第二ダンジョン(2)
第一階層は一時間で踏破。簡単なマッピングはしているので、その地図通りに進んでいる。大きな通路くらいしか描かれてない。それもいつ変わるかは分からないが。
抜け道も描いてない。低ランクの者が功を焦って実力に見合わない階層に行くのを防ぐ為らしいけど、抜け道自体大幅更新でなくてもちょいちょい変化する。学者の間で使用耐数があるのではないかと言われているそうだ。
「お、めずらしいな。ミミックだ。」
脇道に逸れたところに宝箱があったが、どうやらミミックらしい。第二階層でミミックがいるのはめずらしいという。全くいないわけではない。メーガー氏の指示で、ミミックがいたら実験するという話になっている。みんな遠目で見守っているが、ゴズさんだけは何かあった時に備えて剣を抜いて隣に控えている。
ミミックは宝箱に擬態しているが、人が触れることで口を開き襲いかかってくる。ただ眺めているだけでは何の変哲もない宝箱のままだ。
「〝オールスルー〟」
まずは物理干渉実験。ミミックはモンスターなのだ。通り抜けは効かないと思われる。だが、生態が余り分かっておらず、どこまでが本体なのかは分からない。宝箱全体がモンスター説、貝のように中身だけがモンスター説で学会は割れている。何故なら倒した瞬間にアイテムに変化するから。生捕りも不可能なので弱いけど生態の解明が進まないモンスターの代表格だ。だが、ミミックの生態の解明はダンジョンそのものの解明にもつながると考えられている。責任重大だなぁ。
普通に触れても何ともない。ミミックはわたしを認識していない。少し不安だが、通り抜けを使う。
む。これ以上いかない。手のすり抜け具合からいくと宝箱そのものは生命体ではないということだ。なのに倒すと破片も残らないという。ミミックはわたしを認識出来ないでいる。触られているという実感もないんだろう。
通り抜けをやめて箱を底から持ち上げてみよう。スキル発動したままなら持って帰れるかも。持ち上がるかな?持ち上がんないな。底とミミック本体との隙間がない。というか、コレもしかして底がない?ミミックの下、ダンジョンの床に手を通してみる。通らない。ダンジョンは生き物だと教わったが、まさか本当に生命体なのか?地形じゃないんじゃないか?
ていうか、逃げるのにダンジョンの壁や床に入り込んで逃げるという手段が絶たれたのでは?まあ、他の冒険者と同じく通路を行けばいいんだろうけど。今後が不安になって来た。
再び通り抜けでミミック本体に触れ、底を確認する。一体化してるようにも思える。ミミックの本体はダンジョンから生えているとしか言いようがない。
前回の二の轍を踏まぬよう、もう一度ミミックから手を離してキャンセルをコールする。痛いのは御免だ。
「どうだ?」
「外側の箱は無機質のようです。本体は中身……うーん、ダンジョンそのもの?ですかね?」
「ど、どういうことッスか?ミミックはダンジョンってことすか?」
マッチくん、いい質問だ。わたしの所見を説明するとみんな口をあんぐりと開けてしまった。
「ダンジョンは生き物って、例え話じゃないってこと?」
ハナちゃんのパーティのもう一人の女子、エア・コンディちゃんがつぶやく。
「そうみたい。わたしのスキルは無機物なら通り抜けられるけど、このミミックの宝箱には底がないし、地面にも手は入ってかなかった。それはダンジョンが生命体だってことになる。」
無機生命体って可能性もあるな。SFじゃん。外側の箱は無機無生物わたしのスキルの定義もイマイチ理解し切れてないしまだまだ謎が多い。だけど少しは学者さんたちのお役に立てるかな。わたしのスキルを信用してくれるのが条件だけど。
「歴史的発見だ!」
ハナちゃんパーティの残りの男子、イショ・ビンくんが叫ぶ。
「とりあえず、アイテムは手に入れたいから倒しちまえ。ショウコ、やってみろ。一撃で無理ならオレがトドメ刺すから。」
「真っ二つにすればいいんですよね?」
「そうだ。」
「スキル使いながら攻撃って認識されますかね?」
「どうだろうな。そういやスキル発動中に攻撃したことねえな。」
高層階ばかりなのでダンジョン訓練は第一でもずっとスキルは使わずに潜っていた。モンスターの認知機能検証の為にスキルをレベル10以下で使うくらい。基礎的な戦闘訓練も兼ねてるからな。
