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Sランクになろう(3)

「んでですね。なんでシロがんなモン作ろうとしたのかっていうと、多分、戸川さんがいつもつけてるピアスとネックレスから発想を得てると思うんですよ。」


「見ただけで分かるモン?」


「いや、シロが生まれたとき、スライムにまみれてたんでしょ?シロ自身、つーか、スライムにもダンジョンの情報が組み込まれてるんなら、戸川さんから読み込んだ情報と擦り合わせて、ダイヤモンドを作ったんじゃないかなって思ったんですよね。」


「マジか。」


 見ただけでなんとかなるモンなのかとも思ったが、考えたら顔舐めるついでに舐めたりもしてるしな。勢いよすぎてピアス外れないかハラハラするときもある。


「あ、推測ですよ?この世界だと鉱山開発するよりダンジョンで生成される宝石拾った方が早いじゃないですか。まあ、ダンジョンが素になる情報を持ってるのは間違いないですけど、持ってる情報の中に、常日頃から身近にあるモンがあって、自分の能力でそれが作れるなら、そうなるかなって。」


「じゃあ、シロの中身は相変わらずスライムってこと?」


「うーん、ダンジョンそのものに近いってのは間違いないと思うんですけどね。」


 じゃあ、わたしはダンジョンを飼ってるってことにならないか?それはちょっとどうなんだ。


「そもそもクロもシロも、モンスターとしての特性は持ってますけど、知能が高いっつってもただのモンスターであるシャパリュとフェンリルと比較しても、異常なほど高いんですよ。俺もグレップ時代にダンジョン連れてかれてシャパリュは見たことありますけど、クロほどの知能があるとは思えませんでした。この世界の人だって、モンスターだから普通の猫よりは知能が高いって認識だと思います。フェンリルはレアだから知りませんけど、似たようなモンだと思いますよ。」


 わたしもシロ以外のフェンリルを知らない。バルトはマティコ先生のビアンカちゃんを知ってるけど、特に何も言ってなかったけどなぁ?


「あ、もしかしてバルトさんの知り合いのフェンリルのことですか?俺も気になって聞いたら、モンスターはテイムすることで知能が上がるそうです。だけど、シロほどじゃないって言ってました。性格は元々落ち着いてる個体らしいですけど、戦闘のときはあくまで訓練で叩き込んだ、パターン化された行動をしてるだけです。状況によってテイマーが指示出すんで、確かに違いはないように思えますけど、決定的に違うところがあります。」


「決定的に違うところ?」


「戸川さん以外の指示にも従うってことです。どれだけ主人より強い相手であっても、テイムドモンスターは主人の指示でないと従わないそうです。戸川さんのスキルから自分の意思で外れたりできるところも、同じ話です。ダンジョンの中で、モンスターより知能の高いものって言ったら、それはもうダンジョンそのもの以外ないですよ。戸川さんの思念を基本に、ダンジョンから切り離された自立思考体。それがクロとシロです。」


「ダンジョンはAIって前に言ってたけど、あの子たちもそうだってこと?」


「AIじゃなくて3Dプリンターって話ですね。それだって、元の情報がなきゃモノは作れませんから、ダンジョンはどっちも兼ね備えてます。俺らの世界のAIだって、かなり発達しましたから、晒される情報によって学習すれば個性が出ます。かんたんな例で言うとネットの広告ですね。よく見るサイトから使用者の興味を惹きそうな広告が表示されるようになるヤツ。」


「クロもシロも機械じゃないんだけど?」


「え、なんでキレ気味なんすか。そんな話してないですよ。それ言ったら、人間だって有機ロボットみたいなモンなんですから、似たようなものですよ。……もしかしたら。もしかしたら、ですけど。これまでダンジョンが取り込んできた人間の情報は、あくまで死体からでした。ダンジョン本体は無機物なんで、スライム介さないと情報は取り込めません。だけど、戸川さんはスキルを使うとスライムから情報を読み取られてしまいます。これまでは短時間だったから表層的な部分で済みましたけど、あんまり長いと、もっと深いとこまで情報を取り込まれる可能性があります。それが続けば……あー、やだな。一番イヤなヤツだ。」


「なに?」


「ダンジョンが、完璧な人間型モンスターを生み出す日も、遠くないってことです。」


 わお。それ、そうなったらわたしのせい?


「まあ、今のところ大丈夫だと思いますよ。泊まり込みでダンジョン行くときはクロもシロもいますしね。気配に聡いから、スライムに気付いて教えてくれるか、戸川さんが寝てる間にやっつけてくれるでしょうし。そもそも完全なオールスルーなら、ダンジョンも認識してないみたいだし。」


「なるほどね。ここで朗報。」


「朗報?」


「わたし、スキルレベルが71になりました。」


「おお!爆上がりですね、うらやましい!70の壁を越したわけですか。」


「うん。原因分かんないけど。でも、今の話聞いてもしかしたらってところあった。」


「そうなんです?で、どんな71だと効果があるんですか?」


「こちらからの一方的な物理干渉可能。オールスルーのまま攻撃できるよ。」


 佐山くんは数秒間だけポカンとして、すぐに笑ってよろこんでくれた。お前こそ犬みたいだぞ。話の間、シロはずっと大人しくわたしの頬をベロベロしていた。クロは呆れた顔してそれを見上げて、すぐにまた寝てしまった。ママちょっと悲しい。


