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コソアード国完全制覇の旅(2)

 コトン、カツン、カラン、という音がして目が覚める。


「ん、あれ?」


 金銀財宝が増えとる。天井から落ちてきてるのではなく、泉のように下から湧き出て山をなし、押し上げられて転がっている音のようだ。

 ダンジョンにはモンスターやアイテムが出やすい場というのがあって、そこから鳥がたまごを生むように取り込んだ記憶を元に何かを生成している。その何かの得体が知れないのが怖いんだが。


 新しく生みだされている財宝の山は子どもが砂場で遊びで作ったにしては大作程度。それでも一分から五分に一つは湧き出ている。先程に比べれば小ぶりではあるが、オークションに出した指輪よりは大きいくらいのものが大半を占める。なんだあれ。

 かき分けて見れば、床が勝手に動いて粘土のように形を作り、コロンと離れて床に転がり落ちれば一瞬で貴石になった。佐山くんはダンジョンを3Dプリンタと表現したが、土の動く様は子どもの粘土遊びのようだった。


「ふうん。こんな風に出来てるんだ。ていうか、動きがスライムみたいだな。」


 スライムはダンジョンの中で一番知能の低い生物だ。何か関係があるのだろうか。スライムも見ようによって可愛いよな。ぷにぷにしてるし。わらび餅みたいだし。一パック百円のヤツ。食べたくなってきたな。佐山くんにお願いしたら本格的なわらび粉を使ったわらび餅が出て来そうだ。そうじゃない。あの安っぽいヤツが食べたいんだ。


「そろそろ出るか。〝オールスルー〟」


 もちろん、後から出来た財宝はゲット。しばらく観察していたがキリがないので終わりにした。


 来た道を戻るつもりで扉をすり抜けたら、同行の護衛兵であるアーブラ氏とコロンデ氏が蒼白顔で待っていた。扉の前は少し広い空間になっているので、ここでキャンプをしていたようだ。冒険者でいえばAランク相当の二人。中層階ならお手のものなのだろう。


「〝キャンセル〟どうしたんですか?」


「トガワさん!よかった!無事だった!」


「はあ、どうにも出来ないので困っておりました。そろそろドッティラーノ支部に支援要請をしようかと。」


 どういうことかと首を傾げると、二人は顔を見合わせた。


「つかぬことをお伺いしますが、中では何をされていたのですか?」


「あ、すみません。眠気が来たので少し仮眠を取ってました。でも、今日中には帰るつもりでしたよ?」


 アーブラ氏は嘆息して「そういうことか」と呟いた。するとロコンデ氏が苦笑しながら状況を説明してくれた。


「トガワさんがダンジョンに入って今日で三日目です。丸二日、眠っておられたんですよ。」


 マジか。またか。何故だ。今回は命の危機はなかったぞ。寝てる間に開かずの間で何かあったのか?


「とにかく戻りましょう。ああ、我々は我々のペースで参りますからお気になさらず。」


 モンスターと戦いながら進むAランク二名と、モンスターもトラップも全て無効のわたし、どちらが移動が速いかは検討がつかない。


「もし先にそちらが出た場合はわたしのことは待ってなくていいので。あの、佐川くんとデンキーさんに無事だと報告してもらえませんか?心配させたと思うので。」


「分かりました。体調にお変わりないですか?」


「頗る元気です。むしろいつもより調子がいいくらいで。」


「ならば結構。では、参りましょう。」


 トコトコ歩いて追い越し追い越され、結局ほとんど同時にダンジョンから出ることになった。


「戸川さん!」


 佐山くんはわざわざ外で待っててくれたらしい。こちらも顔面蒼白でわたしに駆け寄って来た。確かに弟みたいだな。いや、わんこだな。わんこ飼ったことないけど。


「だ、だ、だ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫、寝てただけだから。ごめんね?心配かけたよね?」


「良かったぁ〜!いや、ホント良かった!飲まず食わずとか色々かけてたから大丈夫だとは思ってたんですけど、連絡つかないしホントもうすごい怖かったんですよ何で笑ってるんです!?」


「いや、可愛くて。」


「バカにしてます!?心配したんですよ!?」


「分かってる。ごめんね。」


「バルトさんにすぐ電話してください。」


「いやでもまだ仕事中」


「してください。死にそうな声でした。すぐ立て直して平静装ってましたけど、死ぬほど心配してるはずです。本当は飛んで来たいはずなんです。お願いだから連絡してあげてください。」


 前だったら本当に飛んで来そうな勢いだったけど。第三で見たあの人の背中に安堵を覚えた。あの感覚が何故か蘇る。そういや、佐山くん見つけた時もすごい慌ててたな。連絡した方が良さそう。


 スマホを取り出し、電話をかけると五コール目で出た。慌てたのか床に落としたような音がした。


『ショウコか!?』


「うん。バルト。」


『無事なのか!?』


「大丈夫。ごめん、いつもの来訪者の眠りになっちゃったみたい。仮眠のつもりが寝過ぎちゃって……。」


 バルトは大きく息を吐く。何故かドキリとした。


『そうか……側にいられなくてすまない。危険な目には合わなかったんだな?』


「それはもう。扉の中で寝てただけだし。モンスターも出なかったみたい。」


『レベルが51になるまでは泊まりがけはやめてくれ。仮眠もだ。こっちの心臓が持たない。』


 こんなにハッキリ言われると思わなかった。前ならムッとしただろうが、今はそうでもない。これだけ人に心配かけといて、そんな我儘は許されないと思った。


「そうする。無理しない。約束する。ね?」


『頼む。ショウコ。』


「ん?」


『私を置いていかないでくれよ。』


 置いていかないで。それは、かつてのわたしの言葉。思い浮かぶのは母の顔。その後、何故か、顔も知らぬソヨウさんの姿が頭に浮かんだ。


〝死んで欲しくなかった〟


 バルトはお母さんに死んで欲しくなかった。例え、自分が生まれなくても。


 番のいる種族は、番が死ねば孤独という地獄に叩き落とされる。


 わたしはまだそんな覚悟が出来てない。


〝俺のレベルが無限大になったら、一緒に帰りますか?〟


 即答出来なかったのは、日本への未練じゃなかった。


 その事に気が付いた。

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