実績を作ろう(3)
目をガンギマリさせてシロを撫でていた女性事務員さんはファーファ・ジュナンさんという。コソアード冒険者ギルド本部回収品管理課アイテム係勤務の二十一歳。佐山くんやキョウちゃんと同い年か。鑑定スキル持ちだって。
首都出身でも一般ピープルな彼女が本部に就職できたのは幸運だったと言っていた。獣人の子孫は身体能力が高く、冒険者になることが多いので、それを眺めるため、あわよくばモフるために必死に勉強して、必死にスキルを磨いたらしい。毛皮への執着が怖い。
別れ際、クロはドン引きしていたが、シロは名残惜しそうにしていたので、次にシディーゴに来たときに食事に行く約束をした。今回はわたしがダンジョンから戻ると同時にデスマーチが待ってるのであきらめるとのこと。なんか申し訳ないな。わたしのせいじゃないが。
しかし、シロ。小さくなってまた駄犬っぽさが戻ってないか?もしや知能も下がった?またジンさんに預けるのは怖いんだが。
ファーファちゃんと立ち話してたらいい具合の時間になったのでカーテン邸へ。逸る気持ちもあるが、まずは昼食。クロシロも同じ部屋で食事させてもらえるのは非常にありがたい。ヨックバール邸ですら別室だ。出されるのが高級な人間用のお肉なのは変わらないが。
「しかし、この子たちは不思議なことが多いねぇ。私のスキルレベルでも完全には読み取れていなかったということだ。」
「〝鑑定〟ってそういうものなんですか?」
「そうだよ。タブレットは知ってるね?あんな風に頭の中に表示されるんだが、レベルが低いと少ない情報しか書かれていないんだ。例えばタブレットなら赤字なんかで書かれているところはそこに触れれば詳細情報に飛べるだろう?レベルに見合わない情報は、普通に黒字で表示されていて詳細は伏されているし、レベルが上がればそれまで黒字だったところが赤字に変わっている、もしくは次のページが用意されている、というイメージかな?ま、あくまでイメージだけどね。見え方は人それぞれだったりするし。」
ふーん。みんな同じ見え方がするわけでもないんだな。
「そういえば今日、ギルド本部の鑑定持ちの方と友人になりました。」
「本部の?大丈夫なの?」
「ええ、夫人。クロとシロを可愛がってくれる方に悪い人はいないので。」
「まあ、この子たちは君に危害を加える人間に懐くことはないだろうから、この子たちが受け入れたのならそれは問題ないということだ。お前もそう心配するな。」
いや、受け入れてたのはシロだけなんですが。あの勢いなら猫は普通に嫌がるだろう。そう考えるとやっぱり佐山くんは家族扱いなんだな。弟扱いだ。
「動物が好きなようで、シロもたくさん撫でてもらえて嬉しそうでした。」
「そうかい。良かったねえ、シロ。私にもあとで撫でさせておくれ。」
「そういえばこの前、フェンリルの毛皮を出入りの商人に勧められたのだけど、シロちゃんのことを思い出してしまってお断りしたわ。硬い上毛を除いて柔らかい下毛だけを集めたフェルトのコートもあったんだけど、なんだかねえ。確かに素敵なお品だったのだけど。」
上流階級の貴婦人なのにフェンリルの毛皮に目の色を変えない貴重なお方。カーテン邸には足を向けて寝られないな。
「それならブラッシングしたときの毛を集めればいいんじゃないか?」
「別に欲しいわけじゃないのよ。それにそんな地道に集めてたらいつまで経ってもできないじゃないの。」
ブラッシングしたときに出る毛。そういえば、集めてる。容量無制限故に捨てることもなく、マジックバッグにポイだ。
日本で見たことのあるペットの毛で作るフェルト作品は興味があったので、そのうちやるつもりで集めてたんだ。ニードルフェルトとかいうやつ。道具?そんなの佐山くんに〝実現〟してもらえばいい。
クロもシロも決して経済動物ではないが、抜け毛も商売になるのか。まあ、売るほどはないから身近な人へのプレゼントにはいいだろう。なんせ、バルトと結婚したら上流階級との付き合いが待っている。なるべく避けるつもりではいるが、こうしてお世話になった人に何もしないでいるのは気が引ける。
日本でだって、ご贈答用の品は需要があった。お中元やお歳暮はともかく、お金持ち同士のプレゼントはちょっと気の利いた、他にないものを求められるお客様もいらした。置き物なんかもいい。飾り皿や花瓶なんかはよくある。
最初に抜け毛アートをお贈りするのはカーテン夫人にしよう。密かに心に決めた。
