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来訪者(3)

「こちら、現在生存が確認されている来訪者の一覧です。ご同郷の方はおられそうですか?」


 話の前にB5サイズのペラペラな紙を一枚渡された。昔見た藁半紙のようだ。


 誰だよ、ンドゥギンヤ・シュガリコって。狼獣人?知らん。他も思い当たらない。アフリカ人の名前とかなら分からない自信がある。ヒューマンと記されている人もいたが、エルフだの竜人だのもいて同じ世界なワケがない。


「いないようです。」


「左様でしたか。残念でしたね。そちらはお持ちいただいていて大丈夫です。」


 持ってても意味ないけど。名前、種族、年齢、現在住んでいる国名が記載されているだけだ。訪ねて行こうとも思わない。


「来訪者の方は基本的に何処へ行かれるのにも制限はございません。ここのような領都は通行料を取りますが、基本的に来訪者の通行証をお持ちの方は国外へ出る際にも審査フリーと考えていただいて結構です。居場所は常に共有されますが、監視ではないので自由にしてくださって結構です。」


 通行証はパスポートみたいなものなのか。ビザなし、入国審査なしで国外へ行くことも可能。へえ。


「ああ、もちろん犯罪行為をした場合はその限りではございません。お気をつけ下さい。」


「承知しました。」


 そんなことはしませんよ。とにかくまずは職を見つけたい。


 半年間の予定表を渡された。昨日触りだけ聞いたスキルとやらの鑑定も今日行うらしい。健康診断までやるのか。そんなこともしてくれるとは。


「ええと、通行証の発行は全ての講座をお受けになってからになります。それまで半年間はここから出られないとだけ先にお断りしておきます。但し書きの通り、スキル訓練の際などで外へ行く場合は出られますが同行者が必ず付きますので。とにもかくにもスキルが分からんことには指導員を探せませんので、鑑定を行いましょう。あ、こちらまだお読みになってない?いえいえ、仕方ありません。いらしたばかりの来訪者とはそういうものです。ふた月、み月はその状態が続きます。人によっては様々ですが。」


 カンゴ・ボード氏と名乗った男はそのまま喋り続けた。


「お名前を見たところこちらはカンジですかね?いや実はですね。以前、大昔にとある国を滅亡寸前まで追い込んだ来訪者の方がこのような文字をお使いになられる方でしたので。」


「そうなのですか?」


「はい。ああ、こちらのページですね。」


 佐山由紀人(さやまゆきひと)。日本出身。十九歳で転移して来たのか。さぞ苦労しただろう。滅多一歩手前に追い込んだのが二十三歳の時。へえ。四年間頑張ったんだな。


「スキル、実現(リアライズ)?」


「そうです、そうです。この方のみに与えられたレアスキルですね。三年ほど酷使されてレベルが上限に達したようで、再び転移して元の世界にお戻りになった唯一の例です。カンジで記したものは全て実現するという非常に珍しく、また変わったスキルだったそうですよ。」


 なるほど。そのスキルを利用して日本に帰ったのか。それに気付いたのが二十二歳の時で、奴隷のように扱った国に対して復讐してから帰った、と。ふうん。日本人は溜め込むからな。


「仮にわたしが同じスキルを手に入れたとして、元の世界へ帰ることを希望すれば帰れるのでしょうか。」


「記録によりますと帰還が可能になったのはレベルが最上限を突破した∞になってからだといいますので、それまで地道に鍛錬を積み重ねて頂かなければなりませんね。やはりお戻りになりたいですか?」


「いえ。家族もおりませんでしたので、正直あちらに未練はありません。」


 ボード氏の瞳に同情の色が浮かんだ。わたしは気にしていないので深刻に捉えないでもらいたい。


「左様ですか。では、心機一転、こちらの世界で活躍されることをお祈り致しますよ。」


「ありがとうございます。」


「すぐにはお渡しできませんがこちらが貴女の通行証になります。スキルのデータを読み込みますので持って参りました。」


 通行証にスキルなども読み込めるらしい。というより個人情報は全て通行証によって管理されている。マイナンバーカードなのか?ただの金属板にしか見えないが、ICチップのような役割のある物でも埋め込まれているのだろうか。来訪者はすぐに分かるように金色の金属板だった。既にわたしの筆跡そのままに名前が彫り込まれていた。


「では、早速スキルの鑑定といきましょう。」


「はい。」


 大きなタブレットのような板に手を置けば、そこにデータが表示されるという。手を置くと瞬間、ビリリと電流が走ったような感覚があった。


「失礼。ふむ。健康状態は良好のようですな。」


 これでそんなことまで分かるのか。身長だけならまだしも体重まで出ている。事前に教えて欲しかった。


「スルースキル?」


「何でしょうね。」


 ボード氏も分からないものらしい。


「スキルの文字を押してもらえますか?説明が出ますので。」


 本当にタブレットみたいだな。言われた通りにすると別の小さい画面が出て説明文が現れた。どちらかというとパソコンか。


『スルースキル:戸川祥子にだけ許されたスキル。〝オールスルー〟と唱えれば、任意の時間、任意の範囲で世界から戸川祥子への認識が阻害される。〝キャンセル〟と唱えると元に戻る。レベル50までは覚醒している時のみ使用可能。51以上は睡眠中など意識のない状態でも時間内ならば〝キャンセル〟のコールまではその状態が続く。永続時間と範囲はそのレベルに準拠する。』


「これはどういう……?」


「うーん。ちょっと私にも分かりかねますので、専門家に相談します。後日、改めて向いている職業などの紹介がありますので。ある程度の方向性をお教えしておきたかったのですが、いや、申し訳ない。」


「いえ、お気になさらず。」


 わたしにのみ許されたスキルならば知らなくて当然だ。よって、謝罪は不要。


 その後はこの世界のことを簡単に教えてもらい、今いる国の説明を受け、最低限抑えておいて欲しいという法律の解説を聞いた。その辺りでわたしがあくびを噛み殺しているのに気付いたボード氏が、今日はこの辺でと話を切り上げた。


 とにかく眠い。眠くてたまらない。時差ボケならぬ転移ボケだろうか。早く自立したいが身体がこうではどうしようもない。


 焦らなくていい。時間はたっぷりある。もうわたしは自由なんだから。


 そう自分に言い聞かせながら、眠りに落ちた。

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