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死神の降臨または佐山由紀人の再訪(1)

「待たせたね、二人とも。」


「お疲れ。」


「お疲れさまです。」


 三十分以上待ってバルトが来た。いつも整っている髪がめずらしく崩れている。ダンジョンでは一括りにしていたが、普段は肩甲骨辺りまで伸ばした髪をそのまま垂らしている。


「忙しい?」


「うん。サヤマくんの作業場を用意することになったんだ。その工事計画だな。作業場というより、倉庫に近いが。送られて来る各地の備品を管理する者も必要だから、色々とね。」


「すみません、仕事増やして。」


「ああ、いいんだ。とても有難いことなんだから。」


 気のせいだろうか。バルトが佐山くんに優しい。初対面で怖がらせたから気を遣ってるのかもしれない。


 食事は日本の料理を佐山くんがスキルで出すという趣向になっている。何が食べたいと言われて何故か茶碗蒸しを思い出した。何処の店の物か分からないがとても美味い。ぎんなん久しぶりに食べたわ。

 他にも店舗指定で懐石料理を出して来た。すごいな、いいとこ知ってんな。ボンボンなのか?

 食後に佐藤錦のさくらんぼを出してもらった。大きさといい色といい皮の照りといいパーフェクトである。買ったら相当するぞ。


「戸川さん、日本のものでなんか欲しいものあります?こっちで使えそうなものですけど。」


「えー、何だろ?粉末だしと味噌と濃口醤油と薄口醤油とみりんと料理酒と」


「食べ物じゃなくて調味料なんすね。」


「そんなことないよ。ただ料理はするからそっちのが優先なだけ。」


「今出しちゃっていいですか?」


「持って帰れるかなぁ。」


「マジックバッグに入れればいいだろう?」


「あ、そっか。」


 ということで色々あれこれ〝実現〟。


「あと納豆と、お米と、」


「米、銘柄指定あります?」


「どうしようかなぁ。つや姫もいいし、あきたこまちもいいし、産地限定したこしひかりも捨てがたい。」


「全部出しちゃいますね。あ、量決めてください。」


「んー、寮の子よく食べるから20kgずつかな。足りるかな。」


 それで一か月持つかな。本当に彼女らはよく食べる。


「分かりました。他にも適当に思い出した銘柄出しときますね。あとは?」


「あ、食べ物じゃないけど土鍋欲しい。」


「食べ物じゃなくてもいいんですよ?」


 そうか。何故か思考が完全に食べ物だった。


「ショウコの作るものは美味いからな。たくさん出してやってくれ。」


「うわ、惚気だった。」


「違うってば。」


 何度か差し入れしたくらいじゃんか。初めてわたしの作ったもの食べた時、泣いたんだよな、こいつ。


 それから圧力鍋とせいろは出してもらった。電子レンジは漢字で書けるメーカーの物で『◯◯製電磁波調理器』と書いていた。九文字だからもっと早く言ってくれれば良かったのにと文句を言われたが、何も言わなかったじゃないか。こっちも気軽に頼むのは憚られるんだよ。『電力無尽蔵』足してもらったからコンセントなしでも使えて有難い。これは前回の転移で試した方法らしい。

 グレップでは日本語を知らない人たちにアレコレ頼まれて、出来ないと答えると食事を減らされたり、文字数レベルが足りないと答えるとひたすらレベルが上がるまで字を書かされ続けたり、聞けば聞くほどひどい環境だった。虎獣人の奥さんと結婚して唯一良かったことは飯抜きの刑がなくなったことだと言っていた。


「あ、カレー粉欲しい。」


「話、逸らしましたね?」


「いいでしょ、別に。あとお酒だな。ジュンさんに頼まれたんだった。」


「ジュンさんてあのエルフの人ですか?」


「そう。酒飲みだから、あの人。」


 日本酒はこちらから銘柄指定をしてこれまた大量に出してもらい、おススメの一本を三人で開けることにした。


「どうです?バルトさん、お口にあいます?俺、大学で安居酒屋で注文したモノより全然飲みやすくてびっくりしてるんですけど。」


 そらそーでしょーよ。バイヤーなめんな。まあ、わたしはバイヤーさんが厳選したものを売っていただけなのだが。


「初めての体験だ。ん、違うな。これは……」


「これは?」


 バルトは二口目を含んで目を細めわたしを見たので、わたしは睨み返す。同じこと考えたな。あっちにとってもわたしの体液は美酒のように感じるとジュンさんは言っていた。佐山くんもそのことを知っていたらしい。


「あー、そーゆー。なあんだ!やることやってるんじゃないですか。」


「うるさい。佐山くんには関係ないでしょ。」


「やだな〜、戸山さん、真面目ぶってるくせに、フ・ケ・ツ!」


「そっちはクズオブザクズでしょ。」


 お前に言われたくないわ。てか、酔ってんな。顔が真っ赤だわ。


「あー、そろそろ一回酒抜こ。」


 そう言って佐山くんは『酒精解毒』を〝実現〟した。便利だな。


「お二人さんもやっときます?」


「いいのか?」


「いーですよ、これくらい。あ、戸山さん。文字数稼ぎに協力してくださいよ。レベル10になったんで十文字でやりたいこと欲しいもの考えといてください。メッセージくれれば俺やるんで。」


「分かった、考えとく。」


「バルトさんも!スキルで戸山さんのことメロメロにすることも出来ますよ?『戸山祥子番相思相愛』あ、これじゃ九文字だ。『超相思相愛』でいけるかな?」


「ちょっと佐山?」


「うわ呼び捨てになった。」


「必要ないよ。」


 バルトはそうはっきりと断り、酒を含み飲み干すと、ついでに出した江戸切子のお猪口を眺めながらもう一度同じ言葉を口にした。


「必要ない。」


 わたしは何でか言葉が出なくて、それは佐山くんも同じだった。暫し沈黙が流れた後、佐山くんはアハハと笑った。


「イケメンですもんね。勝ち確ですわ。」


 顔で男を選んだことねーよ。失礼な。

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