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死神の降臨または佐山由紀人の再訪(2)

「お、おねがいじまず!」


 腰がひけている。


「はいよ!〝実現〟!いっちょ上がり!」


「次の方ぁ〜。」


「ひえ!は、ひい!」


 屈強な冒険者がもやしに何を怯えるのか。それはただのもやしだぞ。


 佐山くんはスキルレベルはリセットされてしまったが、この世界に体が馴染んでいるのかあんまり眠くならないらしい。わたしなんてもうすぐ一年だというのにまだ眠いぞ。


 今日は冒険者ギルドコッティラーノ支部にて武具防具の強化を行っている。コッティラーノ領兵の分は終了し、他領の兵士の物は送られて来ているが、冒険者ギルドは各地を周って強化を行う。これは国家権力アレルギーの佐山くんが「ギルドは地域の消防団みたいなものだからいいけど、軍は国の組織だから近付きたくない」という我儘?からである。グレップ帝国と違い高待遇で、コッティラーノは刺激がイマイチ足りないがそれはあの時代の日本に住んでりゃこの世界の何処行っても同じことなので、コノを拠点に活動することにしたそうだ。

 本日のわたしは領からの依頼で佐山くんの助手。役人の中でもやはり伝説の来訪者ユキヒト・サヤマを恐れる者がおり、ギルドでも似たようなことになるだろうということで、緩衝材として強化付与をわたしが取り仕切ることになった。


「次の方どうぞ〜。」


「なんかショウコ、いつもと違う。」


「そう?あっちで仕事してた時はこんな感じだったよ。接客業だから。」


「お客さん、何にします?」


 佐山くんはよく分からないノリで冒険者たちに声をかけている。誰かは知らないがどうやらビビり過ぎて失禁者が出たと聞いた。なるべく明るく振る舞ってイメージを払拭したいのかもしれない。


「キョウちゃん、どうする?武器の強化以外になんかある?」


「うーん、ブーツが傷みやすいからそれを何とかしたいのと、あと、水虫対策?」


「それな。」


「えー、お姉さん美人なのに水虫なんすかぁ?いて!暴力反対!」


「君にはデリカシーってもんがないの?」


「そっちが先に言い出したんじゃないですか!」


 わたしが佐山くんの頭を叩いたからか、順番を待っている冒険者たちはざわつき始めた。だからコイツはただのもやしなんだって。


「えーと、靴もだけど足に直接滅菌効果つけとくってのもアリですよ。」


「有機生命体に付与出来ないって言ってなかった?」


「レベル20到達したんで大丈夫っす。」


 ニヤニヤしてるのが気になる。まさかこいつ。


「セクハラしようとしてない?」


「してないですよ。100%心からの善意です。」


 わざとらしいキリリ顔がイラッと来んな。


 キョウちゃんは椅子に座ってブーツを脱ぎ、足を出した。佐山くんはいそいそと『除菌』『滅菌』『抗菌』と二枚ずつ書いてキョウちゃんの足を片方ずつ包み込むように触ってスキルを発動させた。そんなに触る必要なくない?やっぱ下心満載だな。


「これで一生、水虫や菌による皮膚病には無縁ですよ。あ、ちなみに全身かかってるんで。」


「ふうん?全身?」


「はい!効果を足に限定しなかったので!」


「それなら足を出してもらう必要なかったよね?二度も付与する必要なかったよね?」


「あ、やべ。」


「佐山ぁッ!」


 逃げようとする佐山の首を絞めていたら、キョウちゃんが吹き出した。


「ぷ。あはははははは!」


「え、何で笑うの?コイツ、キョウちゃんにセクハラしたんだよ?」


「いや、だって、伝説の来訪者とか死神とか言われてたのに、なんかショウコといると全然、なんか弟みたいなんだもん。いいよ、効果に免じて許してあげる。次にやったら斬るけど。」


