新たな第一ダンジョン(1)
なかなか呑気な日常になりません。
困りました。
キョウちゃんが帰って来た。第三の更新が始まったので、第一に戻って来たそうだ。
「おかえり。」
「ただいま。ショウコ、もう第一潜った?」
「潜ったよ。」
「どうだった?」
「高層階はあんまり変わんないかな。中層階は出て来るモンスターがちょっと変わった。」
キョウちゃんは当分ソロでやると聞いた。他の人たちはパーティで欠けた人材を冒険者ギルドからマッチングしてもらい、新しい一歩を踏み出している。
「低層階へは行かないの?レベルが30になって生命体の干渉もなくなったって聞いたけど。」
無機物の干渉がなくなってから、レベル29までは効果時間と範囲が拡大した。そしてレベル30。とうとう生命体の干渉もなくなった。壁の中に退避が可能となった。試してみたが、壁も床も問題ない。高層階は階層ごとの感覚が狭いので、床のすり抜けも可能。調子に乗ると下の階層に落っこちるので怪我の元だ。一度やらかしてジュンさんに怒られた。捻挫と打撲で済んで良かった。
出来る限り地形を把握して、ショートカットを行い、中層階ならば日帰りで行って帰って来れる。トラップも、ゴロゴロと転がって来る大岩がそのまますり抜けて行った。事前に他のトラップですり抜けは確認出来ていたけど、迫り来る大岩はそれなりに恐怖だった。
わたしのスキルはすり抜けを意識しなくても生命の危険が伴う事象は勝手にスルーしていく。レベル50を超して睡眠中のスキル効果を獲得したら低層階に潜るつもりでいる。
まあ、すり抜け出来ても宝箱の回収とかはしなくちゃいけないから、基本は通路を歩いてウロウロするような感じだけど。モンスターもすり抜けていくし、人もすり抜けて行くのは不思議な感覚だ。
戦闘スキルが見込まれないので、素材としてのモンスター回収が出来ないのが辛い。今から鍛えて達人級になれるとは思えないが。それでも中層階の真ん中辺りのモンスターを何匹か回収出来た。そこら辺になると群れずに単独行動するので、スキルのオンオフを意識すれば強くはないけど特殊なモンスターならわたしでも討ち取れる。神経使うからあんまりやらないけど。早くコールなしでスキルを使えるようになりたい。
そんなことをしていたら、第一に潜ってすぐにCランクに昇格した。義務は増えるが、収入も増えるので悪くない。ここ最近は意欲的に働いている。
「そっか。一回一緒に潜らない?」
「いいけど、足手まといだよ?」
「まさか!ショウコはスキルで消えてれば大丈夫だよ。そんな下まで行かない予定だしね。一人だから。」
一人だから、という言葉が重く感じた。予定を確認して、一緒にダンジョンに潜る日を決める。
「それでね。高層階で気配察知の訓練したいんだ。」
「キョウちゃんならその辺大丈夫なんじゃないの?」
「群れだとね、大まかな動きは感じ取れるけど、案外穴があって。そこを鍛えて行きたいんだよ。あとショウコのスキル、10より下だとゴズさんレベルなら気配探れるでしょ?私もそれくらいになりたいなと思って。」
レベル9発動中のわたしの気配を探れる人はなかなかいない。ウチの支部だとゴズさん、コートさん、ジンさんくらい。ミルックもだけど今は育休中だから。
レベル5くらいならBランクでもそこそこいる。わたしの気配を探れる人はAランク間近とかいう噂が流れて、一時期それに付き合わされた。それもギルドからの直接依頼だった。バルトもそれくらいの気配なら探れるようになった。まあ、バルトから逃げるときは全力で逃げてたけど、逃げる必要もなくなったし。
「でも、ダンジョンじゃなくても出来るんじゃない?というか、ダンジョンに潜る前に地上で試した方がいいよ。」
「やっぱり、ぶっつけ本番はまずいかな。」
キョウちゃんは頬をかきながら首を傾げる。
「もしかして、焦ってる?」
かも、と彼女は目を逸らし、情けないなと呟いた。
「彼氏にさ、結婚しようって言われて。」
「そうなんだ。……でも、おめでとうって感じじゃないね。」
「あー、ね。冒険者やめろって言われちゃってさ。」
「それは……」
彼氏さんは心配なんだろう。それも分かる。だけど、キョウちゃんは家出してまで冒険者になりたかった人だ。受け入れられない提案だろう。やめろって言うくらいだから提案ですらないのかな。わたしだってバルトにも止められた。第三のことで、よく分かった。無事に帰って来られるとは限らない。
「別にね?結婚が嫌なわけじゃなくて。冒険者はやめたくないけど、一番引っかかってんの、多分そこじゃないんだよ。」
「分かる。」
「ショウコ?」
「分かるよ。」
冒険者がどんなに危険な職業でも。自分の道は自分で選びたい。キョウちゃんだってそうして冒険者になった。職業選択の自由はこの国でも保証されている。
それにだ。まだ傷付いてるキョウちゃんが今までの自分を否定されて、素直に頷くわけがない。彼女はそういう人だとわたしは思ってる。
「はは、ショウコ、離婚歴あるんだもんね。」
「まあね。」
「なんかさー、弱ってるところにそういうこと言えば絆される女だって思われてるのが悔しくて。」
「ムカつくよね。」
「第三にいた時もさぁ、すごい私に甘いの。これまではケンカになるような怒るかなって思ったことすら流されちゃうの。なんか、やじゃん?私はもっと言いたいこと言い合いたい。気を遣ってプロポーズされても嬉しくない。」
「うん。」
「まあ、役人だからね。ああいう状況、初めて目の当たりにしたみたいだし。あっちもショック受けたんだとは思うんだけど。私だって危なかったんだから。」
「だけど、キョウちゃんは冒険者を続けたいんでしょ?」
「当たり前だよ。」
「なら、全部言っちゃいなよ。聞く耳持たないような男なら、自分の見る目がなかったってことだから、さっさと別れた方がいいよ。」
「うわ、経験者は語る!発言の重みが違うわぁ。」
確かに男見る目なかったよ、わたしは。だけどキョウちゃんには手を引っ張って導いてくれる人より、隣に並んで一緒に歩ける人の方が合ってると思うから。
わたしも次の相手ができるなら、そういう人がいいと思う。あのクズは、いつも自分が優位にいないとダメだった。その割に、自分に甘い。それが優しさと勘違いして、この人はわたしがいなきゃダメなんだと思わされた。わたしなら不貞も許されると考えたんだろうか。思い出したら腑が煮え繰り返る。許せん。
「とりあえず、ちゃんと依頼出そっかな。受付行ってくる。」
「え、お金なんていらないよ。」
「ダメだよ、ちゃんと受け取って。」
何かやるときは対価が発生して当たり前。他の人からもお金もらってしまった後だし、ここは受け取った方がいいか。揉め事起きても困る。
「分かった。こっちはいつからでもいいよ。どうせソロだし。」
「私もだよ。よろしくね、ショウコ。」
差し出された手を握ると、ひんやり冷たかった。あの熱いキョウちゃんは鳴りを潜めてる。わたしと過ごすことで、元気を取り戻してくれたらいい。なんて。おこがましいかな。




