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冒険者になろう(7)

「ショウコ!」


「〝オールスルー〟」


「あっ!」


 帰って来たら面倒臭いヤツがいた。やだわぁ、ストーカーって。玄関ドアにびっちり貼り付いて離れない。


 と思ったらハナちゃんが勢いよく扉を出てきた。


「ぐあッ!」


 ああ、外開きだから、そのドア。


「えっ!ああ!やだ領司様!なんでそんなとこいんの!?」


「くっ!」


「ショウコは?」


「私を見とめてすぐにスキルを発動して消えた。」


「え〜?調理室の窓から見えたからお迎えに来たのに!」


 そうだった。今日の夕飯はハナちゃんに料理を教えながら作る予定だった。野営もそのうちやるし、基本的な野営に向く食材を使って一品作るつもりだったんだけどな。どうしよ。このまま物理法則無視の壁通り抜けして中に入るか。そうすればあの男も入って来れまい。


 寮内は土足だからどこからでも大丈夫だ。一階は防犯上の理由で全て共有スペースだし。とりあえず少し大回りして、中廊下の突き当たり、明かり取りの窓のところから建物に入る。


「〝キャンセル〟」


「アラ。」


「あ、ジュンさん。」


 いたのに気付かなかった。


「またあのバカが来たみたいだから追い払おうと思ってね。」


「いつもすみません、ご迷惑をおかけして。」


「まあ、たまーにいるからね、こういう輩。誰々に会わせろとか恋人だから仲に入れろとか。春先におおいのよねェ。頭ん中にまで花が咲くのかしら。」


 それを言ったらヤツは一年中頭に花が咲き乱れていることになる。実際そうなんだろうけど。


「ところでそれ、なんですか?」


 わたしが手に持っている封筒の束について尋ねるとジュンさんは口の片端を上げて不敵に笑った。


「秘密兵器よ。」


 エルフにかかれば手紙も秘密兵器なのか。本来ならここで部屋へ逃げ込むべきなんだろうが、不思議に思ってついて行く。ゼーキン氏はわたしを見つけて喜色満面になったと思ったら、すぐにジュンさんの姿で青褪めた。


「ハナ、もういいわよ。」


「あれぇ?ショウコ、中にいたの?」


「スキルで入ってきたのよ。」


「あ、そっかぁ〜!便利ぃ。あ、領司様、さっきはごめんね!後頭部、お大事に!」


 ハナちゃんはゼーキン氏に謝罪をするが、あんなとこに突っ立ってたコイツが悪い。謝らなくていい。


「お前、また来たのね?」


「バ、バンタン卿……」


「その呼び方、やめてくれる?ジュンさんでいいって言ってんでしょ。」


「だ、だがしかし」


「ショウコ。」


「はい。」


「コレ、こちらの領司様に読み上げて差し上げて。」


 封筒を一通ピッと渡されたので、破らないように丁寧に便箋を取り出した。


「えっ?」


「ホラ、早く。」


「やめろ!やめてくれ!」


「あ、はい。我が友ジューン、ソヨウより。久しぶり!元気してる?ジューンのことだから元気よね?私は最近ずっとベッドにいます。今日は体調がいいから手紙を書いてみたの。本当は彼のこと追いかけてびっちり貼り付いていたいんだけど、仕事には着いてくるなって言われてるから我慢なのよ。偉いでしょ?これでも成長したのよ。老化もしたけど(笑)」


(笑)に近い表現があるのか。へえ。


「人生も終わりに近づいて来て、この頃は彼のこと以外のことも考えるようになりました。息子のバルトは兄のガーメッツとも仲良く……出来てない!何なのあの子!我が子ながら無愛想にも程がある!信じらんないわ!まあ、そんなところが可愛いんだけど!」


「ショウコ、読むのをやめてくれ、頼む!」


「あの子ね〜、多分、私の血が濃いから。スキルも多いし、竜人特有の身体能力も高いの。まあ、私みたいに完全竜化は出来ないだろうけど。んでもな〜、番はなかなか見つからなさそうなのよね。二十年後くらい?来訪者がコノの街に現れるんだけど、その子が番らしいのよね〜。全然振り向いてもらえないけど!」


