年間目標額を達成しよう(4)
私の報告から中二日でオーク・オーガ連合軍の討伐が開始。その間、コッティラーノ第一ダンジョンは閉鎖。期間は連合軍殲滅戦からボス退治が終わるまで。この間の報酬は現物支給はならず、全てギルドの物になり、金銭に支払われる。
通路には既にノーマルオークが徘徊していた。おかしなことではないが、ハイオークによって統率の取れた偵察隊であろうことが分かる。
「結構な数がいそうだな。」
「ショウコの報告によると敵兵数は千。内、オーク八百オーガ二百だ。エンペラーの姿は確認出来なかったんだな?」
「はい。室内の形状も変わっていました。」
私はこちらの偵察隊。昨日、クロシロを連れて飛び地を探索して来た。オーガ軍がいた部屋は拡張され、全軍がそこに入ってそこそこ余裕のある大きさに変化。元々のオーク軍が使用していた部屋は縮小し、個人的な居室のようになっていた。誰が使ってるのかは不明。見張りのオーガの兵士がいたので、裏ボス的なオーガエンペラーがいるかと思いきや、その存在は見当たらなかった。同じ体格のオーガジェネラルが五人。ボス不在のモンスターの群れなどない。それより上位の存在がいないのはおかしい。
「どこに隠れてやがんだ、オーガエンペラーは。」
ゴズさんが唸る。だが、これは殲滅戦。一体残らず仕留めればいいだけだ。部下がいなくなればさすがに出てくるだろうし。
そういや、居室に垂れてたカーテンが銀色だったんだよな。光の加減によっては青く見える。アレ、いいな。現物支給にはならないが、買取りは出来る。いくらになるんだろ。あとベッドの天蓋のオーガンジーのカーテン。アレも良かった。薄らとした銀色で。
「何を考えている?」
「今回の居室の方の布でドレス作りたいなって。いくらになるか分かんないけど。」
めずらしい色合いだから多分生地代で百万くらいいきそうだけど。こうなってくると寄付が痛い。だがスッキリとした身軽な状態で結婚したいのは確かだ。どうしたもんか。
「披露パーティーのか?」
「うん。青にも見える銀色だからいいかなって。」
「ショウコ……!!」
「こんな時にイチャつくのやめてくれますぅ〜?」
ジョソ・ウーカ氏に窘められてしまった。抱きついて来たのはコイツです。わたしは悪くない。多分。キョウちゃん、苦笑いしないで。
「兎にも角にもまずはヤらなきゃ話にならん。ミルック。」
「ええ。スキル、発動します。」
ミルックはコールをせずに認識阻害を発動。私もオールキャンセルを唱えてこの世界からの認識を絶つ。クロシロはミルックの認識阻害の範囲に入っている。バルトの要請で二人の指揮権をバルトに委譲。二人はバルトの指示に従って行動する。竜化はギリギリまでしないらしい。普通の人の手だ。あ、噴霧器背負っとかないと。
「作戦開始!」
領軍の兵士たちが偵察隊を狩る。一部の兵士は飛び地の入り口に残って漏れ出たモンスターを始末する。
わたしがいること前提でみんなは動く。
最初の通路にはノーマルオークを率いたハイオークの小隊。進んで行くとハイオークを率いたオーガの中隊が三つ。ここ最近いいカモだったからな、コイツら。かなり警戒してる。
こちらの戦力は領側の兵士を入れて百名弱。対する相手は千。それでもハイオーク、ノーマルオーガくらいなら一人で小隊を余裕で倒せる戦力だ。ボスまでどれほど余力を残せるかが問題。温存させる戦力はバルト、ゴズさん、コートさん、ジンさん、ネンドさん、ブンボさん、他兵士五名、そして認識阻害を一手に担うミルック。
今回の指揮権は領司であるバルトが持っている。有事の際は指揮権を領司が持つことになるらしい。全ての責任もだ。今までは若いのに出世してんなぁ程度の他人事と思っていたが、大変責任の重い役割である。まあ、普通は戦力として現場まで出張って来る領司はいないそうだけど。
