし。


「瞬殺でしたね、カッシーコ。」


「そうだね。どうする?泊まる?」


「このままシディーゴに入ってしまいましょう。」


「ですが、日が暮れませんか?」


「ライトが有りますし、車なら問題ないのでは?」


「よぉーし!じゃあ、夜のドライブですね!」


「あ、夜間でも夜駆けの馬はたまにいますから、くれぐれも気をつけてくださいね。」


「了解です!」


 しばらくして看板が見え、「シディーゴぉ〜!」と佐山くんが唸った。またか。もういいよ、ソレ。


「クロ、飽きない?」


「み?」


「キトンブルーからすっかり色が変わりましたね。」


「赤と金の混じり目。妖しいですが美しいですね。」


「首輪とプレートの色ですな。」


「混じり目といえばバルトさんですね!翠色と橙の混じり目なんて、カッコいいですよね!あんな色の取り合わせ、イケメンにしか似合いません!」


 佐山くんは一体何のキャンペーンをしてるんだ。そして何故皆頷いてからわたしを見る。クロの虹彩は金ベースに中心に向かって赤が入る。なかなかない色で可愛い。まあ、何色でも可愛いのだが。


「音楽流していい?」


「どぞー。夜のドライブといえば!って感じですね!」


 そう言った癖に流した曲は「懐メロですね!」「古い!」と言われた。わたしの世代でもないよ。夕方から夜のドライブだから選んだだけだよ。

 その後に佐山セレクトでかけたユーロビートは評判悪かった。ざまあ。


「中央府はちょっと遠回りだけど最後でいいんですよね?」


「そうですね。面会やらの予定がありますから。」


「結局、逃れられない運命なんですね。」


「こればっかりはまあ、今後のためって感じですよね。」


「そう言って頂けるとありがたいです。」


 佐山くんの本題はグレップ帝国の流れを汲むノブド国の使者との面会である。決して、コソアード政府の要人と会うわけではない。いや、会うは会うけど、プライベートな関係を見せつけるために総統閣下と会うだけ。今回はお宅に泊まりはしない。外で食事するだけ。シディーゴ市民の皆さまへのパフォーマンスである。


「やあ、君が佐山くんか。初めまして、バルトの父のシューワ・イ・ヨックバールだ。よろしく。会えてうれしいよ。」


「わたくしはバルトの母、と言っても継母だけど、ゾーワ・イ・ヨックバールよ。今日は来てくださってありがとう。」


「佐山由紀人です。バルトさんにはいつもお世話になっております。お会い出来て光栄です。」


 レストランの一卓で交わされる挨拶に周囲がざわりとする。ユキヒト・サヤマの再訪は伝えられている。この世界で彼の名を知らぬのは赤子くらいだと言う。高級店に来るような客層であっても、興味本位で見てくる者もいれば、怯える者もいる。それだけこの世界で彼の存在は大きいのだろう。


「ショウコさん、お久しぶりね。」


「はい、ご無沙汰してます。皆さん、お元気ですか?」


 わたしにも注目は集まっている。世にもめずらしい黒髪の来訪者が二人。目を引くに決まってる。ここに魔王様がいなくて良かったわ。


「シャパリュのこと聞いたよ。その後はどうだね?」


「とても強くなりました。賢くて人懐こいいい子です。今度お孫さんたちと遊ばせたいのですが、いいですか?」


 クロはレストランに入れないので今晩はデンキー氏に預かってもらっている。今頃膝に乗せてモフモフを堪能している頃だろう。


「是非連れて来て!クロちゃんだったわね?可愛いって聞いたわ。」


「写真、ご覧になります?この子です。」


「まあ!お膝で眠ってるの?」


「はい。可愛いですよね〜!」


「ええ、とっても可愛い。ショウコさん、すごいわ。テイマーではないのにモンスターを手懐けるだなんて。」


「この子は最初から人懐こい子ですから。色んな方に可愛がられてますよ。カーテン領司には特に色々と気を遣って頂きまして、またクロと遊びたいからとご自宅に招待してくださるそうです。」


