新たな第一ダンジョン(7)
「あー、こんな話をした後に言うのもなんだが……」
めずらしく言い淀まれる。何だろ、また無茶振りかな。
「年末年始の休暇、一緒に首都に行かないか?」
「何で?」
「その、いつも付けているピアスとネックレスに、守りの魔法をかけてもらえる手配をしたんだ。……一月一日が、誕生日なんだろう?」
「そう、だけど。また高額なんでしょ?」
「いや、謝礼は支払うつもりだが、その、マ総統が久々に新年の集まりに顔をお出しになると聞いてな。」
「ジンさんも行くの?」
「彼は来ない。来て欲しいのか?」
「え、別に。親族だから会いに行くのかなって思っただけ。」
バルトが言うにはマ一族は年に一度、魔王様の島に集まって親族会をするそうだ。今回は今年ひ孫が生まれたからそれを見に来ると言う。
「そのひ孫が、私の兄の子なんだ。」
「ガーメッツさん、だっけ?」
「ああ。兄嫁がマ総統の孫娘だから。ジンの従姉妹だ。」
おお、政治家あるある、家系図作ると有名な人は大体どっかで繋がるヤツ。
「それと、恐らくショウコは近々首都に招喚されると思う。」
「え、何で?」
「ダンジョン踏破法の確立だ。あれは非常に意味のあるものだから。ダンジョンは度々支道が変わるが、あのやり方なら道に迷って餓死する冒険者が減るだろう。コノのダンジョンは他と比べて単純な構造だが、複雑過ぎて未だ最下層まで踏破されたことのないダンジョンも存在する。その功績を与える前に、人品骨柄を確認したいと言う者もいる。あとは実演だな。まだ疑う者がいるそうだから。」
アイテムは支道を行かなければ手に入れられない。確かにそういう意味では価値があるのかもな。わたしが黙ってしまったからか、バルトはそのまま話を続けた。
「どうせ面倒事を押し付けられるなら私が共にいた方がいいと思ったんだ。ショウコ一人で行けばそのまま首都に留まるようあの手この手で絡め取ろうとする老獪な政治家もいる。私がいれば、そう易々と手出しは出来ない。ショウコが首都にいることを決めれば私も恐らく首都に戻される。私は共にいられるからそれでもいいが、ショウコは違うだろう?」
「うん。わたし、コノが好きだから。」
愛着がある。仲間がいる。旅に出るくらいなら何でもないが、戻れずそのままお別れさせられるのはたまったもんじゃない。
「じゃあ、その面倒事、まとめて済ませに行こう。一緒に行くよ。」
休みの日に仕事の話を出したから謝られたけど、何も知らずにお呼び出し食らって軟禁されるよりマシだ。
馬車だと時間がかかるから、バルトの飛翔スキルで飛んで行くらしい。お姫様抱っこは甘んじて受け入れることにした。身の回りのものも総統夫人が揃えてくれているらしい。何でもう揃ってんの。この親子、本当に血のつながりないのかな。
そして出発当日。教わったのが年末年始休暇が始まる前の週の日曜日だったからあっという間だった。ギルドにも正式に通達が来ていた。首都は閉庁してるけどギルドはやってるから、冒険者ギルド本部からの依頼という形で、私用で来ているていにして政治家のお歴々が立ち会うらしい。
「雪だけど。」
「雲の上を行くから問題ない。」
マジかよ。寒そう。
「防寒着でもこもこなんだけど、移動大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。」
どっかで聞いたセリフだな。
「いってら〜!」
「おみやげよろしくね〜!」
寮のみんなに見送られて、恥ずかしながらもいい歳してお姫様抱っこで空を飛ぶ。
空、飛んでる。
「雲の上まで行ったらスキルを付与するよ。慣れないだろうから最初は手をつないで飛ぼう。」
「え!?自分で飛ぶの!?」
聞いてないですけど?
「飛翔スキルは私のスキルではレベルが低い。効果時間は二時間だから、その時に一度休憩しよう。それなりに体力を使うからな。」
飛翔スキルって他者付与出来んの?そっちのが驚きなんだけど。こういう個人の肉体に帰するスキルってレベルMAX近くならないと付与不可能ってメーガー氏言ってたのに。この男、いくらなんでもチート過ぎじゃない?
「私の首に腕を回して。しっかりしがみついて。」
お姫様抱っこから膝下の腕を引き抜いて縦抱きにし、竜爪一閃、バルトはその手で雲を引き裂いた。
「これで濡れずに済む。」
「早く横抱きに戻して落ちるぅぅぅ!」
「スキル付与は済んでる。落ちないよ。」
「だけど怖いっ!あとちゃっかり尻を揉むな!」
「不可抗力だ。それにどうせ防寒着のせいで分からない。残念だ。」
「確信犯めぇーッ!」
スキル付与出来んなら前回会ったときにちょっと練習すれば良かったんだよ。絶対ワザとに決まってる。ジュンさんがお姫様抱っこでコノから第三に来たって聞いたからてっきり付与出来ないのかと思ってたわ。
ていうかだな。
「手……」
雲を裂くときに見えたバルトの手は……
「ああ。飛翔スキルは竜化時のみの限定スキルだからな。……恐ろしいか?」
「どこまで竜化出来るの?」
「私の竜化は腕と脚のみだ。気にならないのか?」
「この手が助けてくれたのに、怖いわけないよ。」
「……そうか。」
まだ雲の切れ間の途中だからしがみついてるせいで顔が見えない。竜化のこと、隠してたみたいだから、誰かに怖がられたことがあるんだろうか。
青みを帯びた銀色。青がそこまで強くないから落ち着いた色合いに見える。
雲の上まで来ると両手をつないで空の上に立った。地面があるようなイメージで立てばいいらしい。
「片手を離すよ。」
そう言われて離される手を見ると、冬の光を反射して空色に見えた。
「バルトの鱗の色、綺麗だね。」
そう言うとジュンさんと同じこと言わないでくれと言われてしまった。耳は赤いから照れ隠しだと思う。




