死神の降臨または佐川由紀人の再訪(5)
飲み会から翌々日。ドッティラーノへ出発する日。
深酒の悪夢は内容は覚えていない。ただ、とてもイヤな夢だったことだけは分かる。寝汗もすごかった。
佐山くんの運転で寮まで車で迎えに来てもらった。荷物は全てマジックバッグの中。長期出張でも荷物が少なくて済むのはありがたい。
バルトが馬で並走してわざわざ見送りに来てくれた。わたしたちが帰る頃には佐山くんの作業場も完成しているだろう。
長期出張中にわたしはこの世界に来て一年を迎える。良いことではないから記念日にもならないので別に気にしないが。悪いことでもないが。
「連絡する。まだ慣れてはいないけど。」
サヤマくんはバルトにもスマホを用意した。新たにアカウントは作れないそうなので、自分の携帯と同期させた。日本語は読めないから、メッセージは送れない。ほぼ電話用と言っていい。
「うん。わたしも電話する。忙しかったら無理に出なくていいからね。」
「出るよ。声が聞けたらうれしいから。」
「ひゅーひゅー!お二人さん、お熱いですねーっ!」
「なんでコレで付き合ってないの?」
「さあね。ショウコが素直じゃないからかな。」
「ちょっと、キョウちゃん?」
「うらやま死刑。」
「ハンちゃん!?」
寮のみんな、フェイちゃんはお嫁に行ってしまったので、ジュンさん筆頭にキョウちゃん、ハンちゃん、ハナちゃんが来てくれている。メニちゃんとシーラちゃんはダンジョンに泊りがけなのでいない。お土産リストだけはしっかりと渡されている。餞別を渡す習慣はない。あ、結婚式も披露宴もなかった。パーティはしたけど。ウエディングドレスを着て神様に誓う的なことはない。上流階級はお披露目会はするが、わたしの考えるような披露宴ではなかった。ただの夜会だ。
おい、佐山。お前、ハナちゃんの胸にずっと目がいってるぞ。はちきれんばかりの巨乳だからな。目がくりくりした小動物系でかわいいし。でも彼氏いるぞ。処女厨だろ、お前。
「変な乗り物!」
「馬車より全然いいよ。」
「サヤマ。コレ、今度アタシにもちょうだい。」
「金取りますよ?コレ、日本でも1000万はしますけど。」
「金ならあるわよ。1000万支払えば良いの?」
「エルフすげえ。1000万ポンと出せんだ。」
ドイツ車のミニバンで最高グレード、内装も椅子は本革、座り心地が良い。当て字は当て字でも日本で使われている当て字はOKらしい。『独逸製電気自動車乗車定員六名最高級仕様車』と書いていた。
別れを済ませて出発。山道を抜けて平地に出たので、一息ついてまた出発。かねてからの疑問を佐山くんにぶつける。
「ねえ。佐山くんてもしかしてもしかしなくてもおぼっちゃま?」
「えー?まあ、親が会社やってるんでそこそこ金はありますけど。俺の友だち、もっととんでもない金持ちいっぱいいますよ?」
お金持ち多い学校ってイメージだからな、佐山くんの大学。お金持ちで頭良いのに何でちょっとダサいのだろう。謎だ。
「何学部なの?」
「経済です。」
「え、意外。漢検一級だから文学部かと思った。」
「資格取るのは趣味です。」
他にも色々と資格を持っているらしい。ハイスペックじゃん。なのになんで以下略。
「そろそろトバしますよ〜!」
「ぐあ!」
「うぐ!」
「ふぬ!」
「ちょっと!いきなりベタ踏みしないでよ!」
「だって日本だとこんなスピード出せないじゃないですか!安心してください!事故んないように効果付けといたんで!」
「そーゆー問題じゃなぁぁぁい!!!」
速度が安定したらオートクルーズ機能を使い、時速200kmでほぼ直進の平地を進む。アメリカの西部劇の舞台みたいだな、ここ。見たことないけど。
佐山くんのベタ踏みから二時間走って休憩。持参の弁当で昼食を取る。だだっ広い荒野だ。これから先も景色が変わらん。
