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ダンジョン攻略は準備が大切です(1)

 今月の面会日。保護者であるゼーキン氏は来なかった。職務放棄じゃないか?何してんだ、あの男は。

 代理でわたしと縁のあるバイキン氏が訪ねて来た。普通なら自宅を訪問して不便をしていないかそれとなく様子を伺うものらしいが、わたしは男子禁制の寮住まいなのでギルドの応接室を借りている。


「どうですか。訓練は順調と報告を受けとりますが。」


「そうですね。訓練自体は問題ありません。ただ、まだ起きていられる時間が短くて。」


「ええ、ええ。それも聞いております。その辺は焦らずにやっていきましょう。何でしたらこちらから訓練期間の延長をギルドに申し込むことも可能ですよ。」


「それはして頂かなくて大丈夫です。今のペースで充分だと訓練士の方からは言われております。お気遣いありがとうございます。」


 バイキン氏はうんうんと頷きながら、ギルドで管理しているわたしの個人ファイルに目を通している。今のところ三回ほどダンジョンに潜って、スキルの検証もついでに行った。わたしがスライムの近くに立つと、捕食しようとスライムが動いてくる。頭上に落下して来たら、オールスルーとコールしてスキル発動。結果、わたしへの被害はなし。被害はヘルメットの表面のみ。それはもうリサイクルに出した。

 ヘルメットはスライムが頭の上に乗っていた時間を考えると乗っかってからコールするまでの僅かな時間の影響しか受けていなかった。ゴズさんとキョウちゃん目線ではスライムが宙に浮いているように見えたそうだ。そのまま小石を投げてもらったが、無機物なので身体を通り過ぎて行った。最早スルースキルでもステルススキルですらない。透過スキルなのではないか。

 一日それを繰り返していたら、レベルが一気に上がった。現在スキルレベルは15。効果の上がり方は従来通り。

 メーガー氏に報告したところ、モンスターと物理的接触の機会が連続してあったので、体が命の危機を感じたため、一気にレベルが上がったのではないかという返答をもらった。なるほどな。アレを繰り返せばレベル上げが簡単に出来るのか。上がるのはレベルじゃないが、配管工のヒゲが亀の甲羅をひたすら踏む様を思い出した。


「それでですね。領司よりお預かりしているものがありまして。」


「はあ。」


 何だろう?また個人の趣味を無視した貢物だろうか。番に貢ぐのが竜人の習性と言われても高額商品をもらうのはいくら相手がゼーキン氏であっても気が引ける。


「こちらです。マジックバッグ、オーダーなさいましたよね?」


「はい。え、まさかこの代金、あの人が支払ったんですか?」


 前金は支払ってある。お値段の半分だ。残り半分は仕上がってからって話だったんだけど。


「いえ、領司が追加なさった機能分のみですよ。」


「追加機能って……カタログに記載されてる機能はほとんど入れたんですよ?」


 お陰でこの街の一等地に領司館と同じ規模の屋敷を土地から購入して、身の回りのものを揃えて使用人含め五年は維持出来る金額が飛んでくんだよ。恐ろしく高性能なんだよ。セレブでもなかなか持ってないレベルだよ。必要ないとも言うが。

 完全時間停止入れると同じ条件で場所が首都の一等地に変わる金額になった。首都の地価と人件費を甘くみてはいけない。有り金全て飛び、尚且つ支払い切れない。

 残りをローンも出来ると言われたが、一年目のわたしにはローンが組めない。冒険者は三年目以上にならないと信用が得られないんだ。ジュンさんの言った「一通りのこと」を経験する三年以上、冒険者ランクもC以上という条件でギルドから低金利で貸付してもらえる制度である。

 まあ、ピアスとネックレスをオークションにかけるという手段もあるにはあるが、これはまだ手元に置いておきたい。というわけで、時間停止機能と容量を少しケチッたのであった。多少の貯えは残しておいた方がいいと思ったから。


「ええ、存じ上げております。領司が追加した機能は完全時間停止機能と容量無限大、それと取り出す際に任意で時間の経過を調整出来る機能です。これひとつでそのまま新鮮保存も熟成も行えるようになっております。今のところ世界にただひとつの、最も優れたマジックバッグになっておりますよ。」


