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スルースキルを上げよう(1)

 ところで。スキル訓練なのだが。


「どうだい?訓練は順調?」


 いつぞやのゼーキン氏との面談とは名ばかりの食事会。こういう肩肘張った食事ではなくてその辺の居酒屋にでも連れて行って欲しい。もしくは定食屋。マナーに気を遣うばかりで食事が美味しくない。そのせいで物申すのも忘れたわ。


「はあ。分からないことだらけです。」


「一度、コールしてもらっても?」


 実演して見せろってか。確かにわたしのスキルはその目で見なければ理解出来ないだろう。効果中は見ていても理解出来ないが。


「〝オールスルー〟」


 正面に座るゼーキン氏はその美しくも精悍な顔でキョトンとしている。本当、コイツ顔はいいな。作り物みたいで好みじゃないけど。平凡な顔が何言ってんだって話だが。


「ショウコ?」


 許可もなくファーストネームを呼んではならないと言ったのは貴様だ。あ、違った。わたしの先生であるボード氏だ。だが、名前呼び捨てを許可した覚えはない。いつの間にかタメ口になってるし。

 この国の貴族はとっくに解体されているが、大半が未だ富裕層であるそうで、ゼーキン氏もその流れを汲む家の方だ。上流階級。ハイソサエティ。わたしには縁がないと思っていたが、来訪者は特殊スキルで高収入になる者が多く、上流階級に仲間入りする者もいるらしい。スキルによっては冒険者や飲食店経営、治癒師など職業は様々。収入があっても上流階級のお付き合いは義務ではないと聞いたが、領司がゼーキン氏である以上、多少のマナーは心得ておいた方がいいと、マナー講座も開かれた。なんせわたしはこの国で久々の来訪者。支援期間が終わるとわたしは彼に連れ回される可能性がある。御免被りたい。

 もしやこの食事会もその練習を兼ねているのか?今までゼーキン氏がマナーに口出しをしたことはないが、場慣れさせる意味もあるかもしれない。


 少女漫画ならここで胸がツキンと痛むのだろうが、婚約者に逃げられたアラサーにそんな心のゆとりはない。ゼーキン氏の顔面にドキッとしたこともない。故に、そういう王道展開はありえない。


「ショウコ?」


 また呼ばれた。


「おりますよ。」


 ゼーキン氏はあどけない顔でキョロキョロしている。なんだコイツ。クール系美男子が実はあざと可愛い系だった的なのを狙っているのか。

 食事中、マナーは悪いが仕方ない。わたしは椅子から立ち上がり、ゼーキン氏の真後ろに立った。まだ気付かない。


「〝キャンセル〟」


 キャンセルのルで勢いよく振り向いた。驚いてる。


「どうです?現在のレベルは5。持続時間は三十分。範囲は、そうですね。この部屋の広さの半分くらいでしょうか。」


 貴族が国を管理していた頃の名残で晩餐用の部屋はだだっ広い。五十畳はあるんじゃなかろうか。現在のレベルだといいとこ二十畳くらい。何に使えばいいのか分からないが、密偵なんかには向いてると思う。目指すは忍者かもしれない。


「全く、分からなかった。突然、ショウコが消えて。」


 なんなの、そのたどたどしい感じ。やっぱりあざといなコイツ。


「そういうスキルなので。もう少しレベルが上がったら、街に出て実験することになっています。」


「ああ、報告は読んだよ。治安が悪いわけではないがショウコにとっては慣れない土地だ。気をつけたまえ。」


「ご心配頂きまして恐縮です。」


「その堅苦しい話し方はなんとかならないのか?」


「いえ、領司であり、わたしの保護者である貴方に失礼があってはなりませんので。」


 支援を打ち切られては困るので。まあ、法律で決まってるからそんなことはないと事前に確認はしてある。むしろ以前、顔でモテて中身でフラれると言ってしまったことの方が問題だ。あのときはいいとこのボンボンくらいの認識でしかなかったので、ド庶民のわたしが上流階級の貴公子に対して発していい言葉ではなかった。これからは心内に留めていこう。出来る限り。


 わたしのスキルは訓練を受けるというより、新スキル解明のための検証と言っていい。わたしのみに許されたスキルだそうなので、そういう場合はきちんと記録に残しておく為に実験を行ったりする。

 メイガ・メーガー氏というどこぞの空に浮かぶ亡国の王様(自称)の台詞のようなスキル研究者と共に、日々検証に励んでいる。


 と言っても、レベル上げ自体はただひたすら限界までスキルを繰り返し使うだけなので、面白くもない。メーガー氏の指示の下、屋敷の中を歩き回ったり、物を触ったり、扉を開けたり、そんなことの繰り返しだ。意味がなさそうで意味がある。だが、飽きる。なので、密かに街に出るのが楽しみだったりする。


「街に……」


「はい?」


「街に行くなら、美味い菓子屋がある。そこで何か買って来るといい。店の名前と場所は講師に伝えておこう。カントントという焼き菓子が有名だ。」


「はあ。教えてくださりありがとうございます。」


 これは土産をねだられたか?未だ滞在するノブド国の使者から前払いで報酬をもらったことだし、日頃お世話になっている方々に買ってくるとするか。一応、ゼーキン氏にも。


「通行証は持参しても?」


「あ、ああ。そうだな。他にも必要な物があれば買って来るといい。指輪の売却金も既に入金してある。」


 あの指輪はかなりの高値がつき、今間借りしている離れに広い庭をつけ、馬車止まりまでついた一等地の屋敷を購入して十年は維持出来るほどの金額となった。高値過ぎる。バイキン氏から来訪者の持ち物だったことを公表していいか聞かれて何故かと問うたら、その方が値を吊り上げられると言われた。

 来訪者は故郷のものを大事に手元にとっておく傾向があるので、なかなか出回らないのだそうだ。骨董品のような昔の来訪者の持ち物のコレクターもいる。無事に付加価値がついて、あちらでは車も買えないような値段の指輪が豪華な屋敷に早変わり。ちなみにそんな屋敷を購入する予定はない。


 今後独り立ちしたときのための物件探しは気が早過ぎるだろうか。まだ三ヶ月も残っている。行政からも優良不動産屋を斡旋してくれるらしいので、大人しく待つことにしよう。

お読みいただきありがとうございました!

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