戸川祥子の帰寮
またもやバルトの飛翔スキルの付与で空を飛んでコノに帰って来た。本来の予定通りの五日に帰宅。ギルド本部がシディーゴ第一の回収物でバタバタしている間にコソコソ帰って来た。褒賞の話はまだ出てない。忘れられてたらそれはそれでもういいや。
「お帰り。どう?首都。楽しかった?」
「疲れました。出来れば首都にはあんまり行きたくないです。」
「アタシの気持ち、分かったでしょ?」
「そうですね。コノの方が居心地がいいです。」
みんなもう仕事をし始めてるので出迎えてくれたのはジュンさんだけだった。あ、そうだ。
「シディーゴ第一のドラゴンのこと、覚えてます?」
「ああ、金色のドラゴンね。脱皮の途中で行ったから大変だったのよ。剥くの手伝ってあげたの。ソヨウがあの子やること全てが雑だからまだ剥がれないところまで無理に剥がそうとしてケンカになったのよ。」
ソヨウさんって……。バルトの中身は総統閣下似なんだな。顔は似てないけど。
「それがどうしたの?会った?」
「あ、まだ発表されてないんですね。マ総統が自宅の島に連れ帰りました。ドラゴンもジュンさんとソヨウさんに会いたがってましたよ。」
「あの人は……本当に予想の斜め上を行くわね。」
「本当に、びっくりしました。イメージと全然違ったので。」
「昔はあそこまでじゃなかったのよ?国政に関わってた時はまともだったわ。仕事中はだけど。」
オンオフの切り替えが激しいタイプなのだろうか。今回はほぼオフだったけど。
「あのドラゴンが来訪者だってご存知でした?」
「知ってたわよ。」
「どうして報告しなかったんですか?」
「あの頃はねぇ、まだ王政だったから。来訪者とその子孫の苦労はアタシたちは身を持って知ってたし、次に来るまで隠れてた方がいいって……アラ。アタシがそう言ったんだったわ。すっかり忘れてた。」
それをすっかり忘れてたなんて酷い。長命種にとっては百年なんて大した時間じゃないのかもしれないけど。あのドラゴンも食糧が湧いて出るからあそこにいても問題ないみたいなこと言ってたし。
「あそこに潜ったのも国王の命令だったのよ。ソヨウの修行のひとつとして行ったの。完全竜化した竜人は神に等しい存在だから。国防の為にね、鍛えて欲しいって依頼されて。」
「ジュンさんが?」
「そうよ。アタシがソヨウの師匠。魔法が使えて戦えて、治癒も出来るからね、アタシ。パーフェクトでしょ?マ総統もそうだけど、あの頃まだお客様扱いだったから。ああ、たまに手合わせしてもらってたわね。あの二人、すっごく気が合って。」
ソヨウさんを直接知ってるわけじゃないが何か分かる気がする。あの手紙のノリとマ総統のノリはとても似ている。
「マ総統、アタシと会うと手合わせしろってうるさいから南の島へのご招待もお断りしてたんだけど、ショウコ行きたい?」
「出来ることなら行ってみたいです。女子旅に限りですけど。」
「あの子とは行かないの?」
「勝手に断られました。」
ジュンさんは、あの子マ総統苦手だからね、と笑った。全く合わないタイプだと思う。
「ならアンタ連れてたまには婆さまの顔でも見に行こうかしらね。」
「婆さま?」
「アタシの祖母よ。〝不老不死倶楽部〟の設立メンバーだから。」
「なるほど。」
エルフは不死ではないが不老長寿。来訪者のおばあさんがいるならたまには顔を見せに行った方がいいと思う。
「友人を連れて来てもいいとマ総統はおっしゃってくださいました。他の人も誘っていいですか?」
「夏季休業の時期なら大丈夫じゃない?正規職員の休みはローテーションだけどね。前みたいなことが起きたら大変だし。」
「前みたいなことって何ですか?」
「スタンピードよ。アタシがいなくて被害が出たヤツね。あの時はポーションが全然足りなくて、随分と被害者が出たわ。最後まで戦ってた高ランカーこそが犠牲になったのよ。アーリとかね。」
ああ、アーリさんが腕、キントーさんが脚を失ったアレか。
「今回シディーゴ第一でかなり回収出来たので、全国に一定数配布すると本部の方がおっしゃってましたよ。」
本部に納品しに行った時にこれなら輸出も出来る!と喜びながらこれからの瓶詰めデスマーチに泣いてたもんな、本部職員。他所から人を雇うとくすねるヤツがいるから出来ないんだって。冒険者でもそうらしいから、本当に大変だ。
嫌な思いもさせられたけど、あの量を考えると可哀想になった。わたしのマジックバッグの分を出したら回収物管理課と総務課の人たち数名が気絶したし。マンドラゴラまだ生きてて「ヒィ……」「イヤァ……」とか言ってたのはお互い様だと思う。
「それなら夏には間に合うでしょうから大丈夫そうね。」
そりゃ良かった。誰を誘おう?フェイちゃんはその頃にはギルド辞めてるし店があるから無理だな。ハンちゃん、キョウちゃんは絶対だよな。十代組はハナちゃんは彼氏いるからそっち優先になるかも。あ、でも去年は実家に帰ってたな。シーラちゃんはコノ出身だから来られるかな?メニちゃんはどうだろ。やっぱり実家に帰るんだろうか。わたしの親しい女の子って寮の子ばっかだな。交友関係狭ッ!
「あの子もどうせ来るでしょうね。ゼーキン家の初代も不老不死倶楽部だし。まあ、一度も顔を出してないけど。」
「首都でゼーキン家最後の一人って言われてましたけど、来訪者の方はご存命なんですか?」
「そうよ。あの方も不老長寿だから。まだ六百歳くらいじゃない?とってもお元気よ。国内に残ってるゼーキン姓がいなくなったからあの子の籍を移したのよ。まあ、あの子は一度も島に行ったことないはずだけど。」
「それなのに今年は行くんですか?」
「行くでしょ、アンタも行くんだし。それにジンはいつも夏はマ総統に会いに行くから。心配でついてくると思うわよ。ハンは連れてって大丈夫かしらね?また情緒不安定にならなきゃいいんだけど。」
「お酒は飲ませないようにすればいいんじゃないですか?」
「無理じゃない?」
「ですよね。」
ジンさんのハンちゃんが一緒のところ見たことないから二人がどういう関係なのかよく知らない。
ハンちゃんのあの慟哭?魂の叫び?を見ると、想いが通じて欲しいと思いつつ、ジンさんとハンちゃんは合わないんじゃないかとも思う。
まあ、だからと言って自分がジンさんとどうなるとも思ってない。どっちかっていうと苦手なタイプだし。
うん。わたしとジンさん。ないな。ソヨウさんの夢、本当に当たるんだろうか。わたしがまた誰かを好きになることがあるんだろうか。
〝え?でもショウコちゃん、バルト好きだよね?〟
マ総統の声がリフレインしている。
バルトとの未来の予知夢、本当になかったんだろうか。
「ショウコ?」
「あ、はい。」
「疲れてるなら今日はゆっくりしなさい。第五回新年会は明日にしましょ。」
それ、元旦から毎日飲んでたってことですよね?みんな飲み過ぎじゃない?




