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新たな第一ダンジョン(10)

「えい!」


「やあ!」


「とう!」


 ダンジョン内で一泊して翌日。


 魔王様はモンスターもトラップも次々と潰していく。具体的にはコートさんが危険予知して大まかにどんなモンスターがいるかトラップがあるか説明、それを魔王様がある階層では落ちて来た天井を蹴り上げて天井に埋め込んだり、ある階層では踏み入れた瞬間に壁、床、天井から金属製の棘が出てくるのを皮膚を硬質化してバッキバキに折って道を作ったり、面倒になって最終的に全て魔法で吹き飛ばしたり、ある階層では魅惑の人魚を逆に口説いてる間に忍び寄って来た巨大な怪魚を爪で一突きして口から火を吹いて炙り焼きにして「誰か塩持ってなーい?」と言って食べ始めたりした。ちなみにその怪魚の鱗と骨は素材だが他は全て毒である。フグに似てた。塩はわたしが提供した。あ、醤油も。


「ヘパテゾかぁ。この階層はハズレだなぁ。」


 いや、さっきみっちみちに宝石が詰まった宝箱見つけましたやん。何がご不満なの。


「やっぱりロマンがある素材とかだとワクワクするよね!神話級の武器とかそろそろ出て来ないかな〜。」


 次の階層はマンドレイクの群生地だった。


「コレ、どうする?無視してく?」


「出来れば回収をお願いしたいのですが。」


「了解!みんな一回退避してくれる?」


 十分後、終わったよ〜と気の抜ける声で呼ばれて行くと、何処から出したのか鍬を持った魔王様が山積みのマンドレイクの前で待っていた。「わたしが育てました」みたいになってるんだけど。

 わたしは粛々と回収作業。マンドレイクの山にマジックバッグの口をつけて収納。「ひ、ヒィ……」と呟くマンドレイクは断末魔じゃなくて怯えたうめき声しか出さなかった。なんだか可哀想になる。


「ねー、そろそろ大物出てきてもいいと思わない?飽きてきた。」


 飽きてきた。まあ、ずっと一人でお仕事されてるから飽きてくる……か?


「下層階もあと数階と推測されておりますから、今暫くご辛抱を。」


「早く奥さんとこに帰りたいんだけど!?一緒に来てもらえばよかった!バルト君、一人だけズルくない!?」


「ショウコはバルトの番ですけどフラれてるんですよ?むしろ可哀想じゃないですか?」


「え?でもショウコちゃん、バルト好きだよね?早く素直になった方がいいよー、僕の奥さんみたいに!」


「前よりは好きですけど、そういうんじゃないです。好感度が一度底辺まで下がったので少し回復しただけです。」


「だってよ!良かったね、バルト君!」


「はい。」


「底辺って……お前、何したの?」


「階段が長くないですか?」


「って、無視かよ!」


 確かに一階層分どころかいくつかの階層分を降ってる気がする。まさか抜け道だった?そんなはずはない。これまでは上手く正規ルートで来れてる。ダンジョンに正規もクソもないかもしれないけど。


 一番下まで降りると、大きく荘厳な両開きの扉があった。


「ここが最下層かな?」


「そのようでございますね。」


 人生初のダンジョン最下層。ちょっと緊張する。


「たのもー!」


「あ、ちょっと!もうこの人は!」


 コートさんの制止も聞かずにバンと勢いよく音を立てて扉を開けた魔王様は「うわぁ〜!」と言って立ち止まった。降りてきた分高い天井。地下深くなのに陽の光が差しているような明るさ。そして空の青。雲まで流れている。そういや下層階には外にいるとしか思えないような場所があるって聞いたことあるな。こういう感じなのか。


「お花畑!」


 そうですね、高い青空に一面の花畑。小高い丘には大木が……アレ、大木か?幹、太過ぎない?


「ドラゴンだ!大物キターッ!」


『うるさい。』


 うるさい言われた。かなり遠く離れてるのに知らない声が聞こえる。まさかドラゴンの声なのか?