 わたし、ひとりっ子なんですが?こんな弟、いらないわ。


「やっぱ冒険者怖ッ!」


「なんもしなきゃいいんでしょ!」


「ぐえ!」


 罰としてそこにいた全員に同じ効果を付与させた。手が痛いと文句を言っていたが、キョウちゃんが隣で剣をチラ見せすると「ひい!」と叫んでまたペンを走らせていた。


「マジ怖いっすわぁ〜、戸川さんが一番怖いけど。」


「アンタが余計なことしなきゃ怒んないよ。」


「あー、『無病息災』で全部済んだんだった!忘れてた!無駄に字書いた!」


「いいじゃん、字数稼げたでしょ?」


「んな、レポートみたいな。あんなチマチマした字数じゃ埋まんないですよ。」


 レベル20だもんな。1000×20で20000字?それくらいなら何とかなりそうなもんだけど。


「なんか二十文字でいい案ないですか?」


「前はどうやってレベル上げてたの?」


「戦争してたんで50までは一発デカいの当てて俺はその後は気絶してました。あんまりにも慣れないから、邪魔だってんで前線外されましたけど。」


「例えばどんなの書いたの?」


「えーと、こっちの国名とか個人名の当て字は使えないんで、『敵軍全滅』とか。文章にするときに接続詞を漢字で書いてみたんですけどダメで。ひらがなだって元は漢字だってのに。何かしら指定したいことがある時に『尚』が使えたのはデカかったなぁ。漢文ぽいけど完全な白文は使えないんです。それが結構面倒で。それが出来りゃ、結構簡単なんですけどね。」


「白文ってなんだっけ。」


「漢字だけの文です。漢文の原文すね。」


「訓読文とか書き下しとかのアレかぁ。懐かし。」


「アンタたちの世界の言葉、複雑過ぎるわ。」


 現在、お昼休み中。医務室に詰めているジュンさんは基本支部にいる。派出所勤務の人が手に負えない時だけ出て行くのだ。その他の業務として、町医者的なこともしている。冒険者は無料で治してもらえるけど、一般の人からはお金を取っている。ギルドによる社会貢献の一環らしい。大概のことはジュンさんで済むからな。魔王様もだけど。


「ジュンさんて、前回俺が来たとき産まれてました?」


「次に聞いたら一生口をきけなくするわよ?」


「ぎえ!もうやだ!ここの人たち物騒!」


 ジュンさんに年齢の話は禁句って言うの忘れてた。


「ニホンからの来訪者はスキルが独特ね。」


「ちなみに日本というのは国名であって、俺たちのいた星は地球って言います。」


「他にも地球から来た人っているのかしら。」


「歴代来訪者見ましたけど、いましたよ。」


「ウソ。全然分かんなかった。」


「グルジア文字がありましたんで。あとターナ文字かなってのも。」


「うわ、よく知ってんね。ターナ文字って何処の文字よ。」


「モルディブです。」


 げ。新婚旅行で行こうと思ってたトコじゃん。


「そんなにたくさんあったら困らない?」


「一応、世界共通で通じる言葉を学校で学ぶんで。」


「ここは世界共通言語しかないから楽だわ。」


 確かにな。それに来訪者の特典なのか日本語で話して通じるからありがたいわ。


「んで。何かあります?」


「二十文字でしょ?そんなすぐに思い浮かばないよ。」


「ですよね〜。ちなみに電化製品とか他に欲しいものあります?」


「こないだ頼むの忘れてた。炊飯器。一升炊きのやつ。二台欲しい。銘柄炊き分け機能付き。羽釜に出来るかな?あ、ちゃんと圧力釜で。」


 そうお願いするとホイホイと書き出した。『◯◯製圧力電磁誘導加熱羽釜炊飯器一升炊銘柄炊分機能付』と書いて字数オーバーだった。何度やっても二十文字に収まらなくて諦めて簡単な炊飯器を出してもらった。レベルが到達したら一番長かった文章で出してもらえることになっている。


「伝説の来訪者のスキルと言っても万能じゃないのね。」


 世の中そんなに甘くないってことだな。

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