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今年の目標を決めよう

 コノに帰って来て、ジュンさんに疲れてるだろうから休めと言われ寝て起きたらまた丸一日経ってた。単純に気疲れしてたんだな。だって、スキルが上がるときの睡眠は起きた時にこんなにダルくない。むしろスッキリするから。


 相変わらず定時で帰って来たジュンさんに酒肴を頼まれて調理室にいたらキョウちゃんが入って来た。


「おはよ、ショウコ。おかえり。よくそんな寝れんね。」


「ホントにね。自分でもビックリだわ。キョウちゃんただいま、おはよっていうかこんばんは?」


「あはは!ねえ、スキル、またレベル大幅アップの予感?」


「んー、いや、単純に疲れて寝ちゃっただけ。」


「あは、そっか。残念だね。」


 歩いてただけだからね。途中でネクター飲んだって言ったらキョウちゃんは目を丸くした。社会的な意味での危機は感じだけど生命の危機は全くもって感じなかった。それもこれもすべては。


「マ総統がいたから命の危機を感じる場面が一度もなかったわ。」


「確かに。あの方いれば大体なんとかなるイメージ。」


 なんとかなりすぎてふざけまくるし、やりすぎなんだよ、あの人。緊張感ないけど慌ただしく物事が進んでくから、懐かしの黒髪黒目に郷愁も沸き上がらんかったわ。ま、角ついてるけど。


「あ、手紙読んでくれた?」


「読んだ読んだ。」


「お節介なのは分かってるんだけどさ。無理にとは言わないし。」


 首都で連行された夜会で、キョウちゃんのご両親にお会いして、少しお話をした。もっと冷たい感じの人たちなのかと思ったけど、なんてことない。普通に娘を心配する、普通の親だった。そうだよね。冒険者になるのを反対したってことは、キョウちゃんが大事だからだ。冒険者がそういう職業だってのは分かってる。自分だってそうだし。ただ、わたしには何かあっても悲しむ家族がいないだけだ。この世界のどこにも。


 あ、あっちの世界にもいなかったわ。じゃあ、どの世界にもいないわ。生きてる人間に限定すればだけど。


「うらやましいよ。」


 ポロリと本音が落っこちた。


「うらやましい?」


「あー、うん。ごめん、忘れて。」


 いかんいかん。これはただの八つ当たりだ。心配してくれる家族がいるのがうらやましいなんて言われてもキョウちゃんは困るだろう。


 キョウちゃんは少し考えた素振りをして、話題を変えた。


「ショウコ。ショウコがいない間に、私、ムーカと話したんだ。」


 どうしたの、急に。でも、カーレッシ氏と会ったのか。


「あの人に待ち伏せされた?」


「ううん。自分で会いに行った。」


「そうなの?」


「うん。あいつ、ウチの親と連絡取ってたみたい。ていうより、バルト卿がかな。私の様子見るように頼まれてたらしくて。それでさ、ムーカって冒険者ギルドの担当じゃない?」


「うん。」


 ギルドの担当というか、有事の際の連携を取るための窓口みたいな人だからな。コッティラーノ出身の現地採用組だけど出世株っぽい。


「バルト卿が個人的に頼んでたみたい。あの方、そんなこと引き受けるような人だと思ってなかったからちょっとビックリした。出会いはナンパだと思ってたけど、それも違ったんだ。」


「ナンパだったの?」


「ギルドに定期視察に来る時、会うと声かけられてたんだよね。わざわざ私のこと待ってたみたいで。ギルマスなんかは熱心な役人で有難いとか言ってたけど、裏があったわけだ。」


「でも、それは……」


「ただの下心じゃなかったんだ。いや、下心は下心か。」


「だけどキョウちゃんのこと好きになったから付き合ったんでしょ?キッカケに過ぎないよ。」


「自分の出世目当てでも?」


 マジか。ちょっと独りよがりなとこあんなとは思ったけど、そういう目的で一緒にいるようには見えなかった。だって、第三の御霊鎮めの夜。彼は仕事中にも関わらず、キョウちゃんにずっと寄り添っていた。


「ねえ。また売り言葉に買い言葉して来てない?」


「……して来たかも。」


「あーもう!だから会わせるの嫌だったんだよ。」


「でも言いたいこと言い切って来たから。もういいんだ。スッキリした。だからってわけじゃないんだけど、もう親にも手紙書いたんだわ。〝私は元気にやってます、男と別れたけど何とか生きてます、心配ならそっちから会いに来い〟って。」


