総統夫妻の悩み(3)
その後はわたしの故郷である日本の話に及んだ。悪い意味で伝説の来訪者、佐山由紀人氏の話に話題が移った。
「なんと!」
「まあ!」
どうやって一夜にして国を滅亡寸前まで追いやったのか。それはスキル実現で〝此国全体徹底破壊〟という願望を実現したからである。〝此国滅亡〟としなかったのは良心からだろうか。いや、それなら復讐せずにさっさと帰ったな。それだけ恨みがあったんだろう。
「恐ろしいな。ショウコのスキルが平和的なもので本当に良かった。」
「わたしもそんなスキルを与えられても扱い切れません。彼は言葉に精通していたようなので、彼ならではのスキルなのだと思います。」
「そうか。まずレベルが上限を突破して無限大に達したというだけでもユキヒト・サヤマは特筆すべき存在であったのだが……やはり来訪者の拘束はいかんな。トガワ殿のスキルもどのような進化を遂げるか分からない。攻撃に特化したスキル持ちの来訪者が、本人が扱いを間違えて山がひとつ吹っ飛んだ事例もあった。トガワ殿、今後もレベルが上がったら必ずメーガーに相談なさい。」
メーガー氏からもそう言われている。彼にとってはわたしはただのモルモットなのだが、記録を取ってくれるのは有難い。わたしはしっかりと頷いた。
「ショウコさんとは末永くお付き合いしたいの。よその国に行かれたら寂しいわ。」
「私が行かせません。」
「お前のそれが問題なんだ。報告書が余りにもとんでもないから私が来たんだぞ。」
わたしが呼び出しを食らったのはお前のせいだったのかゼーキン。
「ショウコさんは、本当に、その、あなたの番なの?」
「そうだと思います。」
「思いますって……。ゼーキンさん。」
「バルト。」
「そこにわたしの意思はないんですか?」
「断ることは出来る。こいつが勝手にトガワ殿を想い続けるだけだ。」
それもそれでウザ……迷惑なんですが。やっぱこの国出てこうかな。
「あなたが煩わしくて国を出ようとか考えてるわよ、きっと。」
「やめてくれ!」
「とりあえず、トレジャーハンターとして独り立ち出来るまではこの街にいるつもりです。ギルドとも新人指導の依頼をしてしまいましたし、突然環境が変わって少し慣れて来たのにまた変えるのはわたしも疲れてしまいますから。」
「だそうだ。彼女と番いたいなら自分で何とかしろ。お前の母のようにな。」
総統閣下が相当ゲンナリしておられる。何かあったのだろうか。執着と言うくらいだから、何かあったのは想像に易いけども。
「ふふ。あなたとソヨウさんの関係は有名だったから。」
「あの、ゾーワ夫人は何とも思っておられないのですか?」
「あの頃はまだわたくしも子どもだったからねえ。わたくしが七歳くらいの頃かしら。社交界でソヨウさんが主人を見初めて、お前は私の番だから今すぐに結婚しろと迫ったのよ。社交デビューしたてのまだ十五歳の主人に、百八歳のソヨウさんが。」
あれまあ。百八歳とは。
「竜人は本来長命だからな。若い時間も長い。五世代人と混じると少し長生きな人間程度にはなるが、彼女は先祖返りとでも言うべき人だった。竜人は番を見つけ、その相手と番って儀式をすれば、その種族の寿命となる。それまでの加齢はゆっくりだ。彼女は出会った当時、二十歳そこそこの見た目をしていた。だが、私と番い、子を生むと同時に一気に年齢通りの加齢が進み、儚くなってしまった。だから嫌だったんだ、ソヨウと結婚するのは。」
「それはそれは美しい方だったのよ。竜人の番になるとどうなるかこの人はよく分かっていたから、わざと親の勧める他の女性と結婚したの。まあ、そんな結婚だと上手く行くわけがないわよね?結局、離婚した後、腹を括ってソヨウさんの番になったんですって。わたくしはこの人の介護要員よ。晩年に一人きりじゃ寂しいでしょ?」
あっけらかんと説明するゾーワ夫人にわたしはあんぐりとしてしまった。セレブの考え方は分からん。だが一応恋愛結婚ではあるそうだ。ゾーワ夫人もバツイチ。お仲間だった。前夫との子は既に成人済み。ファーストレディがバツイチ。なかなか先進的である。日本にもいたか。そういう人。
「バルトは人と同じ成長をして加齢の異常は見受けられなかった。まさか竜人で一番やっかいな性質を受け継いでいたとは……道理で何度見合いしても無駄だったわけだ。」
お見合い回数ゆうに百回以上。全戦全敗。
母ソヨウの遺言「一目合ったその日からコイツしかいないと思う相手をモノにしろ」という言葉を胸に、母の没年齢である百二十三と同じ回数だけ見合いをして総統閣下もとうとう結婚を諦めた、とぼやいた。
タブロイドにも〝社交界の貴公子本日のお見合い〟と記事が載るくらいに有名な話だったそうだ。だからゴズさんも嫁探しがどうたら言っていたのか。ひどい娯楽だな。
「そんなわけでね?主人は国の格を上げるためにあなたをこの国に留めておきたい、バルトは番を離したくない、利害が一致したのね。だからあなたに面会を申し込んだの。わたくしもソヨウさんのことをよおく知っているから、竜人の執着のことは理解してるわ。わたくしもあなたとは仲良くしたいと思ってる。だけどあなたには断る権利がある。バルトが嫌になったら逃げる手助けはしてあげますからね。」
「母上!?」
「その時はお世話になります。」
「ショウコ!?」
これまでずっと頭を悩ませていた義理の息子バルトの婚活がとりあえず収束したので、ようやく肩の荷が降りたとゾーワ夫人は鈴を転がすような美声で仰った。
わたしは今後、この美丈夫から口説かれ続けなければならないらしい。ウザ……いや、ウザいな。
「バルト。ショウコさんは婚約者の不貞のせいでまだ傷心中よ。つけ込むのは今のうちだけれど、あんまりしつこいと嫌われてしまうからね。ほどほどにするのよ。」
随分と明け透けに仰ってくださる。
頭痛い。ここに来て初めて日本に帰りたくなった。
おかしいな。恋愛要素はなるべく排除するつもりだったのに。
とりあえず祥子さんには色々スルーしていってもらうように頑張ってもらいます。
お読みいただきありがとうございます。




