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新たな第一ダンジョン(2)

 というわけで、わたしは当分、平日は毎日キョウちゃんと過ごすことになった。

 第三の褒賞で貯えが出来たので、こういう単価の低めな依頼も受ける余裕がある。街中での困り事なんかの依頼もあるのでそのうちやってみようと考えている。奉仕活動に近いから単価は低いけど、本当はD、Eランクでは昇格に必須の条件だった。わたしの場合はギルドの直接依頼やメーガー氏の研究協力をそれに充てられている。メーガー氏の件は依頼として扱っていいのか分からないけど、ギルドに所属したことで来訪者支援からコッティラーノ領からの依頼という形に変わっている。


「じゃ、やろっか。で、どうやってやるの?」


「とりあえず今どれくらいまでなら気配察知出来るか知りたい。」


 メーガー氏の研究を元にわたしのレベル1〜9に合わせてどの階層に通用するかの表が作られた。レベル1なら第一階層、レベル2なら第二階層〜第三階層、といった風だ。レベル10になると全てのモンスターから認知されなくなるが、レベル9だと高位モンスターには察知されてしまう。レベル9までは普通の認識阻害に近い。導入編といったところか。レベルの上がりやすさと過去の来訪者の成長推移を見ても、レベル10前後までは類似スキルで練習という意味合いが強いものだとメーガー氏に教わった。


「なら、一応1からやってみようか。適当に動くから追いかけてみて。」


「オッケー。いつでもいいよ。」


「〝オールスルーレベル1〟」


 さすがに感覚器官が発達してないスライムくらいにしか通用しないレベル1。歩き回るわたしの後ろをキョウちゃんはしっかりとついてくる。


「〝キャンセル〟。大丈夫そうだね。」


「さすがにこれくらいはね。安心した。」


「じゃ、次に行くね。〝オールスルーレベル2〟」


 こんな感じで繰り返して、レベル6までは何とか分かるという結果になった。キョウちゃんたちが相手にしたのは第十一階層のモンスター。わたしのスキルレベル8相当だ。不意打ちを食らって負傷したと言っていたが、認識阻害を使うモンスターだったらしい。


「まずはレベル6をしっかり認知出来るようになりたいかな。」


「それがいいと思う。街に出てみる?」


「そうだね。さ、ショウコとかくれんぼだ。かくれんぼなんていつぶりだっけな。」


 いきなりダンジョンは不味かろうというわけでもないが、ランチついでに街に出てその区画内でわたしが何処にいるかを探すゲームをする。わたしはいるはずなのにいないように見える。そのいるはずなのにいないという気配を察知する訓練。人混みで気配は紛れてしまうから、結構難しいと思うんだ。時間制限を設けて、タイムアップになったら決めておいた場所で落ち合うことになった。一回目が終わったらランチして、午後もまた同じように繰り返す。

 最初は同じ場所に留まるようにして、見つけられるようになったらわたしも区画内をウロウロすることにした。モンスターは動くからな。


「よし、じゃあ、私は五分後に動き始めるね。」


「いくよ。〝オールスルーレベル6〟」


 わたしが五分以内に隠れて、一時間以内に見つけたらキョウちゃんの勝ち。見つけられなかったらわたしの勝ち。賭け事してるわけじゃないから、勝ち負けは関係ないけどね。


 一回目は一時間経ってもキョウちゃんはわたしを見つけられなかった。やっぱり人混みだと難しいみたいだ。


「全然分からなかったわ。」


「近くまで来てたのにね。」


「あー!ショック!」


 ランチは今若い女の子に人気のカフェに入った。お洒落なお店に入るのなんて久々だな。こっち来て初めてかも。


「そういえばショウコ、昼寝しなくていいの?」


「うん。その分、夜は早いけどね。」


 なんせ八時には寝るから。八時に寝て八時起き。何とか十二時間起きていられるようになった。基本、毎日五時間から六時間労働で食べていけてるので、日本にいた頃と比べるとかなり楽だ。

 まあ、コノは基本のんびりとした働き方なので、割と普通のことみたいだけど。役所は首都に合わせて残業なんかもあって名誉はあるけどブラック扱いされてる。


「あ、コレ、ターテナーガの伝統ソースだ。へえ、輸入されるようになったんだ。」


「……醤油じゃん。」


 醤油よ醤油。あなたはターテナーガとやらにいたのですね。


「知ってんの?」


「わたしの生まれた国にも同じものがあるんだよ。」


「へえ。来訪者の影響かな。」


「でも、わたしと同郷は佐山由紀人しかいないよ?」


「まあ、昔は来訪者を秘匿してる国もあったからね。ユキヒト・サヤマ以外にもいたのかもよ。」


 なるほど。そういやボード氏に習ったわ。それよりもまず醤油だ。キョウちゃんから可愛いガラスの醤油差しを受け取って皿の端に出した醤油をひと舐めする。うん。醤油だった。甘いけど。九州の方とかは醤油も味噌も甘いんだっけ。九州物産展の企画のときに甘さに驚いた記憶がある。


「こんなカフェでも使えるようになるなんて、輸入元どこの商会だろ。」


「ターテナーガ?って遠いの?」


「船で一年近くかかるって言うからね。遠いよ。」


 うわぁ、お高そう。キョウちゃんの頼んだのはローストビーフサラダターテナーガ風ランチセット。パンとコンソメスープ付きだ。わたしの頼んだチキンソテーランチより500ゲンキン高い。


 だが、わたしは醤油に出し惜しみはしない。買えるところがあるなら教えて欲しい。


「店員さんに聞けばどこで買えるか分かるかな。」


「さあ?一応聞いてみたら?」


 可愛らしいウエイトレスさんを呼び止めて聞いてみると店長さんを呼んでくれた。しかし、輸入元の商会は飲食店にしか卸してない業者らしく、一般購入は難しいという。


「こんな時こそバルト卿の出番じゃないの?」


「あんまり頼りたくない。」


「なんで?番にベタ惚れなんだから何でも言うこと聞くでしょ。」


「そういうの、嫌なんだよ。対等じゃないじゃん。」


 キョウちゃんは口に入れようとしたローストビーフを少し下げて、ついでに眉尻も下げた。


「ごめん。私、無神経だった。」


「そんなことないよ。でも、キョウちゃんなら分かってもらえるかなとは思ったんだけど?」


 キョウちゃんは「ゔっ」と詰まったような声を出したので笑ってしまった。


「他人のことだと、それくらいいいじゃんって思うよね。」


「だね。気をつける。」


 まあ、でも、相談してみるくらいならいいかな。あ、その前にキントーさんとこで仕入れられないか聞いてみよう。業務用の取り扱いしかしてないなら、キントーさんなら手に入れられるかも。

 そしておいしい料理を考えてもらうのだ。あの人ならやれる。


「どしたの?ニヤニヤして。」


 どうやらわたしはニヤニヤしていたらしい。そこは許して欲しい。

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