ショウコ、冒険者ギルド辞めないってよ
「ショウコ、ギルド辞めなくてもいいぞ。」
ギルマスに呼び出されたので支部長室に来ている。それでいきなりコレ。どういうことだ。
「サヤマがな。」
「佐山くんが。」
「シディーゴから来た役人どもにな。」
「お役人に。」
「自分自身とショウコ・トガワに対し不当な行為を行う、または適切な待遇をしなかった場合。」
「場合。」
「コソアードを消滅させると宣言した。」
「消滅。」
「消滅。」
佐山くん、大きく出たな。紙とペン取り上げられたらどうすんだ。そしたらあいつはただの役に立たないもやしだぞ。
「その代わり、国軍と国内にいる冒険者ギルド所属冒険者の武具防具全てを無償で強化してくれることになった。自分のスキルレベルも上げないといけないからな。」
佐山くんのレベルの上げ方は法則がある。レベルアップ条件のポイントを稼いでいかなければならない。条件のポイントはレベル×1000点。レベル1なら1000点、レベル2なら2000点。但し、レベル2で二文字でスキルを使うと2×10点が加算され、レベル1相応の一文字ならただの1点。
つまりは使う文字数がレベルと同じ数ならばレベルを上げやすいということだ。具体性がないとうまいこと効果を発揮しないもしくは発動しないのが難点ではあるけど、結構適当な組み合わせでもなんとかなるものらしい。
「他にも帰還まで生活の面倒を見るという条件で国から仕事を請負うそうだ。だから、ショウコにギルド本部から無茶な要求は来ないと思ってくれていい。ま、全然来ないってことはないけどね。ショウコのスキルは貴重だから。」
「分かりました。年単位の仕事でなければ受けますから大丈夫です。」
他の子たちも違うダンジョンに遠征に行って一、二カ月帰って来ないなんてのはザラだ。自分たちに合う傾向のダンジョンだとそのままそこに定住するパーティもいるくらいだから。
「そうしてくれると助かるよ。早速、依頼は来てんだけどね。」
「はや。」
「ドッティラーノだから割と近いよ。第二ダンジョン中層階に〝開かずの扉〟が出現したそうだ。そこの調査を頼みたい。」
「分かりました。」
どのダンジョンでも次の大規模な更新が起きるまでの間に一度は出現する〝開かずの扉〟というものがある。誰が何をどうやっても開かない扉。そこには何があるのか。誰も知らない。
ま、スキルで入って中の物を回収して来いってことだな。それくらいなら問題なさそうだ。
「俺、いい仕事しましたよね?」
「したした。助かった。寮出なくて済むわ。」
「え、その程度の問題なんです?」
「わたしにとっちゃ大事なことなんだよ。」
佐山くんは領館の離れ、わたしも世話になった部屋に住んで、ここで仕事を受けていくらしい。あのベッドで寝てんのか。なんかやだな。
三人で食事しようと言われたのでやって来たはいいものの、バルトが来ない。まだ新規ダンジョンの件で忙しいのもあるが、佐川くんが来たので余計に忙しくなったような気がする。
「首都には行かないの?」
「現地に行かなきゃいけないような依頼なら行きますけど、出来れば行きたくないっすね。絶対足止め食らうんで。」
猜疑心の塊である。経験上、仕方のないことかもしれないが。
「バルトさん、遅いですね。」
「基本的に忙しいからね、あの人。」
「番な〜。」
「佐山くんも誰かの番だったの?」
「あー、虎獣人のヨメがいました。」
「正式に奥さんだったの?」
「そうです。そいつ、グレップの将軍だったんですけど、まーあ、怖くて。三百年以上前だからもうこの世にはいないでしょうけどね。獣人もそれなりに寿命は長いですけど、不老不死じゃないし。」
「そうなの?」
「せいぜい百五十年から二百年くらいですね。ハーフだけど獣人の血が強いから百五十年は生きたんじゃないですかね。」
「日本に帰ってから会いたいとか思わなかった?」
「ぜーんぜん?押しかけ女房でしたし。結婚自体は国王が俺を完全に管理下に置くための政略でもありましたけど。乳はでかいけどあと全部筋肉だし。嫉妬深いし、うるさいし、獣臭いしで嫌いでした。」
わあ、ひどい。だが好きでもない人と結婚させられてたのか。相手は佐川くんのこと好きだったんだろうけど。いや、本能と好きの区別、未だに分からんけど。
「バルトさんまだいい方ですよ。戸川さん、大事にされてんじゃないですか。首都の政治家どもとの交渉という名の脅迫に戸川さんの名前も入れてくれって頼んで来たの、バルトさんですよ。」
「え。」
「あ、いや、まあ、同郷のよしみってことで。俺もその方がいいって同意したから言ったんですけど。戸川さんが戸川さんらしく仕事が出来る環境を整えてあげたいって言ってましたよ。」
うわ。なんか恥ずい。恥ずかしい。バルトに守られてる。それがこそばゆい。いや、実際に守ってくれてるのは佐川くんなんだが。
「いいじゃないですか、バルトさん。最初怖かったけど、落ち着いて話せば悪い人じゃないですし。何で結婚しないんですか?」
「うーん、ねえ。番に対する本能って、本当に愛だと思う?」
佐川くんは瞬きを数回して、あー、と声を漏らした。
「それは分かります。疑いますよね。」
「でしょ?為人も知らないのに、番だー愛してるーとか言われてもうれしくないわけ。」
「でも、俺のヨメはもっと一方的でした。我儘だし、気は強ぇーし、ちょっと他の女と話しただけで相手を殺そうとするし。ホント最悪だったわー。」
「それは怖いね。なのに何で『全美女我妻』なのよ。」
「うわソレ聞きます?黒歴史なのに!」
「女から見ると佐川くん立派にクズだよ。理由聞きたい。」
「ちょうど戦争があって、あいつが不在だったんですよ。そんで、戦地じゃ恐怖で気絶して役に立たない俺は後方支援的な仕事押し付けられてまして、書く文言考えんのに集中したいときは人払いくらいは出来たんで監視も若干緩かったんです。兵も出払って少なかったし。それでまあ、出来心というか……皇帝への嫌がらせですね。あのクソ、国中どころか戦争で征服した国からも女集めて後宮に押し込んでたんですよ。だから、ちょっとそれをこちらにも〜なんて。」
「皇帝と変わんないじゃん。」
「でも効果発動してる間はみんな俺に惚れてるんですよ?イヤイヤなわけじゃないです。」
「それまで別の人が好きだったかもしれないじゃん。」
「あ、ソレ。俺も考えたんですよ。そこら辺はちゃんと加減してます。この前も言ったけど、多分、戸川さんが見たのってほとんど試し書きなんですよね。実際に使ったのは別の紙だと思います。美女じゃなくて美少女にしたし、年齢も限定したし、スリーサイズも範囲決めてましたし、好きな男、彼氏、夫のいない処女に限定して発動させましたから。」
「うわ、最低。本物のクズがここにいる。」
「いやいや、男のロマンっすよ。あの時はそう思ってました。後腐れないような無効の文言考えんの大変でしたわ。」
それで結局女の子のキャットファイトが始まったり、常に精を搾り取られるようになって無効化したんでしょ?クソクズじゃん。
「避妊薬は飲んでもらってたんだけどなぁ。」
「いっぺん刺された方がいいよ、君。」
「その人たちももういないですよ。」
だけど子孫はいるんだぞ。しっかり責任取れよ。
あのクソクズバカもな。
指輪は返さないけど。