「なんかアメリカみたいっすね、ここ。」
「そうだね。」
「最初の山抜けるのに時間かかったし、コノからここで450kmくらいかなぁ。」
もしかして計算してたのか?確かに地図見ても縮尺が分からなくて距離感が掴めない。
「コソアードって結構広いですね?」
佐山くんの質問に答えたのはデンキー氏だった。今回の同行者の選抜は佐山くんを怖がらないというのが基準らしい。領館の人たちは怖がってる様子はないが、離れの使用人はまだ怯えている者もいるそうだ。佐山くん、暮らしにくくないのか?一人暮らしは安全面が不安だからと領館内に建てている作業場に居住スペースを作ってそこで暮らすと言っていた。清掃員だけお願いしたそうだ。
「そうですね。この大陸では五番目に国土が広いので。」
「そんなに大きくないって最初に聞きましたけど。」
「上位の三国が広大ですからね。それに比べればの話です。」
「サーイダーイとマンナーカとキョダインでしたっけ?」
「よく学んでおられますね。その通りです。」
「サーイダーイは結構グレップとやり合ったんで。マンナーカは表向き中立国でしたけど。キョダインは知らないなぁ。」
「二百年前に出来た連合国家ですからね。グレップ帝国の時代ですとコーモノとシターパ、ヨワーイ、サイジャック、他数国だったところです。」
「ああ、そんな名前だった!コソアードは名前だけ知ってましたけど、間のマンナーカをどうにも出来なくて、敵に回すのも怖い国ですし。あのクソ皇帝も攻めあぐねてました。」
「まさか、コソアードまで来るつもりだったのですか?」
「あの人の夢は世界征服でしたから。大陸全土を手中に収めることはただの足がかりです。デッカイード大陸が終わったらハーバヒロー大陸に攻め込むつもりでいましたよ。そんなんしたって目が行き届くわけもなし、アホな皇帝でしたよ。俺が来て欲が増した感じはしましたね。お前がやるくらいなら俺がやるっつーの。めんどくさいですけど。」
今は魔王様に保護されてリハビリ中。現在、彼は何を思っているのだろう。佐山くんの再訪を知っているのだろうか。
「それを考えると、サヤマ殿は死神ではなく救世主ですな。」
「いや、俺も結局人殺しなんで。イヤイヤでも戦争に加担した時点で共犯者です。今回の協力だって、罪滅ぼしみたいなモンです。戦力の強化はしますけど、その力は弱者を救うために使ってください。そういう約束を国としてます。もしそれを破るんなら、それこそ俺は死神にでもなるつもりです。」
正直、驚いた。彼の覚悟に。小さいことでうだうだ言ってる自分がとても愚かしいように思える。
「立派な志だね。」
「人殺し宣言してますけどね?死者の蘇生は無限大になんないと出来ないんで。理を超えるのは大変なんすよ。」
「佐山くんのことだから、死んだ人蘇らせたんでしょ?」
「そりゃそーですよ!戦争犯罪者になんかなりたくないですもん!最後のアレで亡くなった人には申し訳ないですけど。死者出すつもりじゃなかったんです。ちょっと困ればいいなって。俺のお陰で勝ち続けたせいで国民全体が戦争継続に民意が傾いてましたからね。それがイヤだったんです。安易に力を使うと、とんでもないしっぺ返しが来るんだぞってこと、分かって欲しかっただけなんです。ま、今更復活させても浦島太郎だと思うし、やりませんけど。」
「ウラシマタロー?」
「日本のお伽噺です。時間の流れが違う空間に行って遊興に耽って家に戻って来たら何百年も経って家族知り合い誰もいなくなってたって話です。」
「何だか、来訪者と少し似ていますね。」
「まあ、俺は玉手箱は開けないし、いなくなった時間に戻りますけどね。戸川さんはどうします?」
「え?」
急に水を向けられて戸惑う。
「俺のレベルが無限大になったら、一緒に帰りますか?」
わたしは即答出来なかった。
未練などない。そう思っていたのに。




