真夏のアイラン島(2)
三連休中は一話ずつ出せそうです。
と言いながら明日投稿できなかったらごめんなさい。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「ただいま〜!マティコ、ホラ!彼があのユキヒト・サヤマだよ!」
「マティコ先生、ご無沙汰しております。」
「お久しぶりですね、バルトさん。そちらの方をご紹介いただけますか?」
「私の婚約者のショウコ・トガワです。」
「初めまして、戸川翔子と申します。」
「そしてこちらが私の親友のユキヒト・サヤマです。」
「……佐山です。しばらくお世話になります。」
「ようこそアイラン島へ。皆様のご来訪、心より歓迎いたします。」
「ちょっとお!僕は無視!?」
すっと頭を上げると、まあ、デカい。バカデカいって言ったら失礼だけどもバカデカい。これは身長2mはあるんじゃなかろうか。ゴズさんより背の高い人というとカッシーコのギルマスくらいだが、あの人よりも大きいぞ。二人とも190cm台だ。
そしてガチムチ。魔王様と並んで、どっちが魔王か尋ねたら十人中十人がマティコ氏を選ぶだろう。顔つきも厳しいがその分迫力があって、しかし一方でその中にも知性を感じさせる。
魔王様、どうしてこうなった。
「皆様の昼食もご用意してございます。奥様もご挨拶されたいとのことで、是非に。」
「いいか?ショウコ。」
「うん、せっかくのお誘いだし。佐山くん?」
「……っかりましたよ。バルトさんの顔を立てて、今回だけです。ここには泊まりたくないんで、別のとこ用意してもらえますか?」
「ユキヒト、ウチに来ればいい。私はユキヒトの意思を尊重する。」
「バルトさん……!」
「ユキヒト……!」
まーたやってる。コイツらはほっといて、クロシロのご挨拶をマティコ氏にしたら、ビアンカちゃんを早めに呼び出してくれることになった。呼び出し方法は犬笛だった。
確かに、今の佐山くんをあんまりここに長居させたくはないな。自暴自棄になって、余計なことし出かす前に撤収した方が良さそうだ。
来客用の休憩室があるところは、シディーゴで見る貴族のお屋敷と変わらないらしい。高級品だらけではあるものの、魔王の根城の割にはインテリアはすっきりと品よくまとめられている。虚飾に興味がなさそうな魔王様らしいといえばらしい。
「お茶をご用意いたしました。どうぞお寛ぎになってお待ちください。」
「ありがとうございます。」
男どもはまだ来ないので、マティコ氏とほぼ二人きりになってしまった。クロシロはいるけど、ちょっと緊張する。
目が合うと、マティコ氏はフッと笑った。
「バルトさんにも友人が出来たようで喜ばしいことです。」
「そう……です、ね?」
「あの子は、出会った頃から一人でいることに慣れきってしまっていました。貴女とサヤマ殿のお陰で、彼の人生は真の意味で豊かになったことでしょう。お二人にはお礼を申し上げたいと思っておりました。」
「いえ、わたしは大したことは……」
「貴女はあの子を伴侶として受け入れてくださった。それだけでも、彼は救われるのですよ。」
そういうものなのか?骨伝導レベルにものすごく響くバリトンボイスで言われるとなんだか説得力がある。比べるものではないと分かっちゃいるけど、魔王様とは大違いだ。
変なところに感心していると、僕もいるよと言いたげにシロがマティコ氏の袖を引っ張った。よだれで汚れる!
「すみません!コラ、シロ、やめなさい。」
「かまいませんよ。シロさん、クロさん、おやつはいかがですか?七面鳥のジャーキーをご用意してございます」
お仕着せのジャケットからスチャッとジャーキーを取り出した。わたしの膝にいたクロも良い反応を見せ、すぐにマティコ氏の足元で丁寧におすわりをした。その様子を見て、厳つい顔をゆるめ微笑むマティコ氏。なんとなくほんわかした空気が流れていたのに、突然ドンッと地面からの突き上げが。
「えっ、地震?」
「いえ、ここは旦那様のお力で自然災害の類は起こらぬよう制御されております。落ち着いて……らっしゃいますね?」
「地震は慣れてますので。」
地震大国である日本に生まれ育ったので、そこまで慌てることはない。こちらに来て地震は体験したことないが。あったらあったで建物の耐震性が不安だ。日本とは違うんだから。これから地震があったら気をつけよう。それより魔王様なにそのチート。魔王様の力で自然災害が起こらないってどういう理屈でそうなってんの。
とはいえ、わたしは慣れているがクロシロは警戒している。ああっ!高そうなお絨毯に食べかけのジャーキーが!
