冒険者になろう(6)
「十時間は起きてられるようになったな。」
「そうですね。」
「よし、とりあえず往復入れて三時間。ダンジョン潜ってみるか。」
新人研修も二週間過ぎた。体力向上、基礎戦闘、ダンジョンについての座学などが訓練内容である。このスルースキルで戦闘訓練が必要なのかと思ったが、不測の事態もあるので、多少の心得がある方がいいと言われた。口塞がれたらアウトだもんな。やりかねない奴もいることだし。
レベル次第で詠唱破棄的なヤツが追加されることは往々にしてあることらしいが、とにかくレベルを上げてみないことにはどうしようもない。
ギルドまでの行き帰りも〝オールスルー〟状態。部屋にいる時間も〝オールスルー〟状態。寝ると自動的に消える。領館で調べてもらった時に読んだ解説にはレベル50に到達すれば睡眠中も効果持続。メーガー氏によると来訪者はレベル50までは結構すんなり上がるらしい。すんなりと言ってもこちらの世界の人に比べてすんなりなだけで、結構長い道のりのようだった。
というわけで、二週間の間にレベル13まで上がった。レベル10で獲得した〝世界から認知されない〟効果はレベル1の時間と範囲相当だった。レベル11でレベル2相当の範囲相当。レベル12でレベル2の持続時間を獲得。レベル13はレベル3の範囲相当で効果が得られる。こんな感じで効果が上がってくんだな。
「まあ、なんだ。心構えだけはしておけ。モンスターはオレに任せとけ。今回はどうせ最上階ウロウロするだけだから。」
「分かりました。」
ゴズさん、頼りになる。
「ところで領司様には報告しないでいいのか?」
「ギルドから訓練の報告は上がってますよね?」
「まあ、そうだけどよ。直接話をしなくていいのかってこと。竜人って番にゃ過保護だろ?」
「ギルドからの報告だけで充分です。」
でもなー、とウダウダ言ってるゴズさんにお疲れさまでしたと告げて置いて帰る。ひとっ風呂浴びて帰ろう。日本人は風呂好きだからな。もれなくわたしも風呂が好きだ。露天風呂付き銭湯がギルド内にある。素晴らしい環境である。まあ、毎日は入らんけど。
「おっ、番さんじゃん。お疲れ〜。」
「その呼び方即刻やめてください。お疲れさまです。」
彼女はキョウ・ノ・リョーリさん。キョウちゃんとかキョウさんとか呼ばれている。21歳の中堅冒険者だ。スキルは〝俊足〟らしい。真ん中に一文字入るので上流階級出身のはずだが、家出して来たから家は関係ないと言っている。
ウチのギルドに所属する上流階級出身者は彼女含め三人。もう一人はジュンさんで、最後の一人はコート・ウ・ムーケイという男性である。正規職員で彼もゴズさんと同じ訓練士。指導教官である。指導教官は新人だけでなく低ランクの者の戦闘訓練もするし、指導がない時間は普通に受付にいたりする。自称放蕩息子。そこは荒唐無稽じゃないんか。
各地の冒険者ギルドにはそういう変わり者が一人はいるらしい。ここは三人で多い方とジュンさんが言っていた。
「あたしの方が年下なんだから敬語いらないよ。冒険者はみんなタメ口だよ。」
「なんか、もう、クセで。トウは立ってるけど新人だし。」
「気にしなくていいよー、そういうの。いやぁ、すごいよね、番とか!笑える。」
笑わないで。こっちは真剣に嫌なんだから。
「あたしもさー、十六ん時かな?あの人と見合いセッティングされてさぁ。冒険者なるって言ってバッチバチに親とやり合ってた頃なんだけど!」
マジか。
「ああ、安心して?バックれたから!」
何故そこで捕まえておいてくれなかったのか。遺憾である。
体を洗って、湯船にドボン。ふう。気持ちいい。温泉ではないが、薬湯風呂。ハーブ風呂と言った方が合ってるか?いい香りがする。出来れば部屋にも浴槽が欲しいが仕方ない。