ある程度下っ端を蹴散らすと、兵士は飛び地の奥に引いていった。戦略的撤退というヤツだろうか。体制を整え、恐らくだがあの広間で我々を迎え討つつもりなのだろう。背後から挟み込まれたらたまったものではない。私は一度姿を現し、ポーションの供給をする。小傷などは便利な噴霧器でシャーとかける。ポーションの原液を初めて飲んだ一部の人たちが「古傷も治った」と苦笑していた。そんなに貴重だったのか。
皆の暫しの休息の間、バルトの指示で私はクロシロを連れて偵察に向かった。オールスルーなら誰にも見つからない。入り組む支道の小路に潜伏している兵士がいないかを確認する。但し、発見しても決して狩りはするなときつく言いつけられた。シロが了承の合図をしたことに成長を見る。
私の昨日の偵察で描き出した地図に高位ランカーやバルトのスキルからトラップの場所を割り出し、その辺りを重点的に調べる。落とし穴、せり出す壁の周りには認識阻害を使用しているであろうオークの群れ。小部屋へ続く支道がいくつかあるが、そこにはハイオークがオーガと共に潜伏し、通路の暗がりに一体ずつ見張りがいた。
忍者屋敷のようなトラップがあり、壁によって支道が隠されていた。レベルを落として確認すると、先程まで切れ目が見えていたはずの壁の切れ目が消えている。認識阻害がダンジョンそのものにかけられている。
再びオールスルーをコールして壁をすり抜けるとそこには長く続く支道があり、オーガジェネラルが統率するオーガの群れがいた。オーガは数えて百体。半数がここにいる。あちらの警戒はなかなか念入りだ。
奥まで行くと部屋の扉があった。クロシロの警戒がMAXと言っていいほど強い。確認だけだと宥め、中に入ると、オークキングが二体、オーガジェネラルが二体、とオーガらしきモンスターがもう一体。図鑑でも見たことのない巨大なオーガがいた。エンペラーよりデカイ。なんだありゃ。それにしてもデカイ図体が複数いるからか、この部屋はやたら天井が高い。見た目は執務室のようだった。モンスターたちが使用している机と椅子があるだけで、ペンや書類、本棚の類もないが。
そもそもオークキングが二体というのが理解出来ない。キングはボス、群れの頂点。それが同じ群れに同時に二体など。なんか不安になって来たな。
広間に行くと残りのオーガジェネラルが残りの兵に対して何か喋っている。何言ってんだろ。ウガウガ言ってるだけなんだけど。隊長を頭に、平兵士が十体一列で並んでいる。ひい、ふう、みい……コレ、昨日確認した時より増えてないか?外の兵士合わせたら1.5倍はいると思う。
ボス戦、危うければオーガジェネラル戦からシロとウーカ隊メンバーの攻撃力強化スキルを常時発動し、全体の攻撃力をアップするという作戦でいた。それでも絶対に大丈夫とは言えなくなって来た。
一時間ほど飛び地を歩き回り、急いで戻るとみんな食料を食べ終えていた。わたしは時間が勿体無いので歩きながら食べて来た。
スキルをキャンセルして報告すると皆に緊張が走る。戦力が足りない。だけど、増やしたところで実力が見合わない者が多い。余計な被害者を増やすだけだ。バルトとゴズさんの結論はそういうことだった。
当分は広間まで一本道なので、それを利用して逆に本道に潜伏兵を誘き寄せて対処しようということになった。
では、その囮を誰がやるのか。
「認識阻害は認識阻害を相殺する。それはよく知られていることだ。ミルック夫人の能力は向かない。」
バルトがそう言うと、全員がわたしを見ている。嫌な予感がする。
わたしの恋人は渋面のまま……違うな。泣くのを堪えるかのような顔をして、わたしに命令を下した。
「囮はショウコだ。クロとシロを上手く使って、潜伏している連合軍の兵を本道におびき寄せろ。」
マジか。わたし、非戦闘員なんだけど。
命令を断ることは不可避だった。




