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コソアード国完全制覇の旅(10)

コッティラーノ第一の飛び地で出会った出落ちキャラ


再登場です

「クロちゃん、たくさんダンジョンに潜らせた方がいいですよ」というアドバイスを頂いたので、第一に潜ることにした。今日はこのままソノに一泊する。明日また鑑定してもらってから移動になった。


 高層階をウロウロ。本能ってすごい。威圧でビビらせて猫パンチで倒す。子猫とはいえ元が中位モンスターなので第二階層までは無双だった。あ、でも、スライムには威圧が効かないらしい。スライムは謎が多い。神出鬼没だし。


 メーガー氏からも連絡が来て、クロにどれくらいスキルが影響するのかを見て欲しいと言われた。すり抜けはちょっとびっくりして戸惑ってたけど、わたしの気配が分かるのか壁に入ると慌てて追いかけて来た。可愛い。クロがいればソロ活動でも寂しくない。とても満たされている。可愛い。

 オールスルー状態でモンスターに気付かれず、お尻をフリフリさせて獲物を狙うクロは本当に普通の猫だ。上手く仕留めると誇らしい顔をする。可愛い。


 翌日。威圧レベル3、クリティカルレベル5。初日に張り切り過ぎたのかもしれない。こちらの世界の生物としては結構上がった方らしい。めでたい。

 カーテン氏は名残惜しそうにクロを撫で回して、クロもご機嫌ではあったが、我々は依頼の為に旅立った。


 旅は順調に進み、アッティラーノ領に入る。アッティラーノ領のダンジョンは四つ。その後にカッシーコとシディーゴが控えている。さっさと済まして帰りたい。みんなにクロを自慢したい。

 第三ダンジョンでの仕事を終わらせて向かった第四ダンジョンの派出所では、見覚えのある人がわたしに話しかけようとした後、佐山くんを見て「ひい!」と叫んで逃げようとしてすっ転んだ。誰だっけ、コイツ。


「あ、ひ、ひ、ひしゃしぶゅりだにゃ!」


 にゃ?猫語か?


 今やすっかり猫派になったわたしでも成人男性の猫語はどうかと思う。



「お、覚えてないのか?」


「どなたでしたっけ。」


「コッティラーノ第一の飛び地で会っただろ!?」


「ああ、おやつは……」


「カールさんって言うんですか?」


 ジェネレーションギャップかと思ったが、佐山くんにも通じた。カール・イチョシー氏だ。思い出した。何でCランクなんだろうと思った人だ。


「地球っぽい名前ですよね。」


「そうだね。」


「ユ、ユ、ユ、ユ、ユ、ユキヒト・サヤマと、な、な、な、な、な、な、仲が良いのか!?」


「そりゃ同郷ですから!ね!戸川さん!」


「そうだね。」


「こここここ、怖くないのか!?」


「俺の方が戸川さんのこと怖がってますよ?首絞めて落とそうとするし。」


「ちょっとやめてよ、おかしなこと言うの。それは君がキョウちゃんにセクハラしたからでしょ。」


「ししししし、死神の首を、しし、絞めた!?」


 別に佐山くんは死神じゃないよ。それだけ色々あったんだよ。たまに溢すグレップ時代の昔話は救いようがないくらいつらくて悲しい。彼の抱えてるものが重過ぎて、空元気に付き合うくらいしかわたしに出来ることがない。どんな経験値がある人でもきっとそうだろう。


 話を聞いてしまうと、どうしても空元気に見えるんだよなぁ。


「大丈夫ですよ!僕と戸川さんに害を加えなければ何にもしませんから!」


「そ、そ、そうか。よ、よろしくな、今日。」


「ええ!お任せください!」


 にっこりと笑う佐山くんにイチョシー氏は引き攣り笑いを返していた。まあ、話しかけて来ただけいいのかな。


「な、なあ、トガワ。」


 名字呼び捨てってめずらしいな。みんな下の名前で呼ぶから。


「なんですか?」


「それ、猫?」


「シャパリュです。」


「は?アンタ、テイマーだっけ?」


「いいえ?わたしのスキルはスルースキルのみです。」


「もう来訪者、ワケわからん……。」


 わたしたちだって分かってないんだ。分かるわけがなかろう。


 夕方、時間が空いたのでダンジョンに一時間だけ潜ることにした。クロのレベル上げだ。クロといると高層階は安全なので、わたしはスキル無しだ。


「シャッ!」


「クロ、かっこいい!」


「カーッ!」


「クロ、決まってる!」


「みゃ!」


「クロ、おりこう!」


「な、なあ。」


「何ですか?」


 何でいるのイチョシー氏。出来たばかりの抜け道を降りて第三階層に来たら何故かイチョシー氏と遭遇。冒険者たちは早速佐山くんの付与した効果を試しているようだ。


「何してんの?」


「クロのレベル上げですけど。」


「テイムしてるわけじゃないんだよな?」


「そうですよ?あー!クロ!あとでササミあげるからそんなものペッ!しなさい、ペッ!」


 そんなグロいモンスターよりササミの方が美味しいよ!ていうか、素材だから!回収、回収!