「は?」


 またとんでもないことをしてくれたもんだ。なんつーものを寄越して来たんだ。なんだよ、任意で時間の経過を調整出来る機能って。百年古酒も飲み放題じゃないか。


「料理を好んでよくやってらっしゃるとバンタン様からご報告を頂きまして。熟成肉という考え方を初めて知りましたよ。気になります、ええ、非常に。」


 ああ、ジュンさんに話したな、そういえば。そんなことまで報告されてるとは驚き。迂闊なことは言えないじゃないか。……バイキン氏でも「バンタン様」なのか。ジュンさんどんだけ。


「私がコレを持ち帰ったら領司はとても悲しまれると思います。どうかお受け取りください。私からもお願い致します。」


 バイキン氏は当然のようにあの男の味方をしてくれちゃう。あ、部下か。補佐役だった。

 正直、受け取りたくない。屈辱的だ。でも、今までで一番、わたしの要望に沿っている。別にあの人に頼んだわけじゃない。上がって来た報告から色々と考えたのだろう。わたしが望むことは何かと。


 それが、とてもくすぐったかった。


「受け取ります。今回は受け取りますが、これっきりです。あの人に伝えて下さい。〝もう二度と高額商品をわたしに買ってくれるな〟と。あとお礼を……直接言いたいので、近いうちに時間を作って欲しいです。」


 バイキン氏はホッとした顔をして、メッセンジャー役を引き受けてくれた。お役人さんにおつかいみたいなことさせて申し訳ない。


 バイキン氏との面会はとてもあっさりと終わった。今までの面会は何だったんだというくらい、三十分もかからずに。


「良いものもらったわねェ。」


 まだギルドに残っていたジュンさんと一緒に寮まで帰っている。それはゴズさんとギルマスにも言われた。ゴズさんは儲けたじゃねーかと言い、マッタさんは苦笑していた。ジュンさんは何でもないことのように感想を述べたのでセレブの感覚では普通なんだろうか。おっそろし。


「庶民のわたしには分不相応です。」


「最初のオーダー通りでも一般冒険者には手の出ないモノだったけど?」


 思わぬ方向からグサッと来る。カタログ見てちょっと調子に乗ってしまったことは間違いない。


「まあ、ソヨウの使ってたのよりは劣るから。それで安心してくれない?」


 そんなもんは安心材料にはならんよ、ジュンさん。


「バイキンさんはわたしのバッグが世界で唯一の最高のバッグだって仰ってたんですけど、違うんですか?」


「だって、生き物入れられないでしょ?」


 うえ。本当にあるんだ、生き物入れられるマジックバッグ。


「アタシも同じモノ持ってるけどね。」


「え、そうなんですか?」


「そうよ。ソヨウにプレゼントしたの、アタシだもん。もう作れる職人もいなくなったわ。カーンキッツ帝国の来訪者だったのよ。そのカーンキッツ帝国もなくなっちゃったけどね。」


 カーンキッツという帝国が二百年くらい前まであり、ジュンさんはそこの出身だ。今はミー・カーン、イーヨ・カーン、キーン・カーン、ブシュ・カーンという中規模の国とハッサーク、ダーイダーイ、ヴァンペイーユという小国に分かれている。ボード氏の授業で学んだことだ。世界地図もらったもんな。

 カーンの中を冠する国は未だ王政を保っており、我こそがカーンキッツの正統なる末裔であると帝国再建の夢に向けて内輪で争っている。海を隔てた大陸の話なので、この国には余り関係のないことだ。

 ジュンさんは親と共にこの国に亡命して来て、来訪者であるエルフの祖母がいた為、一家は爵位を与えられた。ジュンさんは説明がめんどいからハーフエルフを名乗っているが、本当はクォーターというわけだな。血の影響は濃いんだけど。


「この国にはウチで所有してた分しかないのよ。元々カーンキッツの高位者にしか持てないものだしね。といっても、何個かあるんだけど。ソヨウにあげたのは祖父の遺品よ。それと時間停止機能のないのもあるの。アレは下手な拷問より精神病むのよね。時間停止機能ついちゃうと思考も止まった状態になるからあんまり意味なくて。それをいくつか当時の王に献上したからいい爵位をもらえたのよ。」


 わたしは口を開けたまま相槌を打つだけの存在となった。いきなり物騒な話になったな。時間停止機能のない生き物を入れられるマジックバッグ。行きはよいよい帰りは怖いって童歌思い出した。通りゃんせより恐ろしいか。自分の意思で通るわけじゃない。


「熟成機能は割と最近出来たものなの。熟成肉の話聞いてアタシ欲しくなっちゃって。急がせた甲斐があったわ。ショウコ、それで早速マッドオックスの熟成肉ステーキ焼いてくれる?」


 なんということだ。犯人はここにいた。

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