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コソアード国完全制覇の旅(1)

「ここがドッティラーノ領の領都ドノかぁ。」


「早かったね。」


「昼休憩から一時間半で着きましたからね。東京と京都くらいかな。名古屋か?」


 ここからドッティラーノの領軍の持ち物強化、冒険者ギルド支部所属の冒険者の持ち物強化、身体強化まで出来るらしい。まとめてガッと一発っすよ、と佐山くんは笑っている。


「コノに住むつもりだから心象良くしたくてサービスしてるだけです。俺、基本はめんどくさがりなんで。」


「字数稼げないけど?」


「言ったでしょ?焦ってないって。」


 まあ、そうだけどさ。


「そういえば、〝実現〟でレベル上げらんないの?」


「それも無限大ですね。無限大は本当に可能性無限大ですよ。ほとんど使わずに帰りましたけど。」


 無限大すごいな。どれくらい書きまくれば無限大になるんだろう。


「ではみなさん整列してください。そのままですよ。動かないでくださいね。すぐ済みますので。」


「行きますよ〜!〝実現(リアライズ)〟!ハイ、もう一回!〝実現〟!最後にもう一枚!〝実現〟!ハイ、結構でーす。」


 記念撮影みたいだな。


 今回使った『武器硬度上昇攻撃力強化』みたいなざっくりした文は目に届く範囲なら〝実現〟可能なんだそうだ。それ以上やそれ以下は効果範囲を指定しなければならないらしい。こちらの固有名詞を当て字にしても効果は発揮されない。『敵国国王無人島転移』で、目標とした国以外の国王も飛ばされた事例があるそうだ。国王自身がグレップに対して敵意を持っていたのだろうだと佐山くんは推測している。

 そういや、ノブドから面会申し込みが来てるって。またあの人たちが来るのだろうか。


 領軍の兵士たちは訓練されているからか平静を装っていたが、冒険者の中には恐れをなして逃げようとする者もいた。文字を向けられても理解出来ないので呪詛のように見えるようだ。紙を出した瞬間に「ひい!」と声を上げてうずくまる者もいる。


「いや〜、ホント俺怖がられてんな〜。傷ついちゃうぞ。」


「子どもの頃から刷り込まれてますからね。実在していた上に本人が目の前にいるとなれば恐怖に感じるのでしょう。」


「みなさんは最初から怯えてませんでしたよね?」


「まあ、伝説の来訪者とはいえヒューマンですから。言葉が通じる相手なら交渉も出来ると思いまして。」


「あはは!有無を言わせぬ相手じゃなくてよかったですね!」


「それとトガワさんの存在ですね。同じ世界の同じ国出身で善良な方ですから。平和で豊かな国で、似たような時代から来たと仰っておりましたし、サヤマ殿の行為は国家による虐待の結果ですから。ある意味当然の報いと言えます。」


 わたしは善良なんじゃなくて無害なだけだ。スキル的にも、種族的にも。


「そう言ってもらえると少しだけ心が軽くなります。さ!明日も頑張るぞー!」


 佐山くんはそおどけたけど、瞳にはまだ後悔が宿っていた。


 翌日からはドッティラーノ内のダンジョン行脚。運転はわたし。


「作業場って必要だったの?」


 結局現地に赴いているのならいらなかったのでは?と思ったのだ。絶対に行かないと言っていた首都も今回の行程に入っている。どうして気が変わったのか。


「あー、作業場は基本、他国からの依頼用って感じですね。新規案件もですけど。あっちこっち行って周るのは今回限りです。要はパフォーマンスです。コソアードに対して害意はありませんよー、というのを見せつけてるんです。」


「仕事じゃなけりゃ楽しいんだけど。」


「あはは!第二ダンジョン、頑張ってくださいね!俺、外で待ってるんで!」


「佐山くんが開けた方が早いよ。一緒に行こ。」


「やですよ。俺、虚弱ですもん。体力ないです。」


 なんだよ、もう。まあ、わたしの単独依頼だし、わたしがやるのが筋なんだけどさ。


 第二ダンジョンの宿泊施設に到着。車が注目を浴びる。死神の馬車と叫ばれた。霊柩車じゃないんだから。


 派出所のギルド職員と打ち合わせをして、報酬の詳しい取り決めなどをする。買取価格に一割上乗せだと言われた。破格である。自ら所属外のダンジョンに訪れた時は換金時にむしろ手数料を多く支払わねばならないが、名指しの依頼は上乗せになるようだ。難易度の高いミッションなんだな、開かずの扉。


 翌日、サクサクと支度をして出発。朝早いので一人で出る。少し無理して起きた。同行者はまだ夢の中だ。最近、抜け道の更新があったようで、正規ルートで降りることにする。上層階は特に問題ない。中層階では場所によっては支道が支道に見えないので注意が必要だ。


 早めの昼休憩を挟み、お昼過ぎには開かずの扉前に到着。すり抜け……出来そうだ。


 分厚そうに見えたが思いの外薄かった。見せかけなのだろうか。


 構造を探る。これが今回の主目的だ。開けられなければ意味がない扉。

 佐山くんが初めて会った時に言っていたダンジョンの取説は〝実現〟して、現在研究家によって解読が進められている。取説と言う割に曖昧な表現も多く、聞いたことのない専門用語もあるので、古代の文献をひっくり返しているそうだ。

 ダンジョンは訳が分からない存在ではあるが、案外理論的な構造になっていると佐山くんは言う。詳しい説明を聞いても知ってるから何とかなるようなものでもなかった。賢い人がうらやましい。

 ダンジョンの取説には開かずの扉の項目がなかったがトラップのひとつに似た記述を発見。構造に間違いないかを調べるという仕事を任せられている。


「あー、ここが?ふーん、こうなんだ。それで?へー。こうなってんのか。③のやつだな。」


 トラップのパターンがいくつか描かれており、今回の扉は三つ目に描かれているものだと思う。なかなか気付かないよな。同じ階に扉の開閉ボタンがないなんて。違う階層で連動してるトラップなど聞いたことがなかった。開閉ボタン自体も巧みに隠されている。そこを押すと扉が開き、一定時間経つと閉まってしまう。これは一つのパーティじゃどうにもならない。連携取らないと。今までも棚ぼたでお宝ゲットした人もいそうだなぁ。


 構造は把握したので、室内を調べる。山のような金銀財宝である。サクッとマジックバッグにしまう。案外簡単だったな。う。眠気が来た。ここ最近の昼寝は一時間もすれば目が覚める。一時期日中は続けて起きられていたのに、また昼間に睡魔が襲って来るようになった。小さな仕事をコツコツこなす感じで日々を過ごしていたので、ダンジョンには余り潜っていなかったのだが。

 いいや。このまま寝てしまおう。目覚ましなどなくとも体は勝手に起きるはずだから、一時間くらいなら問題ない。モンスターもいない。今いないんだから、きっと出て来ない。


 そう思って、わたしは寝袋を取り出して眠りについた。

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