新たな第一ダンジョン(9)
「やあ、おはよう、ショウコちゃん。今日はよろしくね!」
「マ総統閣下、おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。」
「もう!何で来訪者のキミまで僕のこと総統って言うの!?今の総統はシューワ君だよ!?」
魔王様、お願いだからしゃべんないで。見た目と肩書きと種族と功績とイメージがちぐはぐだから、お願いだから子どもみたいに地団駄踏まないで。
「バルト君!君の番、もうこの世界に馴染み過ぎてない!?」
「ショウコは番と呼ばれるのを嫌います。どうかおやめ下さい。」
「そうなの?ごめんね、ショウコちゃん。」
「あ、はあ。」
「僕のことはオウ君って呼んでね!オウ様って言うと王様みたいで嫌なんだ。」
さん付けじゃないんか。確かにわたしより若く見えるけどさ。
「閣下、そろそろ。」
「分かった。よぉーし!久々にひと暴れしちゃうゾ!」
大丈夫かな、この人。ギルド本部の人に声かけられた時の「分かった」とその後の言葉のテンションが余りにも違い過ぎた。「分かった」の口調で全てお願いしたい。
「スライムの串刺しだー!」
伸ばした爪に刺さったスライムが安いわらび餅串に刺したみたいになってる。
「うさぎはソテーに限るよね〜。毛皮は常夏のウチでは必要ないからなぁ。」
アミルラージ食べるんですか。アミルラージの毛皮、色で値段違うんだよな。
「わんわん!おいでわんわん!」
それはコボルトです。懐かせようとしないで下さい。
「あはははは!無双無双〜!」
わざわざ他のゴブリンに見せつけるように見せしめに一匹一匹殺していかないで下さい。
なんなの、この人。魔王様だったわ。
「次はこっち?あ、なーんだ。宝箱か。」
「一応、回収致します。」
本日シディーゴ第一ダンジョンは封鎖して貸切状態。三十分もかからず第一階層が終了した。現在、第二階層。この辺の道は分かっているので検証しつつも特に問題なく進んでいる。
「や〜、手応えがないな〜。みんなごめんね?僕ばっかり楽しんじゃって。」
「閣下がお楽しみのようで何よりです。」
我々、暇だからね。左手の法則でむしろ歩みはゆっくりだから、魔王様こそつまんないんじゃないかな。
「バルト君、ミスリルゴーレム倒したんでしょ?手応えあった?」
「竜爪ならば問題なく斬れました。」
「ソヨウちゃんの爪と硬度変わんないの?」
「恐らく。」
「なあんだ。大したことないな、純ミスリルも。」
とんでもないこと言ったよ、この人。ゴズさんたちがあれだけ苦労してたのに。
「こっちのドラゴンを倒すのに抵抗ある?」
「特にございません。」
「昔、ソヨウちゃんがここで黄金のドラゴン見たって言ってたんだよね〜。ジュンちゃんなら知ってるかな〜。黄金のドラゴン、楽しみだな〜。出て来ないかな〜。」
気の抜ける感じだが、まだ高層階だ。強者にとってはこんなモンなのかもしれない。
「コート君のとこ、上の子いくつになった?」
「今年八つになります。」
「そっかぁ。もうそんな歳かぁ。ウチの可愛い孫ちゃんのジンにはコッティラーノでいい人いないの?」
「いなさそうですね。興味がないと言うか。」
「あの子、人当たりいいように見えてちょっと冷めてるからなぁ。コアがないから番はいないはずなんだけど。」
バルトが少し体を揺らして反応した。ここで余計な口を開くとめんどくさそうなのでわたしは沈黙を選ぶ。雄弁は銀、沈黙は金というからな。
ワンフロアが狭いお陰でサクサクと進む。何階層あるかも分からないが、シディーゴのダンジョンは平均して三十階層ほど。ここの難易度が高いのは本道と支道の幅が変わらないことが最大要因だ。
「お、タウロスだ。わ!やったなー?えい。」
