実績を作ろう(9)
第四階層がワンフロア方式で助かった。さっさと調査が済んだ。
陸に上がって、カッシーコ支部に着くと、何故かマッタさんがいた。
「会議はどうしたんですか?今日丸一日かかるんですよね?」
「ああ、最終日はいつもつまらん会食だからな。サボった。」
「そんなんでいいんですか?」
「一応、伝言はしたぞ?ショウコを早く帰さないとゼーキン卿が怒って飛んでくるので迎えに行く、ってな。」
おい、人のせいにするな。それに、心配して飛んでくることはあっても怒って飛んでくることはないと思うが。
「そういうわけだから、ちょっとその辺のダンジョンに潜ろうじゃないか!」
「わたし、今ダンジョンから戻ってきたばかりなんですが、なんでそうなるんです?」
「ギルドマスターなんかになってから、全然現場に出てないしな!ここの小規模ダンジョンなら、現役退いて長いアタシでも余裕!付き合ってくれ!」
いや、報告書仕上げたいんだけど。
なんて言い訳は通用しない。ギルマスの中で唯一付き合いのあるカッシーコ支部長も一緒に戻ってきたらしい。わたしからの報告書を至急確認したいという理由をつけて。だからわたしを巻き込むなよ。
「そういえば、シディーゴの方の報告、マッタさんたちも聞きました?」
「聞いたぞ!サブマスが会議場の前でスタンバッてたからな!あわよくばお前らにそのまま討伐依頼を出すつもりでいたらしい。」
「ドラゴン並みの巨大スライムなんて前代未聞だもんな。自分とこのご自慢のSランクパーティーが喰われるのを嫌がったんだろうよ。」
何故かカッシーコのギルマスまで一緒にダンジョンに潜ることになった。会議で不在扱いだから、休みと同じ!という謎理論で。
「そうだ、ショウコ!聞いたか!?」
「なにをですか?」
「本部でお前の対応したサブマス、サヤマの呪いで便所の虫になってるそうだぞ!くはは!いい気味だ!」
ああ、やっぱり。そんな気はしたんだよ。本部の連中が無茶振りしてくるのはいつものことだけど、あの人のアレは酷すぎた。
だから、ヨックバールの人たちにもカーテン氏にも、正式に抗議した方がいい(バルトを通して)と言われたんだけど、どうせ形だけの謝罪になるのは目に見えてるから断ったんだよね。アレで呪いが発動しなかったら大体大丈夫ってことになるから。
「よかったです、ちゃんと呪いが発動して。」
「ユキヒト・サヤマはやっぱりすげえな。本人、普通の兄ちゃんで、薄っぺらくて風吹きゃ飛んできそうなのに。」
モーイ・イーカイ、カッシーコ支部ギルドマスターが笑いながらそう言った。
まあ、全面的に同意する。
「ウチの支部全体にかけてくれんかね!?」
「それやったらコッティラーノがコソアードからの独立疑われるからやめた方がいいって言ってましたよ。最悪、内戦だか独立戦争が起きて、民間人が犠牲になるって。」
「銭ゲバクソ野郎どもが便所の虫になるだけなのに?」
「〝国にはね、面子ってものがあるんです〟だそうです。」
なんでそんな話になったかというと、わたしの就職の件で、どんな条件を付けたらいいか相談したときに流れでそうなっただけなんだけど。マッタさんと同じこと言ったら「浅はかすぎます!」と怒られた。仲間がいた。ギルマスだけど。大丈夫か、コッティラーノ。
「モーイさん、そろそろ〝オールスルー〟レベル7、慣れてきました?」
「そうだな。普通に会話できるしな。」
マッタさんは一度だけ訓練にどんなもんかと参加したことがあったが、その一回だけでわたしの気配をレベル9で読めるようになった。
マッタさんのスキルは〝千里眼〟という〝危険予知〟の進化版だ。ざっくりした説明しか聞いてないが、見通せるものと範囲が多くて、また違和感にも気付きやすいらしい。
ゴズさんのモーギュ隊の前にいたSランクパーティーに所属してて、それが解散したあと、Aランクパーティーを作って活動。それも年齢を理由に解散して、ギルドに就職した。
マッタさんはコッティラーノの生え抜き冒険者だから、特に支持派閥などない。
一方、モーイさんは元々本部の冒険者だった。メンバーの負傷からパーティーを解散して、ギルドに就職したはいいものの、一般市民出身の個人Sランクなんて使い勝手のいい駒。最悪、捨て駒になってもおかしくない。
無茶な指示を千切っては投げ千切っては投げしてたら人望集まりすぎて、シディーゴのオマケ扱いのカッシーコギルマスという出世に見せかけたテイのいい左遷でやってきたそうだ。上流階級出身のクソジジイどもに目をつけられた、と言っている。
「本当に会食すっぽかしてよかったんですか?」
「いいよ。今のコレも正式に追加依頼にしとくわ。」
「それは助かりますけど……モーイさんの立場的に。」
「なんだ!心配してくれてんのか!」
あはは!と豪快に笑ったモーイさんは、笑い声につられた吸血コウモリを剣で裂いた。
「ユキヒト・サヤマの世界こそが理想郷であるってのがマ総統の言葉だが、お前さんこそこの世界はイヤなことが多いだろうに。」
「イヤなことは大なり小なりあちらの世界でもあります。」
「そうか。意外と大して変わりないのかもな!異世界っつっても!」
そうかもしれない。人間がいる限り、考える知能ある生物がいる限り。欲があって、争いは続く。
訪れたカッシーコ第八ダンジョンは、行って帰って往復三時間のミニダンジョンだった。初日にもらった果物のエアの実がなる木が所々に生えている。海が近いから?関連するアイテムが取れるところらしい。それを根こそぎ回収していく。
ここは最近になって急に実入りが悪くなったらしく、更新を考えていたそうだ。最悪、死にダンジョンになってもいい、と。
ボスも下の下でモーイさんひとりでも殺れるらしいが、クロシロの実力が見てみたいとなんでか流れで戦うことになった。ちなみにボスはヒッポカムポスとかいう半馬半魚だった。
「いやあ!ウチの第二の更新はヨソの倍かかるから半期目標達成かなりヤバかったんだけど!エアの実もかなり収穫できたし、第二の解放、夏に間に合ってよかったわぁ!来訪者様々だな!」
「だろう!?ウチのショウコはすごいんだ!なんだったらまた年末近くなったら貸すぞ?」
「マジ?いやぁ、今高位ランカーみんな本部頼りでさぁ!こっちにいいのいるとすげえ好条件つけて引き抜いてくし!結局頭下げるしかなくて困ってたんだよ!」
「その点、ウチのショウコはゼーキン卿の番だしな!仕事はきちんとこなすし、本部のヤツらとちがって謙虚だ!今ならお安くしとくぞ?」
「ほほーう。どれくらいイケる?」
「マッタさん?モーイさん?」
「どうせ年末年始はまたヨックバール邸に行くんだろ?そうだ!そのときにゼーキン卿も誘って行くといい!ゼーキン卿ならショウコがいればタダ働きも辞さないだろうし、ヤバめのボスだって狩ってくれる!竜人は水中戦も強いというしな!」
「そりゃいいや!しっかし、悲劇の貴公子もようやっと番が見つかって、よかったよかった!しかも番は来訪者の冒険者ときたもんだ!鬼人に金棒だな!よし!依頼出すぞ!レンタル料、これでどうだ!」
コ・イ・ツ・ら〜!!!
ビッと三本指を出したモーイさんと、元値は五本だぞと四本指を突き出したマッタさんの腹がゆるくなるのは、そう時間のかからないことだった。