年間目標額を達成しよう(7)
誤字報告ありがとうございます。
いつも助かっております。
みんなの戦闘中はわたしはヒーラーになる。戦闘が再開して一時間ほどすると希釈ポーションがなくなり、もう一度希釈液を作る。うーん、予備にもういくつか噴霧器が欲しい。便利なんだ、コレ。ポーションってすぐ乾くから。吸収されているとも言うが。
戦線は徐々に奥に向かって前進している。問題なく進んでいるように思える。クロシロはわたしのスキルから外れて、バルトと共に最前線へ。キョウちゃんが戻って来ると、状況を軽く教えてくれた。
「いや、ホント、ショウコのダンナはすごいね。」
キョウちゃん、ゼーキン卿でいいんだよ。ダンナ言うな。
「とにかくあの方がいればスタンピードにはならないよ。もう第一大隊を指揮してたオーガジェネラルは倒した。大隊ごとに整列してるみたいでさ。あっちも遠隔攻撃に切り替えて来たんだけど。物理攻撃のみのモンスターで良かったよ。狭い通路じゃ魔法とか特殊能力があるモンスターだと逃げ場がないから。まあ、その時は逆に広間に集めて一網打尽だったろうけど。」
「オーガロードってどれくらい強いの?」
「うーん、わたしも分かんないんだよね。図鑑にも滅多に出ないからってオーガのページの亜種に一文書いてあるだけだし。」
そうだったのか。完全に読み落としていた。
「お、効いた効いた。ショウコ、ありがとね!行ってくる!」
「気をつけてね!」
ダンジョンの一部更新は止まったようだ。やっぱりわたしのスキルのせいなのだろうか。今はスキルを発動せず、この場に待機している。
「トガワさん、動きます!」
「はい!」
歩を進めるということはみんながモンスターを倒しまくってるということだ。基本はバルトが竜爪一閃して道を作り、残りを他のメンバーでトドメを刺して行く方針らしい。前にバルトが言ってたけど、シロの攻撃力強化スキルの影響を受けると純血種である初代当主に近い力が出せるらしい。そこまで来ると、ホントこの人なんで役人やってんのと思ったりする。
今回の討伐で手持ちのポーションほとんどなくなりそうだな。今度一人で車で首都行ってポーション回収して来ようかな。また本部の職員さんたち震え上がらせることになりそうだけど。でもあんな湧き水状でポーションだだ漏れしてるところ滅多にないって言ってたからな。宝箱の中に瓶につめられたポーションがあったらラッキーくらいのレア度らしいから。
「役立たずの嫁ぎ遅れサン!ぼんやりしてないでポーションかけなさいよ!」
「はあ。」
やはりウーカ氏には嫌われてるようだ。ここで出し渋るほど私は狭量ではない。
「ったく!こっちが必死に戦ってるってのに!アンタなんか領司様にふさわしくないわッ!!」
そう叫びながら彼……彼女?は戻って行った。バルトのファンかなんかかな?
少しずつ進んで行くと、後方の私にでも広場が見えるところまで来た。広場に続く通路のギリギリで止まり、負傷者の治療だ。
奥の方からガァン!ガァン!と大きな音がする。しょぼ銅鑼の音みたいなヤツ。私の護衛をしてくれてる領軍の兵士の表情に緊張が走る。
「何の音ですかね。」
私の言葉と共に、ものすごい大きな咆哮が響く。膝から力が抜けた。今の、威圧だ。びっくりした。気を失わずに済んで良かった。あ、あれ、オーガロードだ。オーガロードが急造された広場に出て来てしまった。
「だ、大丈夫なんですか、アレ。」
「大丈夫です!領司が負けるわけがありません!」
そう言いつつも、威圧に負けて手が震えている。私だって立ってられなくて、いや、そのまま地面に這いつくばっている。またあの咆哮が来たら絶対に気を失う。
「す、すみません、一旦、オールスルーします……押し負けそうです……。」
「分かりましたッ!噴霧器、お預かりします!」
「お願い、しま、す……。中身なくなったら、声、かけてくださ、い、聞こえ、て、ます、から……この場からは、動きま、せん、ので……。」
「承知!」
「〝オールスルー〟!!」
ぷっはぁ!と息を吐く。ゲホゲホとむせる。あー、辛かった!息が上手く出来なかった。強力な威圧って怖いな。私のところは距離があったからまだ良かった。兵士ですら震える威圧を一発で気を失わずに済んだ自分を褒めてあげたい。
あ、やば。オールスルーして大丈夫だったかな?ダンジョンに変化はない。レベルの問題なのか?
