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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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コソアード国完全制覇の旅(4)

祥子さん、ダウナー回。

 電話で……怖い。違う。顔を見て話したい。電話じゃ温度と空気がない。勇気が出ない。そんなことない。話がしたい。嘘。聞きたくない。聞いたら、そこで。


 今の関係は、終わる。


 まだ、覚悟がない。


「おはよーござ、うわ!こわ!」


「失礼な。おはよ。」


「いやいやいやいや、ひでえ顔になってますよ?化粧で誤魔化せてません。」


「欲しいもの思いついた。コンシーラーお取り寄せして。」


「いや俺テレビ通販じゃないですからね!?コンシーラーってなんて書けばいいの!?シミ隠し!?」


 寝れなかった。このわたしが。眠れなかった。


 幸いにも本日は移動。後ろの人には申し訳ないが、助手席のシートを倒して爆睡。寝顔?もういいよ。寝てても寝てなくても関係ないくらいボロボロなんだから。百年の恋も冷めるってなモンよ。それでもギリギリの羞恥心で、ブランケットを頭から被った。


「なんか俺が運転してばっかだな〜。」


 ごめんよ。でもお前が余計なことをして、余計なことを言うからだ、佐山。


 なら、佐山くんが来なかったら?


 そんな無意味なことを考える。いくつかある未来。ジュンさんだって、佐山くんが二度目の転移して来て驚いていた。ソヨウさんの予測した未来に佐山くんがいなかった?それとも、ソヨウさんの夢に出てこなかっただけ?


 分からない。


 自分の気持ちが一番分からない。


 分かってる。でも、分かりたくないだけ。


 あれから一年しか経ってない。


 なのに、ホイホイ新しい男を作るような女にはなりたくない。


 今更だけど。


 母親のようにはなりたくない。


 期待して、裏切られるのはもう御免だ。


 だから、誰かに期待させたくない。


 期待させたくないのに。


「着きましたよ〜!戸川さーん、起きてくださーい!」


 ウジウジしてる間に到着していた。結局寝てない。ドッティラーノ領第三ダンジョン派出所には冒険者が集まっていた。


「それではみなさん!行きますよぉ!?ハイ、〝実現〟!もういっちょ!〝実現〟!もう少しがんばってー!〝実現〟!はーい、オッケーでーす!」


 佐山くんのテンションの高さに頭痛がする。いや、単純に寝不足なだけだな。寝たい気もするが、横になるとまた考えてしまう。


 再び移動。運転は「怖いからやめて!」と佐山くんに止められた。「死にたくないんで」って、死なないように対策してるんじゃなかったの?「心中はごめんです」って、こっちだって嫌だよ。


 わたしは後部座席に移り、体を横にする。シートベルトは……いや、しておこう。念の為だ。この体勢だと首が絞まりそうだけど。


 運転はアーブラ氏。兵士の二人は領館で練習したそうだ。運転手が増えるのは長旅では助かる。そういや、そういうバラエティ、あのクズ好きだったな。地方局の番組で、何度もローカルで再放送してるヤツ。ああいう旅がしてみたいと言われて、いってらっしゃいと言うと微妙な顔をされた。そういうところだ、わたしのいけないところは。だけどあの時は気付けなかった。

 何でこんな時にあのクズのこと思い出すんだろう。自分の欠点が浮き彫りになる。


 あの夜のバルトのような熱のこもった瞳で、あのクズから見られたことがあったんだろうか。もう忘れたな。


 少しだけ眠れた。わたしが起き上がると運転席にはアーブラ氏ではなくロコンデ氏が座っている。佐山くんは二列目の席に移動していた。運転は安定している。さすがと言わざるを得ない。馬よりカンタンですね!と笑っている。


「そういや戸川さん、百貨店に勤めてたって、何処だったんですか?」


 突然、仕事の話を振られた。今はあんまり考えたくないんだけどな。


「銀座の……」


「ああ〜、ウチにも来てましたよ、外商の人。」


 マジもんのボンボンだった。佐山ママンのお気に入りの外商の人の話を始めた。やだな。やめて欲しい。


「前は女の人だったんですよ。でも担当変わって。石橋さんっていうんですけど。知ってます?」


「知ってるよ。石橋雅樹でしょ。」


「そーです、うわぁ、世間て狭いなぁ!」


 何でその名前が出て来るんだろう。最悪だ。


「そろそろ結婚するって聞いて、何かお祝い用意しようかって母が張り切っちゃって!同じ店では買えないし、よその店の物もどうかなって個人の店で何かないかなーって。そういうの、知ってます?」


「あんまり……。でも、工芸品とか好きだよ、あの人。」


「そうなんですね!帰ったら教えとこ。忘れないといいけどな。」


「子どもも産まれるみたいだから、赤ちゃん用品でもいいんじゃない?」


「え……まさか……」


「まさかだよ。デリカシーないね。」


「うわ!すみません!ええ〜!?そういう人に見えなかったけど、うわぁ〜!」


 そういう人に見えなかった。わたしも佐山くんも、人を見る目がないんだ。アイツが異動する前に一緒に働いてて、そこで口説かれた。


 〝戸川さん、社食あるのに弁当なの?〟


 〝手作り?うわ、すごいね。〟


 〝え?いいじゃん。茶色い弁当でも。家庭的でポイント高いよ。〟


 〝俺、キャンプ趣味でさ!料理出来るなら今度一緒に行かない?〟


 きっかけはそんなモンだ。陰のわたしに陽の雅樹。何で声をかけてきたのか、今でも知らない。


 職場の先輩から恋人になって、恋人から夫になるはずだった。わたしがいなくなってどうしているのか。


「あっちで戸川さんのことニュースになってないかな〜。」


 この男、本当にデリカシーがない。以前のバルトより悪い。ただの好奇心じゃないか。


「うわ、出てる。」


「やめて。」


「石橋さん、疑われてる。」


 だろうな。痴情のもつれで、同じ職場で、結婚することをたくさんの人が知っていて、土壇場でアレだ。わたしは携帯も財布も何も持たずにこちらへ来た。靴すらも履いてなかった。


「総叩きですよ。見ます?」


「バカなの?ほっといてよ。」


 他の同行者もいるのに。殴ろうかな。こんな狭い車内じゃ、スキルも役に立たない。世界から認識されなくても、わたしは世界を認識出来るのだから。


「立件は出来ないでしょうけど、詰んだな、コレ。社会的に死亡間違いなしですわ。」


「自業自得だよ。」


「いや代償大き過ぎません?」


「どうしようもないでしょ。わたしだって来たくて来たわけじゃないんだから。」


「まあ、そうですよね。そりゃそうだ。」


 佐山くんは他のニュースに興味が移ったようで、その話はさっさと切り上げた。


 クソガキが。余計なことしやがって。


 罪悪感なんて、いらなかったのに。ざまあみろで、終わらせておきたかったのに。

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