「ダンジョン、もう行った?」
「まだです。」
「敬語。」
「あ、ごめん。んー、一応、高層階ウロウロすることになった。何日に行くか分かんないけど。」
「そうなんだ。でも、ゴズさんいるから余裕だね。」
「ダンジョンってどんなとこ?」
「んー、迷宮?」
「それはさすがに分かるよ。」
「えー?結構綺麗だよ。高層階は整備された地下通路っぽい。中層階は岩肌剥き出しのことが多いかな。低層階は行ったことないから分かんないけど、地下深いのに自然光っぽい明かりがあったり、ずっと沼地みたいだったり、逆に透き通るような泉みたいだったり、何にもない巨大な空間だったり、魔境って感じらしい。」
なんだそれは。意味が分からない。地下なのに自然光?どんな仕組みなんだろう。
「あんまり深く考えちゃダメだよ。そーゆーモンって割り切っとかないと。」
「そっか。そうする。」
「ショウコのスキルが他者への付与があったら楽勝なんだけどなぁ!あ、あんま言うなって言われてたんだった。」
「そうなの?」
「あー、まあ、他者への効果付与は割とあるあるだからね。でも出ないこともある。アテにすんなってことだよ。」
わたしのスキルは〝戸川祥子にだけ許されたスキル〟らしいから、もしかしたら他者への効果付与は出てこないかもしれない。ソロ活一本の可能性が高いな。
「潜る日決まったら教えて!見物に行くから。」
「何で?」
「ゴズさんの戦いぶり見て勉強する。あの人、〝一撃必殺〟と〝カウンター〟持ちなんだよ。レベル高いから発動率も高いし。あたしのスキルは任意発動系だからあんまり参考になんないけど、気配の察知の速さと正確さでも優秀だからね〜。冒険者に向いてるスキルでも発動条件あるヤツだとやっぱ自分自身が強くないといけないから、相当努力したんだなーって思うし、尊敬する。Sランク冒険者、ウチでゴズさんだけだしね。」
ゴズさん、すごい人だった。ギルマスはAだっていうのは聞いたな。
「ゴズさんがそんな感じで、奥さんのミルックさんが認識阻害でしょ?それで売店にいるアーリさんが探知、酒場やってるキントーさんがあたしと同じ俊足。すごいバランス取れてるパーティだったんだよ。ミルックさんもアーリさんもそれなり戦えるし、ココのギルドで低層階に行けるパーティはあの人たちだけだったんだよね。あたしがココに来た頃には解散してたけど、首都でも結構有名だったんだよ。」
へえ、そうなんだ。キントーさん、俊足なのに足無くなっちゃって辛かっただろう。今は素晴らしいつまみを出してくれる居酒屋やってるから、悪いことばかりじゃないんだろうけど。
「ウチのパーティも面子は悪くないんだけどね〜。探知系いないと成果はなかなか上げられないな。モンスターの回収も大変だしね。」
そうなのか。なかなか世知辛いな。
キョウちゃんは寮に住んでおらず普通にお勤め人の恋人と同棲しているので、帰り道もスキルを使わず、おしゃべりしながら途中まで一緒に帰った。
それがまずかった。
ゼーキン氏が寮の前で待ち構えていた。
キョウ・ノ・リョーリ(21)
きょうの料理
いいとこのお嬢さんなので料理はヘタ
ちなみに彼氏はバイキン氏の部下
不安定な冒険者という職業にロマンを感じつつも、配偶者には安定を求めるちゃっかりさん
一年目は首都近くの街のギルドに所属していたが、その後数年フリーで流浪の冒険者をしていた
コート・ウ・ムーケイ(28)
荒唐無稽
Aランク冒険者
ギルドの正規職員
自分のことを放蕩息子だと嘯くが、実力はある
ゴズに憧れてこの街のギルドに来たゴズ信者
一応、妻子持ち
最近娘にパパ臭いあっち行ってと言われる
実はバルトとは幼馴染みたいな関係




