死神の降臨または佐川由紀人の再訪(4)
さて本日は面会日。全国ギルド行脚の日程が決まったので前倒しで。まとめて済ませた方が楽なんじゃないかと思い、佐山くんと一緒にと言ったら、二人きりがいいと言われた。
あっちは佐山くんが領司室を訪ね、毎日何かしらで顔を合わせているらしい。なんだよ、仲良しだな。いや、仕事の話なのは分かってるけど。
「なんだか機嫌が悪い?」
「そんなことないけど?」
「言い方に棘がある。」
「気のせいだよ。」
「やっぱり棘がある。」
「だから気のせいだってば!」
自分の声の大きさ、キツさに驚いてバルトを見上げると、怒りもせず、ただひたすら心配で仕方がないという顔をしている。
「ごめん。」
「気にしないで。もしかして体調が悪いのか?今日はもう帰ろうか。」
「いいよ、面会は義務なんでしょ。」
「確かに義務付けられているが、実際は報告書で事足りてる。」
「ふうん……。」
じゃあ、別に会う必要ないんじゃん。忙しいのにわたしに時間割かなくていいよ。
佐山くんが来てバルトは俄に忙しくなり、わたしと会う機会が減った。まあ、第四ダンジョンの発生から始まってることだけど。滅多に連絡も取れない。忙しいのに煩わせたくなくてこちらからは連絡をしていない。なのに、佐山くんとは毎日会っているということにモヤモヤする。それを悟られたくない。
ひねくれてるな、わたし。
「ショウコ。」
「何?」
「不安?」
「何が?」
「コノを離れるのが。」
「そんなことないよ。ちゃんと帰って来られるんだから。面倒臭いなとは思ってるけど。」
「なら、寂しいのか?」
「そりゃあ、まあ。でも、三か月だよ?大人の三か月なんてあっという間だよ。」
「私は寂しい。この二か月も、面会日以外会えなくて寂しかった。なのに、三か月もショウコが不在だなんて。」
馬車で行った場合の日程だから、実際にはそんなにかからないと思う。それはバルトも分かってる。佐山くんもかなり時間は短縮出来ると考えている。それを知らないはずがない。それでも結構な日数を取られるのは間違いないが。
「佐山くんに会えなくて、じゃないの?」
自分でも嫌味っぽいと感じる言い方だった。なんてこと言ったんだ、わたしは。これじゃまるで嫉妬じゃないか。佐山に負けたと思ってるのか?佐山は男だぞ?いや、そもそもこんなもん勝ち負けじゃない。輪郭がはっきりしていく気持ちを必死にぼやけさせようとするが、そうするとますます不快感が増す。
バルトが言い返して来ないので、逸らした視線を再び向けるとキョトンとしていた。
「何故だ?」
「何でって……毎日会ってるみたいだし?そういう人がいなくなったら、寂しいかなと、思っ、て。」
言い淀むのは自分でもおかしいと感じているからだ。やだな、こういうの。
「寂しいし、心配だよ。なんというか、彼は、協力者でもあり、弟のような存在というか、最初に怖がらせた私が悪いんだが、警戒心が解けてこう、懐いてくれると、嬉しいものだなと。ショウコ?」
「何?」
「眉間に皺が寄っている。」
無意識だった。なんてことだ。これじゃ不機嫌であると自ら言っているようなものだ。
「バルトはわたしの番なんでしょ。」
「うん。」
「忙しくてもちょっとでもいいから会いたいと思わないの?」
「思うよ?」
「なら、どうして連絡くれないの。連絡くれれば、会いに行くのに。」
「迷惑かなと思って。毎日疲れてるだろう?」
「最近は体力ついてきたから少しくらい無理しても大丈夫だよ。」
「無理はして欲しくない。」
「なんで?」
「ショウコの邪魔になりたくないからかな。」
「なんで邪魔になりたくないの。」
「好きだから。それ以外にあるか?」
「本当は会いたいと思ってるのに?」
何故かバルトは困惑した顔をした。こんな可愛くない女なんだよ、わたしは。番?だから?自分勝手で我儘な女でも、番なら愛せるっての?
「その言い方だと、ショウコの方が会いたいと思っているように聞こえる。」
「そんなことは」
「ない?本当に?」
「友だちには会いたいモンでしょ。」
「顔を合わせる機会の多いサヤマくんに嫉妬するくらい?」
「嫉妬してない。」
「そうか?こういうのを嫉妬というのだと思ったんだが。」
自分でもそう思ったよ。これは嫉妬は嫉妬でもアレだ。幼稚園児とか小学校低学年女子にありがちな、わたしの友だち取らないで案件だ。そうに決まってる。
「それより、次、何飲む?」
居酒屋で飲むのも当たり前になった。白ワインを注文して、一本空けてしまった。
「やば、足、ふらつく。」
「今日はペースがやけに早かったからな。おぶるか?」
「いい。振動で吐くかも。」
「なら、腕に掴まって。」
「それもやだ。また噂になる。あー、佐山くんがいればなぁ!アルコール解毒してもらえたのに!」
後半のわたしはやけ酒に近かった。自己責任だ。
「呼んでくるか?」
「いい。領館遠いし。待ってるくらいなら帰る。」
「ショウコは私と噂になるのは嫌?」
「別に相手がバルトだからじゃないよ。人様に面白おかしく言われるのが嫌なだけ。」
「それはそうだな。」
私なんかよりもゴシップ対象になりやすいのはバルトの方だ。見合い連敗を好き勝手書かれて傷付いたと言っていた。確かに他人事なら面白いが、当事者になると不快感しかない。
「うわ!」
「ショウコ!」
急に膝がガクンとなった。バルトが支えてくれなきゃ地面に膝打ってたな。助かった。
「やっぱりおぶるよ。吐いてもいい。」
「お願いします……。」
繁華街は既に抜けて住宅街に入っていたので人通りは減っていた。大人しく背負われて寮に戻ると、ジュンさんに呆れた顔をされてしまった。その夜は、とても夢見が悪かった。




