実績を作ろう(7)
「あ、おかえりなさい、ショウコさん。クロ?どうしたの?抱っこ?」
ダンジョンから出て午後は丸々ファーファちゃんと過ごしていたので、クロはストレスを感じていたようだ。ギラギラした目で見られてたからなぁ。
汚職なんてしなさそうなオーショック君が出迎えてくれた。アッサリした対応のオーショックくんの側が楽なのだろう。クロは抱っこされたまま降りようとしない。わたしはピアスの効果があってもダンジョン帰りなので風呂には入りたい。クロシロをそのままオーショック君に預けて、いつも借りてる部屋へ向かった。
ゾーワ夫人の侍女の方にエステを勧められたが今回はお断りして、仕事の疲れをお湯に溶かし出す。はぁ、ハーブ風呂を用意してくれてたよ。ありがたいわぁ。極楽極楽。
「もう買い手がついたんですか?」
「そりゃあ、そうよ!だって、フェンリルの生んだダイヤモンドよ!?」
「そう興奮するなよ、コーワ。」
「だって、メッツ!」
宝石商はゾーワ夫人のお呼び出しに即座に参上し、原石をあの塊ごと持ち帰り、鑑定士が鑑定しておおよその金額を弾き出した。宝石商の鑑定士は物の価値や金額の分かるスキルらしい。母岩にくっついた原石なんかであっても、内包物の有り無しも含めて何の石が含まれているか、純度、硬度、配置分布を知ることが出来る。そういう人は図面に文字が注釈で書き込まれている状態に見えるそうだ。図鑑なの?
人それぞれの形で見えるっていうのはカーテン氏に聞いた話であるが、随分と違うもんだ。あの方の見え方はなんとかペディアっぽいもんな。
「フェンリルダイヤモンドと名をつけてもいいかと言われたけど、イヤよね?」
「そうですね。」
「狙われる原因をわざわざ作り出すことはしたくないものね。食い下がられたからショウコさんの意思を確認してからと伝えたけど、こちらからきちんとお断りしておくわ。あちらの商会長は弁えている方だから安心して。」
「ありがとうございます、ゾーワ夫人。」
「そろそろその夫人というの、やめてちょうだいな。」
ここまでしてもらって、他人行儀なのは失礼だっただろうか。しかし、現役の総統夫人だぞ?
「コーワみたいに〝お母様〟でも、クロちゃんやシロちゃんたちに言ってるみたいに〝ママ〟でもいいわよ。」
いや、さすがにママはちょっと。
わたしは、母という生き物にいい印象がない。むしろ嫌悪感まである。
「では、お母様、と、呼ばせていただきます。」
「うふ。ありがとうね、ショウコさん。」
お母様なんてご大層な呼び方は絶対に似合わない女だった。
わたしにとっての本当の意味での母は祖母で、お母様はゾーワ夫人。
それでいい。
翌日はカッシーコへと向かう。馬車で混み合う道を車で走るのは行きで懲りたので、夜明けとともに出発だ。マッタさんの会議は一週間あるので、終わるまでには戻ってくる予定だ。
カッシーコの依頼は更新したばかりのダンジョンの調査。カッシーコのダンジョンはシディーゴよりもこぢんまりしている小規模ダンジョン群がある。レアアイテムが多いと聞いているので、仕事が早く終わったらどこかひとつに潜るつもりだ。というか、受付したら行ってくれると助かると言われた。
首都からカッシーコ本部までは佐山くん曰く東京〜浜松くらい。途中から輸送の大型多頭馬車がたくさんいたので馬をビビらせないようにゆっくり走ってたら思いの外、時間を食ってしまった。それでも馬はビビってたし、人もビビってた。帰りは前みたいに夜中走った方がいいな。
さて。今回はなんと海中ダンジョン。人の手が入らない分、スタンピードが起きやすく、結構な難所らしい。人工の島を作って出入り口の管理をしている。ジュンさんが言ってたマーマンの子孫なんかが働いていると聞いたので少し楽しみだ。
海中ダンジョンと言っても、ダンジョン全てが海水で満たされているわけじゃない。ただマーマンやマーメイドの子孫が持つスキル〝水中散歩〟を付与してもらわないとダンジョンの入り口にたどり着けない。それも半日しか効果が続かないので、パッと行ってパッと戻らねばならない。大規模ダンジョンなのに、だ。
長期滞在となると戦闘に長けた正規職員のマーマンを連れて行かなくてはならないので、大体国の依頼でシディーゴのSランクパーティーが中層階低層階の間引きを行っている。彼らはシディーゴとカッシーコを兼任していると言ってもいい。今回はスタンピードの予兆があったので、先にボスを倒しに行ったそうだ。
実力がある冒険者がいればそういう手もあるのだ。この前のコッティラーノ第一のように。
わたしは〝オールスルー〟でイケるが、万が一のためにスキルの付与をしてもらった。そういえば、〝飛翔〟以外のスキルの付与は初めてだ。クロシロにもちゃんとついたのでこれで半日は安心だ。
そんな行きはよくても帰りがヤバい、大規模ダンジョンだが、今回は秘策がある。シディーゴは人目につきやすいので、若干過疎化している海中ダンジョンで試すのだ。上手くいけば、今後はダンジョン内移動は全部コレでいい。
電動スクーター。EVの原付である。佐山くんに出してもらって、充電も切れることはない。耐水含めて永久不壊の付与済み。なんと素晴らしい。
ぶっちゃけ、自動車の免許は取ったが教習所でお遊び程度に原付に乗せてもらったことしかなかった。二段階右折?なにそれ?
とりあえず、走る、止まる、停める。これが出来るようになるために、出張まで訓練した。発進の時にハンドル回し過ぎるクセがなかなか治らなかった。
海中ダンジョンは夏が掻き入れどきなので、さっさと調査を終わらせたいらしく、わたしが呼ばれたって寸法だ。この世界でも夏は暑い。地球でいう北半球に当たるからだ。こっちでもみんな夏は海を求めるんだな。わたしは興味がなかったから。雅樹はお付き合いで釣りによく行っていた。夏に限らんか、釣りは。
「よし、行くよ、二人とも。」
クロシロは原付のスピードにも当たり前についてこられる。リミッター外しますか?と佐山くんに問われたが、怖いからやめといた。操作しきれん。〝オールスルー〟なら怪我もしないけど、やっぱり事故は怖い。
左手の壁に沿って原付で移動をする。メーターで走った距離が出るので、支道があればその数字をメモに書き込む。測量技術があればもっといいんだろうが、そこまでわたしたちがやってやる義理はない。
地上には測量技術があるんだろうけど、技術さんたちは戦える人たちじゃないからな。高層階はともかく、下の方には連れてけないし、冒険者たちは増えるお金以外の数字を見ると頭が痛くなる人種だからダメだ。
ここは佐山くん曰く、舞浜にあるテーマパークを二つくっつけたくらいの広さ、らしい。やはり千葉なのか。
というか、佐山くんマジでなんでも知ってんな。検索すれば分かりますよと言われたが、検索すべき比較対象がまず思い浮かばないんだよ、わたしは。
いつか子どもが産まれたら、頭の出来はバルトに似てくれればいいのだが。