しかし、二人とマティコ氏は同じ方向を見ている。クロはイヤそうな顔をして、シロは歯を剥き出しにして怒っている。
「これは……」
マティコ氏は訝しげにそちらを睨んだ後、呆れた顔をした。はぁ、と小さくため息を吐いて、マティコ氏は姿勢を正し、いやずっと姿勢は良かったけど、改めて頭を下げた。
「お食事の準備が整いましたらお呼びいたしますので、一度下がらせていただきます。」
「あ、はい。お茶とこの子たちのおやつまでいただきまして、ありがとうございました。」
失礼します、とそのまま退室して行った。揺れは突き上げの一回だけだし、マティコ氏の様子からきっと地震じゃないんだろう。
だったらなんなんだって話なんだけど、それは昼餐会ですぐに判明した。ちなみにバルトと佐山くんはそのまま魔王様に拉致られて、結局部屋にはやって来なかった。
「ごめんねえ?ショーコちゃん一人にして!キーくんが来ちゃってさぁ!」
「キーくんってどなたですか?」
「キーメン・カ・クジン陸軍大将閣下だそうですよ。なんで俺まで巻き込まれんだよ……」
疲れ切った顔でお上品にナイフとフォークを動かす佐山くんはやっぱりいいとこのお坊ちゃんなんだなと再認識した。さすがにわたしもテーブルマナーくらいは分かるけど、所作の優雅さという点では大きく負ける。
それよりも、だ。
「てことは……」
バルトも若干憔悴した様子で、わたしの問いかける目線に頷いて返した。
うっわやっば。あっち、ド修羅場なのでは?ビショさん、とうとう年バレかぁ。
「せっかくいらしてくださったのに、初日から大騒ぎで申し訳ないわ。」
「いえ、夫人。お気になさらず。」
お美しいマ総統夫人シヨウ様。名前が似てて親近感がある。ビショさんをもうちょっと大人にした感じの方。ビショさんはひいひいお祖母さん似なのだな。姉妹って言った方がいい見た目だけど。
ビショさんがアイラン島に来る予定なのは元旦那さんにモロバレしてたようだ。元旦那さん、あちらはあちらで鬼人一族の所有の島があるので、そこにいるっていうのは魔王様たちも把握してて、ビショさんへの仲介を頼まれてたんだそうだけど、元旦那さん、魔王様のお呼び出しを待ちきれずにコッティラーノ御一行の泊まる館で待ち伏せしてたらしい。
まあ、始まるよね。壮大な(元)夫婦喧嘩。あの揺れはビショさんの一撃によるものだった。転移で来たくらいだから、ここから結構離れてるはずなんだが?バンタン一族の最終兵器、恐ろしすぎる。
「そういえば、クジン大将は陸軍をお辞めになると聞いてたのですが。」
「ショウコ、知ってたのか?」
「あー、マッタさんから……」
「結局それは受理されずで、心身の不調により休職ってことになってるよ!ビショちゃんと寄りが戻れば仕事できるだろって思われたみたい。ウチの玄孫ちゃんのことなんだと思ってるんだろうね!?」
「ビショは嫌がったのに、本人がいいならまーいーんじゃなーい?で婚姻を後押ししたのは貴方でしょ。」
「ううっ!シヨウ、そのこと、まだ怒ってたりする……?」
「忘れるとお思い?」
「ごめんてー!だって、あの頃はまだ女の子は愛された方が幸せになると思ってたんだよぉ!」
結果的にビショさんに忍耐を強いたのは魔王様のせいか。だからあの顔面ビンタなのか?あのビンタが許されるのか?