オーガロードに立ち向かうのはバルトとゴズさんだった。クロとシロはバルトのサポートから外れて、クロはコートさんと、シロはジンさんと周りのモンスターを駆逐している。
頑張れ!みんな頑張れ!応援することしか出来ない自分が無力だ。オーガロードが現れるとミルックが戻って来た。
「ご無事ですか。」
「危なかったわ、気絶するところでした。威圧の咆哮で私の認識阻害が無効化されるなんて。あ、すみません。」
「いえ、治療は早い方がいいですから。」
「ショウコは?」
「威圧負けしそうでしたので、今はオールスルーで消えてらっしゃいます。」
「そうね、その方がいいと思います。ショウコ、聞こえてるわよね?気にしなくていいのよ。私たちはそれぞれの役割を果たせばいいの。戦闘の足手まといになるなら、その場から立ち去ることも大事な判断よ。」
見えてないのに見透かされてた。ミルックには敵わないな。
「あら、クロ?それ、どうしたの?」
「にゃん!」
クロが狩り取ったモンスター……オーガジェネラルかな?の腕を咥えて持ってきた。で、食べ始めてる。唐突のグロ。
あっという間に食べ終えて、噴霧器をカリカリする。希釈ポーションを兵士からもらうと、みあ〜ん!なーん!と私を呼ぶ声を出したと思ったら、スキル交換の中に入りわたしにスリスリして香箱座りした。目を閉じたから寝る気みたいだ。戦闘中に職務放棄するタイプじゃないんだけどな。クロなりに今の自分に必要なことを考えて行動してるんだろう。
頭を撫でてやると私の手に頬を一度だけすり寄せて、本格的に寝出した。モンスターを食べて寝る。それはクロの成長につながる。今まであんまり身体が大きくなられると寮に住めなくなると思って高位モンスターの肉は避けて来た。それを本人が欲したってことは、クロがこのままじゃダメだと思ったからなんだ。
成長したら、たくさん褒めて、喜んであげないとな。そういう判断も含めて、クロは大人になろうとしてるんだもんね。
後半は予想に反し、大混戦になってしまった。隠し扉を開いて戦闘が始まって六時間、この広場での戦闘は三時間。クロが眠り出して一時間。シロも同じように先程オーガジェネラルの脚を咥えて持って来て、やっぱり私の足元で寝ている。
バルト、ゴズさん、コートさん、ジンさん、ネンドさん、ブンボさんは一度もここに来ていない。体力、大丈夫なのかな。
「すみません!あれ、トガワさんは!?」
「〝キャンセル〟。どうしました?」
「恐れ入りますが噴霧器をお借りしたく!領司始めオーガロードと戦闘中の方々の回復をします!」
「分かりました!希釈液、交換します。貸してください。ネクターがいいですか、エリクサーがいいですか?」
「体力回復がメインなのでネクターを!」
中身はマジックバッグにバシャーと直接出して、改めて原液を詰める。
「ネクターの原液、これで最後です。エリクサーはまだ少しありますけど、気をつけて使ってください。」
「承知しました!お預かりします!」
皮膚吸収だと体力回復効果は遅いがないわけじゃない。経口摂取してる暇はないだろう。休むことが許されない戦いで効率重視だ。
「ね、ねえ、ショウコ?」
「どうしたの、ミルック。」
何でそんな驚いた顔してるんだろう。原液が切れたのがマズイ状況なんだろうか。希釈液はまだ残ってるんだけどな。
「クロ……シロも……成体に、なってない?」
「え?」
振り向けば、ネコ科大型獣が起き上がってあくびをしながら伸びをして、イヌ科大型獣よりもどデカイ白犬がすよすよと寝ていた。
あれ?