年間目標額を達成しよう(5)
「オールスルーを切り替え過ぎるとあちらも警戒するだろう。距離を取りつつ、お互いに視認出来る位置からクロとシロによる遠隔攻撃を仕掛けて欲しい。」
「了解しました。必ず遂行します。」
わたしがそう答えると沈黙が訪れた。バルトは翠と橙の瞳を揺らしている。ゴズさんが後ろを向くと全員後ろを向いた。と同時にバルトに引き寄せられ、抱きしめられる。
「大丈夫だ。ショウコなら出来る。クロもシロも強くなった。二人の威圧を上手く使うといい。オークジェネラル程度なら怯むだろう。」
「分かった。……頑張るね。」
顎に手をかけられ、上を向くと口付けられる。いや、他人がいる前で恥ずかしいのだが。みんな気を遣って後ろ向いてくれたけど。離れる時にいちいち音を立てないで欲しい。
「私たちも後から着いていく。心配しなくていい。本格的な戦闘はこちらに任せてくれ。さあ、作戦開始だ。」
まずはミルックの認識阻害で飛び地の本道を行き、ダンジョンのトラップ周辺に認識阻害で隠れてい雑兵を蹴散らし、屍を回収していく。
しばらくして支道が増えるゾーンに入る。ここからがわたしの仕事、囮作戦。宝箱のある小部屋の通りでレベルを下げ、クロのかまいたち、シロの氷の槍を放つ。見張り兵が倒された後に反応し、オークやオーガが出てくる。慌てて出てきたところを見ると、そこまで知能は高くないようだ。軍隊のような群れも、上っ面だけの知識なのだと感じた。
「〝オールスルーレベル1〟!」
ノーマルオーガとハイオークの小隊らしい。レベル1ならオーガには気付かれる。案の定、わたしたちの気配に釣られて武器を振り上げながらこちらに走ってくる。うわ、速い!あんな巨体なのに速い!
「〝オールスルー〟!」
棍棒を振り下ろされる瞬間に叫んだ。ビビってるな、わたし。もっとよく確認しなくちゃ。クロとシロは連携して威圧をかけつつ、オーガの後ろから着いてきたオークの何体かに怯んだところに攻撃を放っていた。致命傷を負わせている。クロのクリティカルとシロの攻撃力強化のお陰だろう。
キョロキョロとしているオーガからまた距離を取る。道が湾曲してるので一度視界から外れ、シロを前に出して本道まで誘い込む。オークの弓兵の放った矢が飛んで来たが、クロがかまいたちでサポートし、ついでとばかりにシロが火を吹いて燃やしていた。あっ、矢尻は素材なのに!そういうのも教えていかないと!金属だから大丈夫か?そこまで高温は出せないか?シロの吐く火の温度なんて分かんないんだけど。帰ったら佐山くんにサーモメーター出してもらおう。
本道まで誘導すると、あとはみんなが何とかしてくれた。その間にクロシロが倒したオークを回収して合流する。伏兵を倒しながらトラップを回避。支道に潜む兵士の誘導を幾度か繰り返し、隠し扉の前で一度立ち止まった。
「一度休憩しよう。ショウコ出て来てポーションの噴霧を。」
「〝キャンセル〟。行きますよー。」
農薬散布さながらにポーションを撒く。奥に行くほどオーガが増えてくる。小さな怪我も増えて来た。
吸収されて服が乾いた頃にキョウちゃんに肩を叩かれた。
「ごめん、ショウコ。ネクターもらっていい?」
今回配布されたのはエリクサーとパナケイアだからな。体力回復にはネクターの方が有効だ。やっぱりBランク上がりたてなのにAランクの討伐は荷が重いのかもしれない。
わたしはキョウちゃんからのお願いを断ることはないが、一人だけというのは贔屓になる。出し惜しみせずに大盤振る舞いといこうじゃないか。
「いいよ。小分けしといてあるし。良かったら皆さんもどうぞ。」
冒険者たちは躊躇いなく受け取るが、領軍の兵士は躊躇っている。というか、視線がバルトとわたしを往復しているのだが。
「もらっておけ。万全の体制で挑もう。」
「すまん、ショウコ。あとで請求してくれ。」
バルトの一言で兵士たちはネクターを受け取った。ギルドからネクター代が支払われるらしい。バルトも頷いたのでありがたくもらっておこう。
「では、いよいよ大詰めだ。ショウコ、頼んだぞ。」
「うん。行ってきます。〝オールスルー〟!」
隠し扉の解除法はダンジョンの取説に載っていた。今回のはパターン①のヤツだ。まあ、わたしは通り抜けて行くんだけど。
さすがにこの人数をクロシロわたしでは捌き切れない。一度支道からまた分かれる小路に入り、ウロウロしているオーガを倒す。オールスルーのオンオフがうまく行ったのか、奥にいる隊には気付かれなかったようだ。再びレベルを下げてマジックバッグの中の小石を支道に向かって投げる。見張りはハイオーガ。よし、食いついた!
小石を拾い、キョロキョロするハイオーガに向かってクロシロの攻撃!クリティカル!クリティカルの確率、かなり上がった気がする。ついでにシロも。これ、他者への付与がついたんじゃないかな?コノじゃ鑑定出来ないからな。また首都に行ったときにカーテン氏を訪ねなければ。
何だ何だと小路からハイオーガが群れて出てくる。オーガジェネラルもいる。腰巻きの色、初めて見るな。結局何体いるんだ?全体からするとかなり手前のところだから、ここにジェネラルがいるっていうのはよろしくないな。
童話のお菓子の家のようにオールスルーをオンオフしながら小石を落として行く。しばらくするとジェネラルが何かを伝えて警戒し始めた。小石が落ちるだけで何も起こらないからだろう。
「クロ、いける?」
慎重派のクロは反応がイマイチだ。シロは命令待ち。とにかく予定よりオーガの数が多い。うーん、どうするべきか。
とりあえず、一度戻ってバルトの指示を仰ごう。
「オールスルーで反対側に行って一回支道を塞ぎ、氷の壁を作ろう。シロは出し惜しみせず、毎回全力で。ポーションも出し惜しみするな。小路にいるモンスターを支道に出したら、シロの氷で小路の入り口も塞ぐ。とにかく最初の予定通り、オーガたちが狭い支道で身動き出来ないようにしないとな。」
氷の壁を使ってあちらの戦力をちょっとずつ削って行くのか。ポーションの量は間に合うはず。
「了解。」
「何分で出来る?」
「現着までの時間含めて十分あれば大丈夫。」
「では、我々は五分後に突入する。シロ、お前が頼りだ。クロ、オールスルーが弱い時はお前がママを守るんだぞ。」
二人とも素直に従う。
「モンスターにママですって!やぁーだ、三十路女の悪あがきね!」
ウーカ氏に何か恨まれるようなこと、したかな?当たりが強い。
ジョソ・ウーカ(年齢非公表)
ウーカ隊リーダー
個人ランクAだが他のメンバーはCとかD
女装家というよりドラァグクィーン
ウーカ隊は人の入れ替わりが激しい
常に十代後半から二十代前半の若い男を側に置いている
その為、若い子を傷付けないように無茶はしない
対象年齢から外れているがバルトの顔が好み




