コソアード国完全制覇の旅(7)
ダンジョン入口でゴタゴタやってるのは宜しくないということで、わたしは車中泊することになった。後部座席をフラットシートに出来るらしい。助かる。
兵士二人は運転以外に組み立ての事前練習もしたのか、サクサクと椅子を折り畳み車内を変えていく。デンキー氏は目を丸くしてそれを見ていた。
「これはまた便利ですね。」
「そうですね。馬車にもこういうのあっていいと思うんですけどね。」
「発想の転換ですな。これならわざわざ外に天幕を張る必要もない。獣が来ても安全だ。」
確かに。馬車で長距離移動となると必ずしも人里のあるところで泊まれるわけではない。それを考えると、フラットシートは画期的だ。キャンピングカーもいい。荷馬車だとダメだけど。
「クロ〜、今日はここでママとねんねだよ〜。」
少し外に慣れて来たので車内に下ろすと探検を始めた。おしりが可愛い。何故動物は尻の穴まで可愛いのか。
「あ。」
「どうしました?」
「トイレとご飯、どうしよう。」
わたしがそう言うと佐山くんは自分のマジックバッグからモンスター辞典を取り出した。
「モンスターはまぁ、基本は排泄しないんで。たまご生むヤツはいますけど、それは次世代を生むんじゃなくてアイテムです。コカトリスとかバジリスクとか、体の中で要らない金属を排出してる……尿路結石みたいな?」
例えが悪い。あれは痛いんだぞ。すんごく痛いんだ。
わたしが痛みを思い出しているとデンキー氏は佐山くんの言葉に頷く。
「貴重なダンジョン資源です。」
「そうですよね。ただクロの場合は戸川さんの記憶や思考を元にしてると仮定すると、排泄の可能性はあります。普通のシャパリュはえっと……あ、何でも食べますね。モンスターなら毒の耐性は元から強いですし。ゴミ処理にもってこい」
「クロを焼却場扱いしないでくれる?」
「いやいや。SDGsですよ。コカトリスみたいに素材を生み出す可能性はあります。おしっこは……するかなぁ。まあ、トイレ作ってあげた方が同じ場所でするので。排泄物のチェックもしやすいんで。システムトイレの方がいいかな。」
「詳しいね。」
「ウチ、猫いるんで。」
「まさ……石橋さん、猫アレルギーだけど。大丈夫だった?」
「薬飲んで来てるから大丈夫って言ってましたよ。前任者から猫いるって引き継ぎのときに事前に伝えてくれてあったし。」
仕事では薬飲んで猫のいるお宅に行くのに、わたしと猫カフェには行かないのか。無駄に傷付いた。クロがてこてこと駆け寄って、心配そうにミイミイ鳴いている。なんていい子なんだ。抱き上げて頬擦りした。すべすべ〜!ふかふか〜!ちっちゃい〜!細くて潰しそう〜!寝るとき気をつけなきゃ。
「目は見えてるし、乳離れは……まだかな。歯生えてます?あ、頭見えてますね。それじゃ、ミルクと子猫用フード、どっちも出しときますね。」
詳しいな、ボンボンなのに。ペットショップで飼ってきたセレブ猫を飼ってるわけではないのか?、
「うん、お願い。あ、お皿は陶器の白無地にして。模様とか文字とかいらないから。」
「こだわるなぁ。循環式給水器はまだいいか。『陶器製椀内側傾斜付白色無地猫用食器子猫用一個』と。お、二十二文字。ラッキー!」
わたしよりこだわってないか。椀内側傾斜付きって何?それよりも。
「レベル22行ったんだ。」
「ええ、お陰様で。よし、〝実現〟!」
椀内側傾斜付きってコレか。猫が食べやすいってヤツ。続けて水飲み用の食器、猫トイレと出して子猫用フードを出してくれた。
「わ!コレ!」
「やりたいですよね〜?やりたいですよね〜?分かりますよ、でも出しといただけでまだ早いです。生後半年まではダメですよ。」
ここが日本なら絶対にCMに応募してた。ウチの子の可愛さをお見せ出来ず残念だ。
「でもこの子、そこそこ大きいよ?」
「まだ目がキトンブルーなんで。生後一か月するかしないかってくらいです。大きいのは一応モンスターだし元から体格がいいんじゃないですか?大きくなるかもしれませんよ。シャパリュの体長は……虎とかライオンですね。デカくなったら寮じゃ飼えないんじゃないすか?」
マジか。猫は猫でも一応シャパリュなんだろうか。このまま小さくてもかまわないが、大きくなればさぞや美人な猫になるだろう。まだオスメス分かんないんだけど。だけど、急がずゆっくり大きくなってくれよ。子猫期間を堪能したいんだよ。
「そのときはそのときで考える。」
「まあ、領館に住めば解決ですけどね。広いし、遊べるし、バルトさんいるから何かやらかしても色んな意味で安全だし。」
「そうだけど……預けないよ?」
「何でそこで一緒に住むって発想にならないんです?」
「佐山くんと?」
「バルトさんと!わざとですよね、ソレ!!」
うるさいわ。ならないんじゃなくて除外したんだよ。
そんなやりとりをしていたらバルトから電話が来た。わたしのスマホなのに佐山くんに取られてスピーカーで出る。
「もしもーし!バルトさーん!」
『サヤマくん。ショウコは?』
「いますよ〜!猫に夢中でバルトさんのことは眼中になさそうです!」
「そんなことないよ!勝手なこと言わないでよ!ねえバルト!許可取れた!?」
『時間が時間だったからまだ返答は来ないんだ。明日の午後以降になると思う。』
「じゃあ、それまではここにいないとですね。」
「車から出さなければ移動しちゃダメかな?」
『それはソッティラーノの領司と相談する。私が交渉するよ。ショウコには懐いてる?』
「今も膝にいるよ。」
寝る体勢に入ってるよ。フラットシートで正座してるわたしの膝にいる。撫でるの止めると顔を上げて催促してくるの可愛い。ごろごろ言ってる。可愛い。
『そうか。うらやましいな。』
他の人が聞いてるんだけど?本当に本能封印されてんのか?
「み!」
『鳴いた。』
「鳴くよ、猫だもん。ママのなでなでが止まったからですね〜?ごめんね〜?」
『本当に子猫の声だな。名前はつけたのか?』
「クロだよ。」
『そうか。分かりやすくていい。』
「ホラ!」
「お世辞ですよ。」
『姿が見えないのが残念だな。』
「見れますよ!表示されたボタンをタップして下さい。ハイ!」
『ん、これか?ああ、見えた。天井だが。』
「ちょっと待ってくださいね!ホラ、これでどうですか?」
佐山くんはわたしに画面を向けてきた。バルトの顔が映る。バルトはじっと画面のクロを見ている。
『クロ。』
バルトが名前を呼ぶともう自分の名前を理解しているのか顔を上げて声の主を探す。賢い。さすがウチの子。
『こっちだよ。分からないか。』
「ホーラ、クロ?画面見て?パパだよ〜。」
『パパ……』
「パパ……」
「パパ……」
「パパ……」
「パパ……」
とてもおかしなことを言った自覚はある。無意識に出た。バルトと同行者たちのつぶやきが突き刺さる。
『クロ。パパだよ。パパがいない間は、お前がママを守るんだぞ。』
「み!」
まかせて!とでも言うように、クロは体を起こしてぴしりとおすわりをした。可愛い。恥ずかしい。穴があったら入りたい。




