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Sランクになろう(2)

 コッティラーノ第一ラスボス討伐。


 わたし自身がそれほど恐怖したり危険な目に遭ったわけではない。

 いや、いつも戦闘のときはみんな怪我しないかハラハラドキドキしてるけど、今回はポーション類を大量に持ってきたし、途中からジュンさんも来てくれたからあんまり不安はなかった。


 なのに何故、十日も寝続けたのか。


「途中でネクター飲ませたよ。そのまま死んだら怖いから。」


 来訪者の眠りは普通の眠りと違うようで、飲まず食わず出さずでも問題ないというものだ。で、起きたらすごいスッキリしてる。日本にいた頃じゃ考えられない爽やかな目覚めが体験できる。

 だけど、あまりにわたしが起きないモンだから、ジュンさんの指導でキョウちゃんが無理矢理ネクターを口から流し込んだらしい。いや、それ一歩間違えたら逆に窒息死するから。なんともなくてよかった。


 佐山くんが前に仮説を立てていた。眠ってる間に、身体を現在置かれてる環境に最適な状態に作り替えてるんじゃないか的な話だった。

 それってわたしらの身体は日本で使ってた身体そのまんまじゃなくて、ダンジョン産のモンスターに近いもしくは同じってこと?と聞き返したら、なんか難しい顔をして考え始めてしまった。それからその話はしていない。

 怖いだろ、実は来訪者は全員モンスターでしたなんてことになったら。


「うんわぁ……」


 ギルドに行ってレベルを測定したら71まで上がってた。誰も見てなくてよかった。どうなってんの?初期以降、レベルアップは毎回大幅にジャンプアップしている。


 レベル51になった時点で分かったことだが、睡眠中はスキルの有効持続時間にカウントされないというのはありがたかった。でないと、寝たって何度もコールし直さなきゃならなくなる。


 しかし、毎回己の努力じゃない原因で壁を乗り越えてるな、わたし。来訪者だから仕方ないと言われるが、なんだか自分の頑張りが世界に認められてないようで解せん。


 あ、わたしが頑張ってる間は世界から認識されてないのか。そうか。なら仕方ない。


 バルトも忙しいのに次の朝、寮までクロシロを迎えに来てくれたそうで、あの子たちは今領司館にいるとのこと。目覚めたらいつでもいいから来るようにと伝言をもらった。


「いや、回収物も出さずに寝るから困っちまったよ!」


「すみません、ご迷惑おかけしました。」


「いやー、こればっかはしょーがねーな!来訪者のニホンジンてのはこの世界に馴染むのが遅いんだろ?」


「佐山くんはまったく理の違う世界から来てるから馴染みにくいんじゃないかって思ってるみたいです。」


「あのユキヒト・サヤマが!はぁ〜、賢いんだね!伝説なだけあるわぁ!」


 解体部門のトップである、ハカ・イーシン氏。ハカじいとかハカじいさんとかってギルド内で呼ばれてる人だ。


「とりあえず計量すっから!オークから出しとくれや!」


 わたしが十日も眠ってたせいでギルドが行うべきあれやこれやの査定が止まっていた。おかげでSランクとか就職とかの件で悩める時間が増えた。いいのか悪いのか。


「うお!コリャ、オークだけで倉庫が埋まりそうだ。」


「オーガはまだ出さない方がいいですか?」


「そうしてくれると助かる。領司サマの分もヨソから人借りて超特急で終わらせてようやっと落ち着いたトコだったんだが、そいつらもう帰しちまってよぉ。そっからはコッチの仕事なーんも進まんし!そうだ、腐るといけねえから、悪ぃけど半分またソコにしまっといてくんねえか?あ、数はいちいち数えなくていいぞ!てきとうに半分でいいからな!」


 わたしのマジックバッグが時間停止機能付きというのは有名な話だ。ハカじいさんの指示に従い、目分量で適当にオークをバッグに戻した。


「アイテムの受付の方で他のモン出したら今日はもういいぞ。すまねえがまた明日、残りのオーク出してくれ。」


 結局、ちょっとずつ中身を出すために解体場に日参することになった。さばいた肉も業務用冷蔵庫を逼迫するだろうとのことで、納品までは預かることを申し出ると有り難がれた。わずかばかりだが、容量使用料が還元されるらしい。というか、これもまたギルドからの依頼になるとのことだった。