「しゃべった!」


『そなた、この世の者ではないな。』


「すごい!あのドラゴン、頭いい!」


 すごい。魔王様が頭悪く見える。あのドラゴンの方が威厳がある。


『竜の子とエルフの子はどうした?』


 ソヨウさんとジュンさんのことかな?二人が見たっていう黄金のドラゴンはこのドラゴンだったのか?緑色だけど。お腹は茶色いか。


「ソヨウちゃんは死んじゃったよ。ジュンちゃんはあんまり首都に来ないんだー。」


『竜の子は往んだか。なんと早い。』


「ねー。寂しいよねー。」


『そうだな。また会えると思うていたが。』


「でも、楽しかったー!満足したー!やり切ったー!って言ってたから、ソヨウちゃんは幸せだったよ!」


 バルトが少し息を呑んだのが分かった。ソヨウさんは自分の人生に満足してたんだな。わたしもそんな風に生きれたらいい。


『ならば良い。では立ち去れ。』


「え!?戦わないの!?」


『戦う理由は?』


「ない。ないよね?アレ?ないね?」


 ずっと魔王様とドラゴンで会話しててわたしたち置いてきぼりになってる。


「モンスターは人に害を及ぼします!滅するべきです!」


『モンスターとは何だ?』


 モンスターがモンスターであることを自覚してない。それ以前に人語を解するモンスターっていうのが意味分からん。そんな話、聞いたことない。他の人たちの反応から察するに初めての事例なんだろう。


「モンスターとは貴方が今いるこの地下迷宮で生まれる生物のことです。」


『我は気付いたらここにいただけでここで発生する生物ではない。』


「え!?」と全員が声を上げた。じゃあ、このドラゴンも来訪者ってことじゃないか?ダンジョンの中に転移したなんてなんと運の悪いドラゴンなんだろう。


「何で今まで出て来なかったの?」


『ここにいれば食糧に困らぬ。度々地震が起きると風景が変わる程度で困ったことはない。』


「モンスター食べて生きてたってこと?」


『そういうことになるな。』


「えー!?つまんなくない!?」


『面白くはないが悪くもない。』


「じゃあ、一緒に出ようよ!」


「はい!?」とみんなが驚く。魔王様、このドラゴンのような巨体をどうやって外に出すつもりなんだろう。


「僕、一度行ったところには瞬間移動出来るから!外に出てみようよ!外に出てやっぱりここがいいって言ったらまた戻してあげるから!」


「ま、ま、ま、お待ちください閣下!このような大きなドラゴンが首都に現れれば混乱が起きます!」


 政治家さんの言う通りだ。このドラゴンは見た目だけならモンスターと変わらない。コッティラーノ第三ダンジョンの事件は報道されている。首都でも同じことが起きたのかと騒ぎになるに決まってる。


「うーん、じゃあ、僕の島に来なよ。それでとりあえず発表だけしといたら?ダンジョンにドラゴンの来訪者が出られずに住んでましたーって。キミ、人型なれる?」


『我は原始のドラゴン故なれぬ。竜人ではない。あの竜の子、ソヨウとやらの世界とは違う世界のようだがな。』


「へぇ〜。ちなみに寿命ある?」


『ない。ただ種の特性として千年に一度生まれ変わる。要するに脱皮だな。それくらいだ。今はまだ生まれ変わったばかりだ。時が経つと鱗が黄変する。』


「じゃあ、〝不老不死倶楽部〟の入部条件は満たしてるね!」


 何だ、不老不死倶楽部って。


「不老不死倶楽部ってマ総統が無人島に作ったリゾートで暮らしてる不老不死の特性を持つ来訪者やその伴侶、長寿を得た子孫の集まりだよ。元々はユキヒト・サヤマに不老不死にしてもらった人の保護から始まったマ総統の個人資産を投入した福祉事業だ。」


「わお。」


 コートさんの解説はとても分かりやすかった。南海の孤島で悠々自適な生活って、ご夫妻で住んでるわけじゃなかったんだ。


「だから、ね!絶対退屈しないよ!一緒に行こう!」


『そうしよう。』


「やったぁ!ドラゴンゲットだぜ!」


 本当に、このキャラじゃなければなぁ。

ドラゴン 年齢不詳 前回の脱皮からは百年

鱗は魚のような一枚ずつ剥がれるタイプではなく蛇やトカゲと同じ

脱皮は日焼けの皮みたいにぺりぺり剥ける

個体名はないのでこれから魔王様が名付ける予定

こっちに来て唯一の客だったソヨウとジュンにまた会いたいと思っていた

世界には魔王様がダンジョンでドラゴンの来訪者を発見してペットにしたと発表される

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