「それじゃあ、鑑定してみようかね。クロちゃん、おいで。おお、いい子だ。えらいねぇ。」
猫にデレデレするおじさんも可愛いものである。ファーファちゃんと比べれば、だが。ファーファちゃん、メガネ外せば可愛いと思うんだけどな。というか、綺麗系の顔してた。
「シャパリュ。おお、知能が上がっている。人間の成人年齢と同じくらい。随分と大人になったねぇ。ちょっとばかし寂しいが、まあ、猫だからな。遊んだり甘えたりもするでしょう?」
「それはもちろん。」
確かにかなり理性的でしっかりしたと思ったが、そんなに大きくなったのか。精神年齢が。成人年齢ということは新人冒険者たちと同じ年齢。指示の通りやすさは知能が上がったからなのか。自己判断するときもあるけど、指揮者の意図から外れるようなことは絶対にしない。それはシロもだけど。
「では、続きを。おや?スキルが生えてるな。〝飛翔〟。ああ、バルトくんのだね。永続付与?となっているが?」
「それは佐山くんのスキルでつけてもらいました。」
「なるほど。ユキヒト・サヤマに。彼のスキルは本当に変わっている。」
でも、スキル自体を生やすことは出来ないんだ。やる前に帰ってしまったけどレベル∞なら可能かもしれないと言っていたが。他人の付与の効果時間を変えることができるというのは二度目の来訪で新しく判明したことだ。
つーか、実験だったんじゃないか。勝手にやりおって、うちの男どもは。
「他にも〝風魔法〟とあるけども、それもかな?」
「魔法?」
「おや、知らなかったのかい?クロちゃん、使ってなかったかな?いやでも、レベルがそれなりにあるんだがなぁ。43だ。熟練度としてはかなり高いと思うんだが。」
「クロのかまいたちは、バルトの竜爪での攻撃を模したもので、魔法ではないはずなんですが……」
原理は詳しくないが、訓練して覚えた技だから魔法ではないはずだ。
「魔法はスキルとは別もののはずだから、確かにそうなんだけどねぇ。なんだろうね。私のスキルレベルでは発生理由までは読めないな。申し訳ないね。まあ、あって困るようなものでもないしね。このままでいいんではないかな。」
「そうですね。」
「〝飛翔〟にはレベル表記がないな。スキル所持者に準拠とあるから、バルトくんのレベルに合わせたものなんだろう。」
〝飛翔〟付与は二時間しか持たない。永続付与だからいつでも使い放題で、付与が外れなければそれでいい。本人の〝飛翔〟スキルは使用条件があるくらいで、今のレベルならば自分だけなら半日は飛び回っていられるようだ。
「他には何かありますか?」
「あるよ。〝威圧〟も59、〝一撃必殺〟も50を超えているな。ああ、クロちゃんは元々〝クリティカル〟があったんだった。頑張ったんだねえ。〝一撃必殺〟の確率が52の割にかなり高いな?なぜだ?」
「〝一撃必殺〟の確率って、普通はどれくらいなんですか?50で〝クリティカル〟から〝一撃必殺〟になって、確率が下がると前にお聞きしましたが。」
〝クリティカル〟のスキル効果を保持したままなので、生まれ持っての〝一撃必殺〟よりは確率が低いが、攻撃が入りやすいという点では有利だ、というのは初めて鑑定していただいたときに聞いた話だ。
「そのはずなんだがね。普通は〝クリティカル〟のレベル1相当だが。」
カーテン氏は眉根を寄せて、鑑定に集中し出した。わたしは結果をじっと待つ。
「備考欄がずいぶん増えている。……はぁ。これは、秘匿した方がいいな。もちろん、トガワさんには伝えるけどね。」
「そんなにマズいことなんですか?」
「マズいと言えばマズい。〝スキルのレベルアップ速度はショウコ・トガワに準拠〟はむしろいいことだろう。来訪者のレベルの上がり方は尋常じゃないほど速いから。あとは〝排泄可能〟〝体長の変化自在〟〝体内でポーション類の生成可能〟ここまではまだいい。問題は次だ。」
「次?なんですか?」
「〝生殖可能〟。モンスターは、ダンジョンから生まれ、人に狩り取られなければ、ダンジョンに還る存在だ。子を為せるモンスターなど、聞いたことがない。」
それって、いつかはクロの赤ちゃんを抱っこできるってこと?
ファーファ・ジュナン(21)
柔軟剤
モフを愛し、モフに愛されたい女
鑑定スキル所持(レベル32)※鑑定スキルはレベル上がりづらい
モフを持つ獣人を好きになりがち
獣化出来る獅子獣人の血を持つ冒険者と一時期付き合っていたが、あまりにも獣化形態を愛ですぎたためにフラれる
先日合コンで狼獣人の子孫にヤラかしたばかり