「大きく出たね。」


「一度、見てもらった方が早いと思って。」


「はは。授業参観か。」


「授業参観?」


「うん。学校の授業を親がね、見に来るの。」


「なんのため?」


「我が子の成長を見るために?普段の様子を知るためとか?」


 ウチの親は来たことないけどな。いつもおばあちゃんが来てたから。ま、それはもういいんだけどさ。


「へえ。私の行ってた学校にはそんなのなかったな。」


 この世界の学校は十歳から十四歳までの五年間しか通わない。理由は何だかいろいろ書いてあったけど教科書読み流したわ。九歳までは託児所にいたり、家にいたりと家庭によって違うらしい。成人年齢の十五歳になる年の春に学校を卒業して就職するのが普通。


「来るか来ないかはあの人ら次第だけど、授業参観ね。そういう気持ちでいればいいか。」


「そうそう。普段の様子を見せればいいんだよ。努力して、仲間とわいわい楽しくやってるところを見せればいいと思う。」


「仲間、ね。そうだね。ショウコもいるし!」


「うわ!」


 キョウちゃんに抱きつかれた。背が高いからな。キョウちゃんはモデル体型だから。肩に頭載せてきた。顎刺さってるんだけど。


「ショウコ。それ、私食べれない。」


「好き嫌いしない。」


「お母さんか!」


「バルト卿がお父さんはちょっとやだな〜。子どもにも無愛想っぽい。」


「何でバルトなんだよ。ジュンさんでいいでしょ。」


「ジュンさんはどっちかっていうと、おばあちゃん……妖怪?」


「ひど。言えてるけど。」


 あはははは!と笑ったら、ふう〜ん?という声が聞こえた。


「キョ〜ウ〜?ショウコ〜?聞いたわよ〜?」


「「ヒイ!」」


 その後、ジュンさんにお説教されて、わたしとキョウちゃんはシディーゴ第一のマンドレークのようなか細い悲鳴しか出せなかった。


 他の人たちはみんなダンジョンに泊りがけで潜ってるようで、謝り倒して褒め倒し、許してもらって三人で晩酌。


「じゃあ、第五回新年会ってことで、かんぱーい!」


「かんぱーい。」

「乾杯。」


 わざとらしくテンションを上げたキョウちゃんの音頭でグラスを合わせる。


「それではショウコさん。今年の抱負と目標をお願いします。」


「なにそれ。みんなやったの?」


「やったやった。私はスキル上げのためにダンジョンに潜りまくるのと、個人ランクB達成。フェイは幸せになりますだって!クソ!一抜けされた!」


「うらやましいとも思ってないくせに。」


「バレてた。」


 私が料理してる横で既に飲んでたから出来上がってんな二人とも。


「えー、じゃあ、わたしもスキルレベル上げる。ランクは……面倒事増えそうだから上げたくないんだよなぁ。」


「そういうわけにもいかないんじゃない?」


「そうですかね?本部の方に、B以上じゃないと国の依頼出せないって言われたんで、Bになると良いように使われるかなって。」


「まあ、ソレはあるだろうけどね。だけど、基本給増えるわよ?」


「そこはアイテム回収でカバーします。」


 討伐系の依頼をこなさなきゃいいんだし。そもそもわたしには無理そうな条件だったけど。


「レベルは何レベル?私は50の壁を突破したい!」


 キョウちゃんは今レベル41だ。来訪者じゃないヒューマンには結構大変な道だと思う。


「わたしも……レベル50かな。あ、違う。51にしないとだわ。」


「何で?」


「レベル51以上だとスキル効果が睡眠中とか気を失った時にも続くんだよ。そうしたらダンジョンに泊りがけで潜れる。」


「へえ!いいな、そのスキル!」


 そうだよね。すごい便利だと思う。寝てる間も安全が保証されてるんだから。


「あとは?」


「うーん、それくらいかな。あ、夏休みにみんなでマ総統のリゾートに行って思い出を作る。」


「ショウコとアタシが誘われてて、他の人も連れて来ていいんだって。アンタどうする?」


「え!行きたいです!行く行く!マ総統に稽古つけてもらえますかね?」


「分かんない。でも、ドラゴンはやってくれるかも。いい人……いい竜っぽかったし。」


「ドラゴン?」


「まだ発表されてないわよ、その情報。週明けじゃない?あのね、マ総統がダンジョンから出られなかった来訪者のドラゴンをペットにしたんだってよ。強いわよ、ドラゴン。」


「ジュンさん知ってるの?」


「戦ったことあるからね。」


「勝った?」


「勝ったって言いたいところだけど、引き分けかしら。アレは痛み分けね。勝負自体流れちゃったから。」


「え!そんな強いの!?なら、ジュンさんも稽古つけてよ。ドラゴンに勝ちたい。」


「嫌よ!余暇の時間は酒に使うって決めてるんだから。」


「ケチ!ケチエルフ!」


「なんとでもお言い。」


 とりあえず、わたしの今年の目標は〝スキルレベルを51以上にする〟になった。かなり高い目標値になってしまった。大丈夫かな。

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