 アイテム納品の受付でドカドカと布だの宝石だのを出すと、久々に人が気絶するところを見る羽目になった。そのうちコッティラーノでも「現物支給で持って帰れ!」と言われるようになるのだろうか。それはなんかやだな。

 まあ、今回のコレはギルドが主体だし、文句を言われる筋合いはない。ギルドが出す依頼はわたしたちに実益はないが、加算ポイントが割り増しになる。貢献度が高いからな。


 さ、やることやったし、また夕方戻ってくるか。


 さすがに今日は働く気はない。クロシロの様子を見に領司館に向かった。バルトは仕事中だろうから、先に佐山くんのところ。門番はお久しぶりのロコンデ氏。まあ、彼でなくても顔パスなんだが。

 体調を気遣われてしまった。ただの来訪者の眠りであるのに申し訳ない。大幅レベルアップというとんでもないことは起こったけども、まだ試してないからホントに使えるのか分からない。ともかく、クロシロと合流せねば。


 佐山くんの仕事場兼倉庫に着くと、クロをイスにして作業している佐山くんがいた。クロは気にせず寝ているが、これは飼い主として怒るべきなのか?というか、なんで背中にまたがって、クロの後頭部で書き物してるんだ。どういう状況?


「あっ、戸川さん!やっと目が覚めたんですね!」


「うん。ご心配おかけしまして。」


「ホントですよ!バルトさんにはもう会ったんです?」


「まだだよ。」


「んもう!なんで先に俺んとこ来るかなぁ!?」


 だって、あっちは普通に仕事中じゃん。佐山くんも仕事中なんだろうけど、あっちは予定が寸分隙間なくギッチリ組まれてるんだよ。一応、領司様なんだから。


「ねえ、シロは?」


「え?シロ?庭にいませんでした?」


「いなかったけど。」


「おかしいな。戸川さんが来れば匂いで分かるはずなのに。あっ、アイツもしかしてまた!」


 また?またってなんじゃい。


「すんません、戸川さん。先に謝っときます。でも多分、クロシロには必要なことなんで!」


「は?なんのこと?」


「ワンワンワンワンワン!」


「うわっぷ!シロ!えっ、シロ!?」


 シロが!シロが!


 普通のワーグサイズに戻ってる!?


 佐山くんの解説によると、シロは領司館に引き取られてからずっと、排泄→暴れる→寝るを繰り返してたそうだ。あ、暴れるって言っても、外を駆けずり回ってただけらしいけど。

 クロは相変わらず排泄してないらしい。いや、モンスターだからそっちの方が当たり前なんだけども。


「俺の推察でいいです?」


「いや、いい。どうせわたしにはちんぷんかんぷんだし。」


「なんでですか!聞いてくださいよ!」


 なんだ。単に佐山くんが言いたいんだな。


 大人しく聞いてみると、わたしにも分かりやすい話だった。


 まず、シロが最初に排泄した理由。テューポーン戦までもいろいろと食べてたし、必要以上のダンジョンエネルギーを摂取したから、いらない分を出したんだろうということだった。それって単なるウンチじゃん。やっぱウンチじゃん。

 それがどうして石火してたのかはよく分からなかったが、要はシロ自身の持つ能力の熱操作でいらんモンを焼却し、圧縮して、あの塊が出来上がったんだろう、と。


「だってだって!グラファイトだってダイヤモンドだってカーボンなんですよ!?焼いて焼いて行き着く先はカーボンなんすよ!!!」


「ごめん、よく分かんない。」


「カーボン!炭素!元素記号C!それくらい分かって!」


「それは知ってるよ。石炭も鉛筆の芯もダイヤモンドも全部炭素ってヤツ。」


「石炭は有機物混じってっけど、もうそれでいいです。とにかく、シロのウンコは炭素からできる有機化合物ってヤツにダイヤモンドの原石がところどころくっついてる状態なんスよ。」


「やっぱり。」


「分かってたんですか?」


「あー、前の仕事で、ちょっと原石を見ることがあって。割と特徴的な形、出てたし。」


「八面体の結晶、多かったッスもんね……」


 ウチの子のウンチは黄金じゃなくて金剛石だった。


 シロ、すごい!

最終的に糞便の話になる不思議。

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