「そうなの。そのときはまた我が家に泊まりなさいね。」


「ええ。バルトと一緒にと念を押されてしまいましたから。お世話になります。」


 わたしの発言にヨックバール夫妻は顔を見合わせ、佐山くんは目を丸くした。


「それって……」


「決めてくれたのか?」


「まだ本人と話をしていないので。すみません。今はただ、この世界で生きていく覚悟はある、とだけ。」


「そう、そう。」


 ゾーワ夫人の眦に光るものが見えた。まだ本人と話をしていない。明言は避けたい。だけど、このお二人には伝えておきたかった。バルトのことを大切に思っているお二人には。


「戸川さん。」


「佐山くんも、余計なこと言わないでね。」


「あったりまえですよ!」


「それはどうかなぁ。佐山くん、口が軽いからなぁ。」


 ははは、と総統閣下が声を上げて笑ったところで給仕が飲み物の注文を取りに来た。食事はコースだ。もう決まっている。後はマナーに気をつけながら流れに乗るだけだ。

 食事会は和やかに進み、個室のサロンに移ってしばし歓談する。他愛もない話をしていたが、話が途切れたところで総統閣下は人払いを命じ、部屋には我々四人だけとなった。


「マ閣下が君に会いたいと言っている。夏は彼女と閣下の島に行くかね?」


「まだ迷っています。マ閣下にお会いするのはかまいません。ただ、あの男がいると思うと、ちょっと。」


「会わないようにすることも出来る。恐らく閣下が瞬間移動でコノまで迎えに行くだろう。そのときに会うだけでもいい。まあ、島に誘われると思うがね。頼みたいことがあるんだそうだ。以前に閣下が保護した獣化から戻れなくなって久しい母子の虎がいるそうだ。閣下のお力でも純血のエルフでもどうにも出来ないらしい。見てやってくれないか。」


「それは……」


 佐山くんの目が泳ぐ。瞳が揺れている。獣化って何だろう。竜化と同じかな。戻れなくなったってどういうこと?戻れないと何かあるんだろうか。

 だけど、佐山くんの動揺の仕方はおかしい。虎の母子。それだけで、確認する価値はあった。


「子どもは、ホワイトタイガーではありませんか?」


「戸川さん!」


「知っていたのか?」


「佐山くん。」


「戸川さん!イヤです、俺、怖いです。やっぱり島へは行くのやめときます。」


 佐山くんが握りしめたグラスの中の水面が波を打つ。やっぱりそうなんだ。獣化して戻れなくなった虎の母子。その二頭はきっと、佐山くんの。


「たまたまですよ、たまたま!だって、獣人の寿命は百年そこそこ。人間だって頑張ればギリギリ生きられるよりちょっと長いくらいです。生きちゃいませんよ。」


「だけど、無限大になって色々したって言ってたじゃん。何をしたの?子どもに、奥さんにも、何をかけたの?」


「〝我家族再会〟って、書いただけです。叶いませんでしたけど。〝健康長寿〟とか〝無病息災〟とか、ありきたりな願掛けばっかりです。三百年も命が続くわけないです。わけがないんですよ!」


「だったら確認しに行こうよ。グレップの皇帝とは会わなくたっていい。だけどその人の処遇もマ閣下と話し合った方がいいと思う。一目さ、一目見るだけでいいじゃん!好きでしょう、猫!!」


「好きですよ!好きですけど!」


 はあはあと息を切らして叫ぶ佐山くんは、会いたいと叫んでいるように見えた。

 総統閣下は佐山くんを微動だにせず見つめている。


「時間はまだあるんだ。元の世界へ帰るまでに決めればいい。よく考えてくれたまえ。」

シリアスに疲れると別の話が書きたくなる不思議。

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