年間目標金額を達成しよう(10)
入籍を早める云々の話はとりあえず置いといて。
どの道、シロは絶対に寮に入れるサイズじゃないのでとりあえず当分領館内にある佐山くんの作業場の倉庫を小屋代わりにすることになりそう。領司館ですら難しいってなると、どんだけデカイ家を建てなきゃいけないんだろ。
まあ、泊まり込みしてもいいし。私も寮を引き払わないとダメだなぁ。成長が予定より早過ぎる。こんなつもりじゃなかったからな。かといって、人にずっと預けとくってのもおかしいし。
「よーし、回収行くぞー!の前に、お前ら、今日回収したモンスターはショウコのマジックバッグで預かってもらえ!容量空けとけよ〜!」
というわけで、ドサドサと山積みにされていくオークとオーガの死骸。グロいはずなのにここまで山になると現実感がない。
「年間目標額の修正がなきゃいいけどなぁ。」
「そんなこともあるんですか?」
「上の上になると今の1.3倍くらいじゃない?今の年間目標額ならこの飛び地の分だけで充分だろうけど。」
「上の上になったらまた体制変わるからな〜。それはちょっとなぁ。」
「オレは異動しねーぞ。」
ミルックとネンドさん、ブンボさんもめんどくさいと思ってるようだ。わたしだけじゃなくて良かった。コッティラーノはのんびりしてるからな。上の上になって本部の影響が強まるのが嫌らしい。
「まあ、ボス倒して次の更新次第だな。ここでも大分やらかしたし、もしかすっとまた大規模更新になるかもしんねえから。」
そうゴズさんが話を締めた。
みんなが素材と財宝回収に行ってる間、わたしはミルックと残って野営設営準備だ。
「クロもシロも大きくなっちゃったけど、どうするの?」
「さすがに寮出ないとなとは思ってる。もうちょいあそこに居たかったんだけど。」
「じゃあ、領司館に住むの?」
「うーん、クロはともかくシロは領司館でも許可あやしいって。」
「通路もギリギリだったもんねぇ。」
「領館の敷地に新しく家建てて住むなら籍入れないとダメなんだよね。」
「そうなの?なら入れちゃえばいいじゃない。使える手段は使っちゃわないと。」
「そういうもの?」
「そういうものよ。ショウコの方の保証人欄、サインしようか?」
証人じゃなくて保証人欄……。こっちの婚姻届も日本と似たようなものなのかな。保証人っていうと借金するみたいなイメージだけど。
「うん。ミルックが良ければそうしてもらおうかな。サインすることで何かあったりする?」
「ないない!何にもないから!ホント、名前書くだけなの。離婚でモメたとき本人に慰謝料払えないときに肩代わりするくらいかしら?」
え、それ、本当に保証人じゃん。そんなことあるのか。
「それ、まずくない?」
「離婚前提なの?」
「まさか!」
「でしょ?領司様、竜人だもの。番は逃さないし、安心安全だわ。普通は家族が書くものだけど、ショウコは来訪者だし、良かったら私にサインさせて。」
「それならお願いしようかな。ごめんね。」
「お安い御用よ。」
しばらくしてキョウちゃんが戻って来て、そのまま設営準備に参加。一時間後、湧き場探しに参加していたバルトが戻って来て同行を求められる。連れて行かれたのは執務室。無駄な本棚のひとつの前に立つ。
「ここに隠し通路の扉があることが分かった。だが、解除方法が分からないんだ。」
確かに本棚の裏の通路の解除方法なんてもの、取説にも書いてなかったもんな。バルトの看破も虚偽を見抜くだから、トラップや認識阻害がかけられた隠し扉なんかはあるのは分かっても構造が分からない。
まあ、竜人だから大体力技で何とかなるんだけど、ダンジョンは傷付けられないらしい。壊せるかもしれなくても今までそういう事例がないから、何があるか分かんないし。
「行ってくるね。〝オールスルー〟。」