「そりゃ確かに朗報だ!今日はお祝いします?」


「いや、また夕方にギルド戻んなきゃいけないんだ。解体場の倉庫がオークだけで満杯になっちゃって。」


「なるほどな!こっちは納品ミスがないように倉庫にしちゃいましたけど、やっぱマジックバッグって便利ッスね!」


「便利だよ。マジでオススメ。」


 二つ目の結論は、シロが定期的にウンチするようになったのは、わたしと寝られなくなるのがイヤで、自分の中にある余分な成分を変成して石に変えて出して自分を縮めたってことだった。

 この状態でフェンリルないしはフローズヴィトニルであるかはやっぱり鑑定してもらわないと分からないけど、ダンジョンの吸収してるエネルギーそのものは実態のあるものではないようなので、体内に残留してる可能性はあるってことらしい。

 ダンジョンはせまいから小回りきく方がいい。マジで助かった。シロ、えらかったね!でも、おっきいシロもカッコよかったよ!


 そんな話をしていたら、領館の方はお昼休憩になったようで、わたしがいることを聞きつけたバルトがやってきた。

 わたしのせいで仕事が滞ったからどっかいけと佐山くんに追い出され、庭でバルトが持ってきてくれたランチボックスをいただくことにした。わざわざ用意させたんか。


「話さなければならないことはいろいろとあるんだが……」


 まあ、そうだよね。シロが小さくなったので、なんとか寮に住めるギリギリだ。クロは小さくならなかったから。六畳一間にライオンサイズのヒョウとオオカミサイズのフェンリル。想像してみるとマジでギリギリ。いや、やっぱ引っ越さないとダメだわ。


「今回は特に眠りが長かったな。」


「あ、そうだ。わたし、スキルレベルが71になった。こちらからの一方的な物理干渉可能だって。コールもなくて使用者の任意でできるって。」


「そうか!それならば安全にダンジョンで狩りができる。」


「トレジャーハンターなんだけどね、わたし。」


「戦闘不可避の状況でショウコの身の安全が保障されるなら願ってもないことだ。」


 まあ、そりゃそうか。ランクが上がれば納税額も上がる。多少は狩りもしなくちゃ目標額に到達できない。そもそもこんなハイペースでランク上がるなんて思ってなかったんだよ。自分が一番驚いてるわ。


「今回の査定で、ショウコはSランク相当になると聞いた。」


「あ、うん。そうらしい。」


「断らないのか?」


「悩んでる。ホントはもっと早く相談したかったんだけど、寝ちゃったから。」


「Sランク、受けたい気持ちがあるということ?」


「うーん、Sランクになりたいっていうよりは、自衛のために相応の身分が欲しいってところかな?」


 バルトはよく分からなかったようなので、ジュンさんやマッタさんたちに言われた、聞いた話をバルトにも説明した。嘆息と共に甘い空気が流れ、肩を引き寄せられたのだが?


「すまない……確かにそうだな。」


「佐山くんの呪いがあってもそうなると思う?」


「分からない。ユキヒトの方ですでに報復を食らった政治家が数名いる。まだ被害を受けているらしい。だが、他の者も、己が恵まれているが故に、自分だけは無事でいられると根拠もなく思い込んでいる老人が多い。何をするかは分からない。一見、親切と見せかけた悪意や、こちらにとっては不本意でしかない善意もあるからな。」


 もう被害者がいるんかい。知らなかった。佐山くんの呪い、じゃなくて佐山くんが〝実現〟したのは、彼やわたしに対する物理攻撃反射と理不尽な要求によって精神的負担を強いた場合の報復だ。ちなみに効果範囲はクロとシロも含まれる。

 命に影響ないような報復……っていうか、一時間に一回腹痛が起きて下痢になるっていう内容で、わたしたちを逆恨みせず、心から反省すれば治るという良心的な内容のはずなんだが。

 それを中央や各国政府に周知してあるから、そうカンタンに手を出してこないと思ってたんだけど。ギルド本部にも伝えられてることだし。

 まあ、バルトの口ぶりからすれば、政治家ってのは自分は大丈夫だと思ってる、もしくは、そうするのがわたしたちのためになると本気で思ってる自分本位の、バルトもハッキリ言ったよ老人どもが多いってことだ。老害ってヤツだな。


 それでも隙をついてくる人はいるし、組織に所属してる以上、そこの方針には従わなくちゃいけない。だからこそ、結婚したらフリーになるつもりでいたんだけど。

 まさかSランクになればヘッドハンティングでギルド就職できて、こっちの条件飲ませることができるとは思わなかった。いや、ゴズさんの件でなんとなく分かってた。でも、所属の希望は通らないんじゃないかって思ってたんだよね。みんなは現状のコッティラーノのダンジョンならむしろ逆にイケると踏んだみたい。


「官吏を辞めてもショウコたちのことを養うことは出来るぞ?」


「それは知ってるけど、やなんだよ。」


「自分の足で立っていたい、か?」


「そういうこと。」


 人生長いと思ってたが、バルトと結婚すると更に人間の寿命の延長が待ち構えている。気持ちの傾く方に進む余裕ができた。


 だったら、やりたいことやったっていいんじゃない?


 わたしにしてはめずらしく、人生に対して前向きな気持ちを持てている。


 この世界に来て、よかった。

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