「とりあえずレベル10でやってみろ。」
「はい。〝オールスルーレベル10〟」
みんなもわたしを認識出来てない。わたしが身につけているもの、触れているものに関してもだ。でないとリビングアーマー宜しく服だけが歩いているように見えて結局敵に狙われてしまう。武器や持ち物に関してはわたしが所有物だと認識しているものは同じように認識されない。あとはスキル発動してから触ったもの。それは動かせない。わたしが認識されない分、わたしも認識出来ない状態であるとメーガー氏は考えている。
「ふん!」
短槍を振り下ろす。ああ、やっぱり。蓋だけ通り抜けてミミック本体で止まってしまった。一度キャンセルして相談するか。
「ダメだったのか?」
「ミミックの本体で槍が止まりました。」
「んじゃ、レベルを9に落とせ。ミミックレベルなら恐らくショウコには気付かないだろ。」
なるほど。レベル1だとわたしの気配に気付かないのはスライムくらいだもんな。レベル3になると高層階のモンスターはわたしに気付かない。種類によるけど。今回は念のための9だ。
「〝オールスルーレベル9〟」
ゴズさんは気配でわたしの動きを察知している。この方が安全だな。しくじったらすぐにゴズさんが動いてくれるから。もう一度思い切り短槍を振り下ろす。手応え有り。だけど、完全には真っ二つに出来ず。
ん?ミミックがガタガタと揺れてる。感知が出来ないのに攻撃を受けて動揺しているらしい。本体は多少なりの知能があるようだ。
また短槍を振ると、今度は真っ二つになった。それと同時に一瞬でアイテムに変化。どうなってんだ、コレ。
「斧か。第二階層ならこんなもんだな。」
それでも普通の斧より材質がいいらしい。木こりの斧に見えるが、使う人が使えばモンスターも真っ二つになるとのこと。わたしの拾得物になるようで、マジックバッグに仕舞い込む。
第二ダンジョンは第十二階層まで出来ることが多い。現在も最下層は第十二階層だ。しかし、なかなか辿り着く人がいない。Sランク冒険者のゴズさんですら、初心者向けとして全国的にも有名な第一ダンジョンの最下層でも昔のパーティメンバーが全員揃ってないと無理だと言った。それでも無傷というわけにはいかない。何十回とチャレンジして踏破し切ったのは片手で数えるほどだと言う。わたしには難しいのでは?
第四階層まで降りてくると今日はここで野営するとゴズさんが言った。中層階までは脇道にある空洞で必ず安全地帯があり、そこで夜を過ごすのが暗黙のルール。かといって、トラップがないだけでモンスターが出ないとは限らない。交代で見張りを行う。わたしはアレだな。ソロになったら野営は睡眠中の効果獲得してからでないとダメだな。
昼食時に少し昼寝をさせてもらった。その間、わたしを見張るを置いてハナちゃんとマッチくんチーム、トーイくん、イショくん、エアちゃんチームに分かれてゴズさんの個人指導が行われた。彼等のペースで行けば普通なら既に中層階に行っているはずだ。足手まといだな。高層階での基礎訓練に意味があるとゴズさんは言うが、若者たちは早く下に行きたくて仕方ない様子でいる。それにもゴズさんは気付いて喝を入れてた。厳しいな。
不甲斐なさを感じるのはいつぶりだろうか。違うな。常にわたしはわたしを足りない人間だと思っている。ただ誤魔化してるだけだ。誰かのせいにして。
●パーティのランクについて
個人ランク以外にもパーティとしてのランクがある
昇格はギルド規定による ランクづけは個人ランク同様
メンバーの平均個人ランクと所有ポイント、功績が主
ランクアップのためにギルドが直接出す依頼をこなさなければならない
昇格出来そうなパーティにはギルドから声をかけたりもする
Cランクの壁が存在する
コッティラーノ領には現在Bランクパーティまでしかいない
元モーギュ隊はAランクパーティだった
Sランクになると国の依頼が多く来たりする
現在は国内に二つのパーティが存在する
●パーティ名について
以前は自由につけられたが凝った名前が増えすぎて把握しづらくなった為、リーダーの名前で◯◯隊で統一されている
ハナちゃんたちはトーイがリーダーなのでペイパ隊