佐山くんにもらった取説を出して中を探る。隠し通路と隠し扉の項目は……ここか。うーん、よく分かんないな。目安になる特徴……あ、ここか。えーと、縦開き、横開き、前倒し、後ろ倒しの四種類で、と。上下左右に戸袋ないから倒れるヤツかな。後ろ倒しのものはトラップがある?ふーん。あ、コレ後ろ倒しだな。
安全な解除方法は……外からはないのか。中から解除すればトラップは起動しない。そうだよな。ここが湧き場なら外に出る度にトラップ動いてたらモンスターだって巻き込まれるもんな。
とりあえず湧き場があるのか見てみるか。一応、外に声かける?あんまり待たせても悪いしな。
扉をすり抜け、外に出てキャンセルをコールする。
「分かったか?」
「うん。こっちから解除するとどうしてもトラップが起動するみたい。中からだと簡単に開くけど、どうする?先に湧き場があるか見て来ようか?」
「いや、いい。このまま中に入って開けてくれ。」
「オッケ。〝オールスルー〟!」
中に入り、スイッチになる煉瓦の出っ張りがあるのでそれを押し込む。もちろん、スキルはキャンセル済み。
ズズン!と大きな音がして隠し通路側に扉が倒れて来た。
奥へ行くと佐山くんの作業場を彷彿とさせる空間があって、そこには……
「またスライムか。」
バルトがちらっとわたしを見た。クロシロの発生現場を思い出したんだろう。だってこのスライムたち、何か食べてる真っ最中だし。数もシロのときより多いよ。
「湧き場……ですかね?」
「湧いた側から捕食しているように見えますね。」
「ダンジョンの取説によると、スライムの大発生はダンジョンの小規模更新の予兆らしいです。そのエリアだけ更新されると書いてあります。」
「ここで野営するのはマズイですか?」
「いえ、大体発生から一週間くらいだから……さっきのことを考えても問題ないと思います。オークもオーガも急に増えましたよね?」
「そうだな。ダンジョンはこちらの戦力を感知して、それに合わせて戦力を増強したのかもしれない。」
「討伐してしまったから作戦を破棄した、ということでしょうかね。」
「そうだろうな。」
「そうですね。小規模更新の後は以前と方向性を変えたモンスターが発生するようです。逆にスライムの姿が全く見えなくなった場合は大規模更新のようなので、それはなさそうですし。」
「とりあえず何があるか分からないから見張りを置こう。ショウコ、ここではスキルを使わないように。」
「なんで?」
「オークやオーガをクロシロと同じように可愛がれる自信がない。」
あ、そういう。わたしも自信ないな。
「五名ほど誰かここに残ってくれ。扉が自動で閉まることも考慮に入れ、スライム溜まりに三名、扉に二名だ。」
「はっ!」
このままここでスキルレベル9でいたらわたしと意思疎通出来るオークかオーガが生まれるのだろうか。生まれても困るからしないけど。アミルラージならアリかなぁ。でもクロシロとの戦闘能力に差が出来過ぎて仕事に連れて来るの難しいか。
いや、別にペットを増やしたいわけじゃないんだけど。そんなことしてたらモンスターだらけなどっかの王国になってしまう。
我々が広間に戻ってから二時間後、冒険者、領兵全員が戻って来た。
「執務室のようなところの近くに隠し通路があり、そこが湧き場であろうと推測した。夜間、一時間交代で見張りを置く。領兵はローテーションを決めるように。冒険者はそのまま夜間は休息に充ててくれ。」
「別にこっちに振ってくれていいんだぜ?」
「いや、ボス戦で指導を行いながらならばそちらの回復を優先した方がいい。明日はバンタン卿が来ると報告があったのであの方には治療だけでなく戦闘にも参加してもらう。かなり楽になるだろう。ポーションはネクターを基本にショウコが管理。頼むぞ。」
「了解。」
てか、ジュンさんが戦闘に参加ってどういうこと?治癒師なのに。冒険者登録はしたままらしいからいいのか?