「それってマ閣下が決定打ですよね。縁談自体はバンタン家当主だったジュンさんの弟さんが持ってきた話ってことでしたけど、周りからガチガチに固めて逃げ場なくしただけでビショさんの自由意志に反してますよね。」
おお、佐山が荒ぶっておる。自分のことと重ねているのかもしれない。
「ユ、ユッキーまで!!!」
「この人はね、妻は囲い込むのが愛情表現だと思ってるから。ビショは軍部に入って大将になるのが夢だったのに、それまでバンタン家に止められて、ただの孕み腹にされて。可哀想で仕方なかったわ。今みたいに冒険者として楽しく生活してくれてる方が余程あの子らしくていいわよ。」
夫人からの追撃のダメージは大きいらしい。二人に言葉でボコられてしおしおになった魔王様は、ぐすんぐすんと鼻を啜りながら食事を進めていく。落ち込んでる割にはよく食べるな。
「キャンッ!」
「グルルルルルル!」
「シロ?」
シロの悲壮な声に驚いてそちらを見ると、シロの首にビアンカちゃんが噛み付いている。側で控えていたマティコ氏が慌ててそれを引き剥がした。どうやら食事していたビアンカちゃんにちょっかいを出して怒られたらしい。クロはそれを横目で見ながら自分の皿を隅々まで舐めている。
披露宴でもできそうなだだっ広い食堂でランチをいただいているのだが、ご好意でクロシロも同席させてもらっている。ちょうどビアンカちゃんも帰ってきたので、交流ついでに一緒に食事となったのだが。
ところがどっこい、初対面でシロの目が見たことないくらいキラキラと輝いていた。どうやらビアンカちゃんに一目惚れしたらしい。勝手に大きくなったと思ったらいきなりマウント取って腰をカクカクし出したからビアンカちゃんがブチ切れ。モンスターはテイムドモンスターであっても威嚇とか危険回避行動とかはするけど、普通は自身の感情を露わにすることはないそうだから、こうして嫌がったり、テイマーの指示もなしに私情で攻撃したりってことはないらしい。戦闘に入るときもそれを示すコマンドがあるし。
モンスターって繁殖しないからそういう欲求ないんだと思ってたけど、わたしの思念から生まれてるシロはともかく、ビアンカちゃんがマティコ氏のテイムによる制御から外れる行動はめずらしい……というか初めてのことだって。
まあ、ビアンカちゃんは一般的なテイムドモンスターのフェンリルなので子どもは出来ないとはいえ、いきなり見知らぬオスにのしかかられていい気はしないはずだ。ホント申し訳ない。
「怪我はないようです。申し訳ございません、トガワ様。お叱りはいかようにも。」
シロの身体を確認してくれたマティコ氏が申し訳なさそうに頭を下げた。シロの首に穴が空いてないってことはビアンカちゃんも手加減してくれたはずだ。
「いえ、きっとビアンカちゃんも煩わしかったでしょうから。シロ、仲良くなりたいのは分かるけど、しつこい男は嫌われるよ。」
「そうよ、シロちゃん。愛情はね、押し付けちゃダメ。好きだから何をしてもいいなんて理屈はないの。女にだってひとりになりたいときもあるし、隠しておきたい、打ち明けたくないこともあるのよ。適度な距離を保って、まずはお友だちから始めなさい。」
だいぶ私情の入ったシヨウ様のお言葉を理解したのか、チラッとバルトを見てからしゅんと頭を下げてしまったシロ。バルトも気まずい顔してる。
何があったのか知らんけど、魔王様は反省した方がいいよ。ビショさんのことだけじゃなく、余罪がいっぱいありそう。
動物愛護センターの譲渡会に行ってきました。
住まいが都市部なのでわんこは少なめです。
子猫のかわいさが天元突破してました。
ふてぶてしい成猫の貫禄ある顔ってかっこいいですよね。
ずっとのおうちの子になれば、またそれも変わるんだろうなと思います。




