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Sランクになろう(5)

 移籍願いは受付で申請して、ギルドによる調査の上、受理するか否かを決めるものらしい。形式的なものなので、ほとんど希望は通る。


「大体、調査に一か月くらいかかるんで、それまでは新しくなった第一に潜ろうかなって思ってたんですけど……」


 更新始まってアテが外れてしまったというわけだな。一か月もかかるのは書面のやり取りがお役所仕事なだけだ。


 カールがその旨を記して手紙を送ってくれていたようだが、わたしはまだ受け取ってない。

 一週間前コノについたらわたしは来訪者の眠りで寝てると言われて、いつ起きるか分からないからと第二ダンジョンに潜っててさっき帰ってきたところみたい。すまんな。


 ちなみにダンジョンと支部の様子を見てから移籍するか決めたかったらしくて、わたしに話が聞きたいってことだった。コッティラーノが領司、ギルマス共にウーフー派でないことは分かってたけど、実際の様子は見てみないと分かんないから、所属冒険者の話を聞いてみたかったんだってさ。


 だからまだ届け出は出してないんだけど。


「今ウチも緊急事態だからすぐ通るかもよ。ギルマスんところに直接行こう。」


「えっ!?そんなのアリなんですか!?ギルマスですよ!?普通そんなカンタンに話聞いてもらえませんよ!!!」


「えっ、他の支部のギルマスってそんな感じなの?」


 割とどこ行ってもギルマスと関わること多かったから気にしたことなかった。他の支部だとギルマスは基本的に末端冒険者と直接関わることはなく、直接面会はAランカーでもアポ取らないといけないらしい。


 え、わたし、しょっちゅう呼び出されてるけど。


「それはアレだろ。トガワは来訪者だから。」


「そうかなぁ?」


「特殊スキル持ちは高ランクでなくても直接依頼が多いですからね。そういうことだと思います。」


 ウルくんにそう言われると納得する。カールは説明が足りん。


「すみませーん、ゴズさんまだいます?」


 ギルマスの部屋の扉をノックしてゴズさんに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。やっぱりゴズさんは有名で、若者の憧れのようで、後ろの青少年たちがソワソワし出したのが気配で分かる。すごいな、ゴズさん。


「おー、どうしたなんだすぐ戻ってきて。あ?ソイツらは?」


 ギルマスの宥め係を押し付けられたゴズさんが顔を出すと、おおっ!と青少年たちから声が上がった。それより部屋の中からドスドスという音がしてんだけど。


「ソッティラーノのトーラ隊です。移籍希望みたいで。マッタさんまだ神様に祈ってます?」


「いや、祈祷は終わって今はクッションを本部の連中に見立てて殴ってる。」


 ああ、それでドスドス。


「ショウコ!戻ってきたのか!Sランクになる覚悟ができたのか!?」


「それはまだ考え中です。そうじゃなくて、移籍希望のAランクパーティーを連れて来たんですよ。」


 今からコッティラーノの様子見て届け出ってなるとマッタさんに課せられた期限に間に合わない。Sランカーはわたしかジンさんかコートさんのうちで誰か二人がなればいいんだから、喫緊の課題はAランクパーティーの方だ。


「あ、まだ完全に決めたワケじゃないんですけど……」


「神はアタシを見捨てなかった!ヨシ、採用!我々コッティラーノは君たちを歓迎する!」


 まあ、こうなると思った。


 ぶっちゃけ、本部と国内全ての支部を周ったわたしから見れば、コッティラーノほどアットホームな雰囲気のギルドはない。


「しかもソッティラーノからの移籍だと!?ハハハ!ざまあみろウーフー派どもめ!神はアタシに味方した!」


 マッタさんはまた机の上に登って、勝利の雄叫びを上げている。


 なんかこれからそういう移籍希望冒険者、増えそうだな。


 騙し討ちになって青少年たちには申し訳ないけど、冒険者ギルドコッティラーノ支部はアットホームな雰囲気の楽しい職場なので、安心して移籍して欲しい。


「い、いいのかな?こんなカンタンに決まって。」


「いいんじゃない?国内のギルド全部行ったけど、ここが一番雰囲気いいよ。とりあえずわたしたちはマッタさんの異動を阻止できればいいから、そのうちまた別のところに行ってくれてもいいし。あ、家は決まってるの?」


「移籍の際は全員寮に入る予定でした。」


「なら、男子寮は早く手続きした方がいいよ。出入り激しいけど、満室のときもあるから。女子寮はまだ空き部屋あるから大丈夫。」


 フェイちゃんが住んでた部屋がまだ空いている。あ、そういえば。


「ビショちゃんはエルフの血が入ってるって聞いたけど、ウチのジュンさんのことは知ってる?えっと、ジューン・ビ・バンタンさん。治癒師なんだけど。」


「はい。母方の遠縁です。あちらは私のことご存じないと思いますけど。」


 ビショちゃん自身は姓に一文字入ってないから上流階級出身ではないのかな。意外と広まってるんだな、エルフの血って。


「あっ、そういやサヤマは!?」


「佐山くん?領館の敷地内に作業場作ってそこにいるよ。」


「いやコイツさ!じーさんがノブド出身なんだ。」


 ん?それがなんだと言うんだ。カールはライくんの両肩を後ろからつかんで揺さぶっている。迷惑だからやめろ。てか、ノブド、ノブド……あっ。


「もしかして、佐山くんに会いたいの?」


「そうじゃなくて!この黒髪見てなんか思わんの!?」


「キレイな黒髪だよね。ツヤツヤサラサラで、若いっていいわぁ。」


「いやそうじゃねえって!」


「あはは!ユキヒト・サマヤの故郷は黒髪だらけだっていうから分かんないんだよ。」


 それはそうだけど、髪染めてる人もかなりいるから黒髪だけではないぞ?民族的に黒髪がほとんどってだけで。


「この世界では、黒髪ってめずらしいんですよ。魔族の子孫か、ユキヒト・サヤマの子孫の一部にしかいません。」


「あっ。」


 そっか。聞いたわ聞いた。確かに聞いた。黒髪めずらしいって。佐山くんいるし、ここだとどう見てもわたしたちは異郷の顔立ちだから、あんまりその辺考えたことなかった。


「じゃあ、もしかして?」


「はい。ユキヒト・サヤマの子孫って言われてます。」


 本妻の子じゃなくて隠れて作ったハーレムの誰かの子な。


 佐山の遺伝子の結果が、この黒髪の美少年だと?


 理不尽すぎる。この世界で一番の理不尽だ。

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