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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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第三ダンジョン(1)

グロ注意。

 四日目早朝。第三ダンジョンに到着。自分でも思うがよく馬車の中で寝れたわ。起きたら体が痛かった。


 スタンピードの予兆有りとのことで、足手まといじゃないかと思いつつもギルマスからの指令により一緒に第三ダンジョンまでやって来た。

 低層階と高層階を直結する抜け道が出来てしまい、高層階が今てんやわんやらしい。低ランク冒険者を退避させたいが、それも完全には間に合わず、既に被害者が出ているという。

 コッティラーノ唯一のSランクであるゴズさんが出るのは必須なのだと思う。一晩経って、状況は悪化していた。このままだといずれ正規の出入口から高ランクモンスターが飛び出してくるのも時間の問題だと言われた。


「私、本当に抜けていいんですかね?」


「痛いは痛い。だが、ギルマスの指示だ。従うしかねえ。」


「マッタさん、何考えてんでしょう。」


 この人がマ・ジン氏か。マ・オウ初代総統のお孫さんだそうだ。焦茶の髪にペリドットのような黄緑色の目をした、黒い山羊の角が生えている美丈夫。角という時点で魔王様の血筋であることは間違いない。

 マ・オウ様も苗字が先に来る文化圏の人だったのかと衝撃を受けたところだったが、孫は魔人なのか魔神なのか。


「祖父でも呼びますか?」


「マ総統は南海の孤島で悠々自適の生活してんだろ?最終手段だな。」


 魔王様、まだ生きてた。国内に来訪者はいないと説明を受けたが、引退してリゾート暮らしをしてるからいないのか。亡くなったわけじゃなかった。


「ショウコ。低層階のモンスターが出てくるスタンピードは珍しい。恐らく中では低ランクモンスターが下から上がって来たヤツらに食い殺されてる。何もしなくていい。耐性をつけろ。それがお前の仕事だ。」


 確かに指令書にはそう書いてあった。人死にに慣れろ。そういう意味だと受け取った。


「ジンも別に完全に抜けるわけじゃねえ。戦闘にゃ入ってもらう。ショウコ。とりあえずお前はジンについてけ。ジンといりゃお前に被害が及ぶこたねえからな。」


「よろしくお願いします。」


「こちらこそ。でも、彼女を私が認識出来なかったら一緒に斬っちゃったりしませんか?」


「コイツのスキルは物理が効かねえ。剣は当たらないと思っていい。実際はすり抜けるんだがな。」


 魔神さんは目を丸くしてわたしを見た。上流階級出身とあって物腰柔らかだが、割と親しみやすい。


「ショウコ、スキルは常時発動だ。眠くなったら戻れ。そん時はジンにも声をかけんでいい。効果時間が切れたら再度スキル発動。分かったな。」


「はい。」


「残務処理にはお前にも参加してもらう。まあ、こっちがメインだと思ってくれ。ついでに耐性つけてレベル上げろってことだな。夕方にゃジュンさんも来る。それまではギリギリまで耐えろ。いいな。」


 ジュンさんも来るのか。国へも支援要請はしてあるそうで、間に合えばSランクパーティが派遣されてくるみたい。それまでどれくらい耐えられるかが勝負の分かれ目だとゴズさんは言う。


 とにかくわたしはジンさんについていく。第三ダンジョンの人工的な通路は負傷者でごった返していた。その中に、見知った顔を見つける。壁に寄りかかってグッタリとしているのは。


「キョウ、ちゃん……?」


「あ、ショ、コ……」


 ウソ。脚がない。何で。俊足のキョウちゃんの脚なのに。巻かれた包帯には鮮血。頭にも包帯、腕にも包帯。血染めの包帯だらけだ。そんな。ひどい。


「は、や、ちゃっ、た……」


「喋んなくていいよ!」


「ショウコ、今はそれどころじゃない。行くぞ。」


「行っ、て……ゴズ、さん、頼み、ます……」


 ゴズさんは深く頷いた。隣のジンさんが、間に合わないかもなと呟く。


「あ、ま、待って!脚!脚は!?」


「あは、コレの、コト……?」


 脚はある。食べられたわけじゃなくてよかった。


「貸して!」


「どうする気だ?」


「わたしのマジックバッグにしまいます。時間停止機能つきですから。ジュンさんなら細胞組織が残ってれば戻せるんですよね!?」


「え、そんなのに使うの?」


「キョウちゃんの脚ですよ!?当たり前です!」


 ジンさんが首を傾げたことに腹が立った。友だちの脚が千切れたんだぞ!?テレビでもクーラーボックスに入れて臓器を運んだりってのは見たことがある。完全時間停止機能があるんだ。なるべく、言いたかないけど新鮮な状態で保存出来たら、予後がいいに決まってる。


「キョウだけじゃねえぞ。」


「全部入れます。全員分入れます。容量だって無限大です。」


 ゴズさんは顔を顰めたが、やるだけやってみろと言って先に戦場へと進んで行った。既に事切れた者もいる。コレに慣れなきゃいけないのか。しんどいな。

 周囲では現地の治癒師なのか、ばっくりと裂けた腕を縫合したり、焼きごてで傷口を焼き切ったりしている。肉の焼ける匂いが鼻につく。


「ジンさんもお先にどうぞ。」


「いや、手伝うよ。」


 そう言って救護班に指示を出して、欠損したが残っている部位がある者の欠損部に名前を書かせて集めさせた。わたしはそれをマジックバッグに入れていく。

 一人一人しまおうとしてた。頭に血が昇ってたな。この人、すごく、冷静だ。

 わたしがジンさんをじっと観察していたら、彼はにこりと笑った。


「よく分からないけど、ジュンさんなら君の考えるやり方で治せるんでしょ?今後のことを考えたら冒険者の数が減るより、少し時間を取られても復帰出来る者を増やした方がいいに決まってる。他にすべきことはある?」


「あ、え、出血部位は心臓より高い位置に。消毒は度数の高い蒸留したアルコールで。傷口は清潔にして、炎症を抑える為に冷やした方がいいと思います。」


「分かった。そこの君、氷嚢を準備してくれ。」


「わ、わたし、氷も持って来てます。大した量じゃないですけど、それも提供します。」


 この氷は酒用だ。寮には冷蔵庫はあっても冷凍庫がない。一応ジュンさんが持ってるけど、高価な冷凍庫がないと氷は作れない。もしくは天然氷。この旅のための買い出しのときに売ってるのを見かけたから、店中の氷を買い占める勢いで買ってマジックバッグにしまっていた。


「ありがとう。氷嚢袋、ありったけ用意して。ショウコ、もういいかな?」


「はい。」


「思い付いたらなんでも教えてね。来訪者の知識は役に立つことが多い。」


 それで友だちが助かるなら出し惜しみはしない。マジックバッグから氷を取り出して、藁の敷かれたところに置いた。多分、負傷者のための敷物なんだろうけど。


「そろそろ行こうか。」


「はい。」


 冒険者って、ギルドに登録したらなれるもんじゃないんだ。こうやって、どんなにひどい状況でも冷静でいないといけないんだ。


 わたしは深呼吸して立ち上がり、ジンさんの後ろをついて行った。

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