コソアード国完全制覇の旅(8)
佐山過去話。
※ソッティラーノ領司名前修正しました。
一度電話を切る。沈黙が流れる車内。車内にいるのはわたしとクロと佐山くんだけだけど。
「ええと、と、とりあえず、ソッティラーノのブラーイン・ド・カーテン領司からの返答を待ちましょう。その内、ここのギルド職員が知らせに来るはずです。」
「そ、そうですね。あ、誰か来たようです。」
佐山くんがわたしを睨んでいる。よかった。人が来た。話題は今後の予定に移る。
「トガワさん。すみません。派出所に来て頂けますか?スキルが増えていないか確認をと領司からの指示がございまして。」
「構いませんが、わたしはテイマーではありませんよ?」
「来訪者は後天的なスキルが出ない。常識ですからね。」
「万が一がありますので。拝見させて頂きたく……」
「分かりました。この子も一緒でいいですか?」
「ええ。まだ子猫ですからね。何かあっても対処は難しくないでしょうから。」
何もしないよ、失礼な。本人はあくびをして首をかりかり掻いている。ノミはいないよな?生まれたばっかだし。
派出所で確認したが、やはりスキルは増えていなかった。冒険者の腰から垂れた紐が気になるらしく、じゃれついている。意外にも冒険者たちには受け入れられていた。
「クロ、あんまり遠くに行かないで。」
「み!」
てこてことわたしの席に寄ってくる。可愛い。可愛くて尊い。
膝を定位置と決めたのか、ぴょいと軽快に飛び…‥乗れない。まだ小さいからだろうか。大きめだからお尻が重いのか。可愛い。
「普通に……猫、ですね?」
「猫です。」
「とにかく今夜は車からは出さないようにしてください。他の冒険者がどのような対応をするか分かりませんから。一応、モンスター登録証をお渡ししますから、仮の措置ですが、そちらを首輪に付けて頂ければと思います。そうしましたら、冒険者に万が一傷付けられても賠償が発生しますので。」
「お気遣いありがとうございます。」
まず首輪がない。首輪がないならお取り寄せすればいい。佐山くんの出番だ。
「俺、ネットショップじゃないんですけど。」
ぶちぶち文句を垂れているが出してはくれるようだ。
「色、なんにします?」
「赤で。」
黒に赤は映える。モンスターの登録証は金色だった。黒と赤と金。素晴らしいコーディネートである。
『本革成猫用首輪赤』と書いて〝実現〟する。布のリボンも捨て難いが、あれだとすぐに取れてしまうだろう。登録証の冠に首輪を通してつけてやると、違和感があるのか後ろ足で引っ掻いて取ろうとする。
「クロ、それがないとクロがいじめられちゃうかもしれないから取らないでね。」
そういうと渋々といった態度で後ろ足を収めた。偉い。可愛い。いい子。可愛い。
「クロ、お前、腹減ってない?」
「みぃー。」
「すみません、お湯もらえませんか?」
そう言って佐山くんはかいがいしくクロの世話を焼いている。猫好きなのかもしれない。そういや佐山くんの元嫁は虎獣人だった。猫科の扱いはお手のものなのだろう。
コレじゃダメだなと改めて人用の大きめな哺乳瓶を出して佐山くんがミルクを作って飲ませる。
「手慣れてんね。」
「まあ、子育てしましたからね。」
「え、子どもいたの、知らなかったんじゃないの?」
「いえ?嫁さんとの間にはいましたよ、一人。作らされたというか。嫁さんは将軍だったんですぐ戦場に戻んなくちゃいけなくて。俺がほとんど面倒見てました。嫁本人は育児してがってましたけどね。獣人は母性が強いですから。幼体のときは虎の姿なんですよ。嫁さんはクオーターだったんですけど、息子の方が特性が強く出ちゃって。まあ、成長早いんで、一歳には人型になって一歳半には剣持って訓練してましたよ。二歳にはもう大人になって、そこは猫と一緒ですね。早すぎません?二歳で俺と同じ年に見えるって。まあ、獣人はそっからが長いんですけど。不老じゃないけど、老化がゆっくりなんで。」
「子どもいたのに何で帰ったの?」
「そいつ、戦争に出ていなくなったんです。三歳だったかな?士気は上がってましたけど、戦力は確実に衰えてた時期です。若いヤツらも駆り出されて……信じられないっすよね?いくら体が大きいとはいえ、三歳ですよ?」
「それは……」
猫は一歳半で大人と言うが、持って生まれた身体能力は高くとも、知能はどうなんだろう。がむしゃらに剣を振るうしか術がない子どもが戦場に駆り出されていた。グレップの皇帝を許せない理由はそれか。
「具体的に言えば生死不明です。遺体、見つからなかったんで。捕虜になったって噂もありましたけど、あの頃は捕虜なんてよくて奴隷ですから。でも、奴隷に収まるようなタマでもないんで。もう何もかもイヤになって、あの国ぶっ壊して帰ったんです。マジで、あの皇帝だけは一生許せないです。もし会っても、不老不死は解きません。永遠に、死ねずに狂ってればいいんだ。幸せなんて、あの男にはいらないんです。魔王様のリハビリだって、いらないんですよ。」
「スキルは使わなかったの?」
「使いましたよ。無限大になって一番最初にしたのは息子の蘇生です。発動しませんでした。だから生きてたってことだと思うんですけど。どこにいるか分かりませんでしたけど、ありったけの力を付与してから帰りました。どうなったかな。」
「調べないの?」
「いても子孫ですから。息子本人じゃないんで。」
「そっか。」
周りで聞き耳を立てていた冒険者から啜り泣きも聞こえる。同情を買ったらしい。同情じゃ軽すぎる。何も言葉をかけられない。
佐山くんの過去が重過ぎる件について。
夏、魔王様のところに連れて行って本当にいいのだろうか。ちょっと不安になった。
「だからクロの世話くらいお手のものですよ!新米ママさんなんだから、俺のこと頼ってくださいね!」
「ありがとう。」
頼りにしてるよ、佐山くん。