「何で連れて歩いてんの?」


「ウチの子だからですが?」


 なんだよ、絡んでくるなよ。こっちは躾で忙しいんだから。


「やっぱ来訪者ワケわからん……。あ!」


「カーバンクル!可愛い!」


「なんでそうなる!?」


 可愛い。カーバンクルは可愛い。出来れば殺したくないモンスター上位に入る可愛さ。怒っても可愛い。だが完全に敵意剥き出しだ。額の宝石は貴重な素材。余り姿を現さないって聞いたのに、三匹もいる。中位モンスターでもレア度が相まって真ん中くらいに位置している。わたしとクロはオールスルーで過ごせばいいが、一匹ならともかく三匹。イチョシー氏に対処出来るのか?Cランクほどの実力があるように思えないんだけど。


「カッ!カッ!カッ!」


 クロはやる気満々。威圧も出している。多分、中位ランクで対等くらいのモンスターなんだけど、三対三でもこちらは分が悪い。クロは子どもらしい万能感があるんだろうが、大人のこちらは冷静に判断してしまう。このままだと勝ち目はない。


「シャッ!」


 戦闘が始まった。ここでスキルを出すべき?でも、そうするとイチョシー氏だけが残って標的になってしまう。


「はっ!」


 イチョシー氏は剣を抜いて立ち向かって行った。ていうか、この人なんでソロなの?絶対パーティ組んだ方がいいと思うんだけど。


 ああ!そんな振りかぶったら腹がガラ空き!


「うわ!」


 言わんこっちゃない。角状に伸びた貴石で串刺し寸前になった。この人、避けるのは上手いな。致命傷はすんでのところで当たらない。小さな傷は受けてるけど。

 クロはイチョシー氏を盾にしつつ、彼に攻撃するカーバンクルに爪を振り下ろし、牙を突き立てる。わたしも隙を見て二人に喰らい付こうとする他のカーバンクルをダガーで牽制。かわいこちゃんにナイフを投げるのは偲びないが、ウチの子一番なので仕方ない。


「うお!」


 とうとう貴石からビームを出した。本当に出るんだ、ビーム。あの子たち、欲しいな。だけどわたしはテイマーじゃない。クロはわたしの意識を基に生まれた(仮定)が、あの子たちは歴としたダンジョン産モンスター。情けは無用だ。


 わたしの投げたダガーを前脚で叩き落とした瞬間にイチョシー氏が剣を振り下ろして首を落とした。ああ、可哀想。かわいこちゃんなのに。ごめんね、ダンジョンは弱肉強食なんだ。


「カッ!」


「はあッ!」


「シャッ!」


「へあッ!」


「カーッ!」


「とあッ!」


 何だろう。声質のせいかな。イチョシー氏の攻撃時の掛け声が三分で帰る遠い星から来た巨人の声に聞こえる。


 モンスターとの遭遇時に居合わせた冒険者は、不利な状況に於いては連携を取ることが義務付けられている。結果として、三匹全て討ち取ったり。なかなかの収穫だ。でも、まだ第三階層なのに何でカーバンクルなんて出て来たんだろ。


「悪かったな、巻き込んで。」


「どういう意味ですか?」


「あー、オレのスキルさ、〝幸運〟なんだ。結構レアなんだぜ?トレジャーハンターとしては〝幸運〟なんて最強じゃん?だから冒険者になったんだけどよ。冒険者になってからスキルレベル上がりまくって、おかげでレアアイテムがよく見つかるんだけど、代わりに高層階でも結構強いモンスターと遭遇したりするんだ。冒険者にとっちゃ、高ランクでレアなモンスターに出会えるのはラッキーだからな。そんでまあ、何でか致命傷は当たらなかったり、こんな風に連携すればどうにか対処出来る誰かと居合わせたり、前ん時も抜け道だと思ったら飛び地でヤバかったけどアンタに会ったお陰で助かった。アンタ、前に会ったとき戦闘はからっきしって言ってたからちょっと不安だったんだけど、コイツもいたし、マジで助かったよ。ありがとな。お前もありがとな。そんですまなかった。さっきのはそういうお詫び。取り分はそっちが多めでいいぜ。そっちは二人だしな。」


 なるほど、理解した。この人がCランクの理由。おこぼれや棚ぼたが多くてランク上がったタイプだ。わたしと同じ。突然、親近感が湧く。

 こうして正直に打ち明けてくれたし、今もクロを撫でている。ちょっとアレなうっかりさんではあるけども、悪い人ではない。分け前のこともだけど、何よりわたしたちのことを「二人」と言ってくれた。モンスターなクロに偏見を持たず、冒険者のひとりとして見てくれている。なかなかいい奴じゃないか、イチョシー。気に入った。


「分け前は普通でいいですよ。こちらこそ、クロのレベル上げになったので好都合でした。」


「遠慮なんかいらねーのに!って、あ、アレか。そっか。アンタ、〝悲劇の貴公子バルト・ゼーキン〟の番だもんな。金には困ってねーか。」


「番らしいですけど友人です。彼の懐はアテにしてません。」


 一瞬で評価が覆りそう。それよりも〝悲劇の貴公子〟って何だ。見合い連敗のことか。フラれたわけじゃないんだからな。見合い相手に番がいなかっただけだ。


「そーなの?」


「ええ。あ、わたし、そろそろ帰らなくちゃいけないんですけど、イチョシーさんどうします?」


「カールでいいよ。敬語も使うなよ。冒険者はみんな対等だ。それにアンタの方が年上だろ?」


「……カールさん、おいくつですか?」


「だから敬語いらねって。オレは20だよ。あ、もうすぐ21か。」


 三十代だと思ってた。カール。お前、フケてんな。

カール・イチョシー(20)

五月で21歳になる

冒険者なりたての頃は友人とパーティを組んでいた

彼の〝幸運〟に巻き込まれたパーティメンバーは負傷が多く、袂を別つに至る

それ以来、ソロ活動をしている

小心者の善人

フケ顔で十は上に見える

攻撃の掛け声は光の巨人風

モテない

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