 え。何それ。これ、コイツの母親のソヨウさんの手紙だよね?何でそんなこと知ってんの。


「ソヨウのスキルは〝予知夢〟だったのよ。他にも〝飛翔〟を持っていたけど。」


 あ、なるほど。それで夢に見たってわけだ。


「あの、ジュンさん。」


「何?続きは?」


「ここから先は読みたくありません。」


「んじゃ、それ、本人に渡してやって。おい、汚すんじゃねーぞこの朴念仁。」


 わお。ジュンさん急に男が出てきた。こわーい。


 というか、ソヨウさんと友人だったのか。上流階級の長命種同士で仲良かったのかな。

 ふとゼーキン氏に目をやると顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。息子がわたしに対してやらかす(予定)のことがソヨウさん目線でたくさん書いてある。もう既に起きたこともあった。あの最悪な朝チュンのこととか。ジュンさんは初めから知っててわざわざあの日わたしの部屋に来てくれたんだ。この手紙も的確に狙って渡して来たんだな。最も効果アリと判断して。

 ああ、もう感謝しかない。今後一生、頭が上がらんわ。


「読み終わったなら返しなさい。ちょっと、保護はしてあるけど余計なシワつくから握りしめないでよ!」


 ソヨウさんの予知夢の結論として、〝バルトは番とは結ばれない〟と書いてあった。わたし、他の人と結婚するらしい。見た目の特徴は書いてあったけど、今のところそんな人は周りにいないなぁ。

 自分も初めは総統閣下がソヨウさんから逃げて他の人と結婚したけど上手くいかなくて離婚したから結婚出来たけど、バルトは無理ね(笑)と書いてあった。わたしは恋愛結婚して仲睦まじく子宝にも恵まれるそうだから。衝撃。てか、息子の不幸を(笑)って。


「他にも読む?予知夢で見たアンタの愚かしいエピソードが書いてあるわよ?」


「か、貸してくれ……対策を、練りたい……」


 対策練らずにそのままいけよ。いや、手紙に書いてあったことされたらウゼェな。大人しく諦めてもらいたい。


「予知夢は絶対じゃないんですか?」


「未来は一つじゃない。いくつかの道筋がある。だから、絶対とか変えられないとか、そういうんじゃないのよ。どの道を選ぶか。それだけ。」


 ソヨウさんの予知夢はレベルが高く、色んなルートを見て可能性の高い順というのまで分かるらしい。恐らくこの手紙の内容はいくつか見た道筋の中で最も可能性の高い道だとジュンさんは言う。


「ああ、別のにはとうとう夢の中で息子が犯罪者になったって書いてあったわね。」


「何したんです?」


「アンタの飲み物に自分の体液混ぜて飲まして酩酊状態になったところを連れ去って拉致監禁。」


「わたし、壁、通り抜け出来ますよ?」


「そういやそうよね。じゃあ、既にもうそれとは違う道を来てるのかしら。」


「ショウコ。」


 名前を呼ばれたのでついジュンさんの後ろに隠れてしまった。いい歳した大人が情けなかったな。気を取り直して一歩前に出る。寮からは出ないが。


「私に少し時間をくれ。こんな不幸な未来、絶対にあってはならない。どうしたらいいか、よく考える。」


「わたしは幸福らしいのでこのままでもかまいません。」


「ゔっ!」


「まあ、好きにしたらいいんじゃないですか?可能性はたくさんあるそうなんで。」


「結ばれた未来の話は一回も出て来なかったわよ〜!」


「ぐっ!」


 胸を抑えて蹲っちゃったよ。


「ねえねえ、おはなしまだぁ?お腹すいちゃうよ!」


 んおっと。そうだ。ハナちゃんに料理教室やってやんないとだったわ。


「では、わたしは彼女と約束があるのでこれで。」


「え!?あ、う、ああ……。」


「出来たらアタシにも味見させて?」


「普通にご馳走しますよ。」


 ジュンさんが玄関ドアを閉めて、ゼーキン氏は視界から消えた。


 一品が完成する頃、調理室の窓から、とぼとぼと馬を引きながら歩くゼーキン氏の姿が見えたのだった。


 アレ、多分、ダンジョンのことで言いに来たんだよな。まあ、本題入る前に話切り上げらからいっか。

ガーメッツ・イ・ヨックバール(33)

ヨックバール総統の長男 母親は一人目の妻

首都で政治家の秘書をやっている

妻子持ち 一人目は来年成人予定

がめつい欲張りさん


バルト・ゼーキン旧姓バルト・イ・ヨックバール(27)

威張る欲張るだったが余り威張ってはない

開き直ってはいる

元々ギャグ要員だったのにどうしてこうなった

早くに死別した母の遺言〝番はなんとしてもモノにしろ〟は、一応息子を思った言葉だった

番に対して自制が効かなくなるのはわかってたのに、それを助長した最大の要因を作ったのはソヨウ

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