「えい。」で倒せるのがおかしい。投げてきた石を投げ返してどてっ腹に穴空けたよ、この人。
「あ!何してるんですか、閣下!アレの中身が貴重なのに!」
コートさんが叫んだ。タウロスの中身って、神様の血とか言われてんだっけ?何でも治せる貴重な液薬、ポーションだったと思うんだけど。過剰摂取は毒になるから一人一生につき一回しか使えないとかいうヤツ。症状からしてアナフィラキシーショックっぽい。
「ごめーん、つい!次は失敗しないようにするね!」
軽いなぁ。ノリが軽い。動かなくなったタウロスを横にして残りの液体を本部職員が回収した。
その後もタウロスが数体出て来たので頭切り落として中身を回収。外側は金属なので資源として回収。無駄がない。
「ウルフバルトはっけーん!ラッキー!」
「ダマスカス鋼じゃん!当たりだね!」
「エレクトラムかぁ、大したことないなぁ。」
「ひゃっほう!オリハルコンだよ!僕、今日引きよくない!?最高じゃない!?」
低層階と目される階層辺りから魔王様が開ける宝箱全てに金属類が入ってる。魔王様の運がいいのか、このダンジョンの特性なのか。今のところ左手の法則で全ての正規降り口を発見してるので、本部職員はこの機会にダンジョン資源を根こそぎ回収することに決めたようだ。容量無限大のマジックバッグにここぞとばかりに詰めていく。今日の拾得物は全てギルド本部の物となるらしい。いや、別に欲しいとか思ってないけど。
「パナケイアの泉みーっけ!喉乾いてたから丁度いいや。」
「ネクターの湧水だ!みんな!飲も飲も!あまーい!」
「エリクサーの沼だぁ。こんなにあるなら当分困らないよね!」
やべえな、このダンジョン。お宝だらけだ。本部職員さんが大変そうなので、わたしもバルトも回収を手伝ってるんだけど、なかなか先に進めない。
「やー、こういうのがあるからここの構造難しいのかな?」
「そうなんですか?」
「構造が複雑なダンジョンは良いアイテムが多い傾向にあるんだ。その分、モンスターも強いけどね。」
そいつらのこと爪先ひとつで滅多斬りしてますけど。この人いれば基本的に問題ないんじゃないの?
「その考え方がダメなんだよ〜。」
「もしかして〝読心〟もあるんですか?」
「魔族としての力だよ。何となく考えが分かるんだ。来訪者の子孫は先祖の種族の特性がスキルで出やすいからジン君が〝読心〟持ってるのは僕の血を継いでるせいなんだよ。」
「知りませんでした。」
「あはは。知らなくても問題ないからね。でも、誰か一人に頼るような国は国として破綻してる。これだけは忘れないでね。僕は不老不死だけど、コアが潰されたらさすがに死んじゃう。まあ、そんなこと出来る人この世にいないけど、万が一そうなったら、僕がいなくなった後はどうするの?ね?怖いでしょ?だから、僕の仕事は僕がいなくても大丈夫な国作りの土台を作ることまで。あとはみんなの力でやってくべきなんだよ。」
「民主主義ですね。」
「ユキヒト・サヤマの残した知恵の受け売りだけどね〜。」
「実行した閣下が素晴らしいんです。やろうと思って出来ることではありません。」
「そう?彼と同じ国の人に褒められるなんて嬉しいな。人生、捨てたモンじゃない。」
へへっ!と鼻の下を擦る魔王様はとても誇らしげだった。上着からはみ出た尻尾がピコピコしてるから、本当に嬉しいんだろう。
その見た目だと違和感しかないわ。魔王様はあざと可愛い系男子だった。
マ・オウ 年齢不詳
年齢は数えるのが面倒になった
番が見つからない苦しさを知っている
転移先で番を見つけて超ハッピー
元いた世界では普通に魔王様だった
後に他国に転移して来た魔族から自分がいなくなった後の世界の大混乱を知り、王様のいらない国作りを決心した
恐妻家




