年間目標額を達成しよう(1)
わたし自身はシディーゴ第一で荒稼ぎして来たが、最近クロシロの訓練ばかりでコッティラーノにはあまり貢献していない。コッティラーノ支部所属であるにも関わらず、だ。
「行くよ、クロ、シロ。」
ギルマスにも「そろそろ低層階ソロで」と言われたので今週は潜り続ける予定である。クロシロの連携戦闘もそこそこ上手くいっているのでモンスターも狩る予定である。
コッティラーノ第一ダンジョンがハイクラスダンジョンに変わったことで支部の年間目標額が増えた。マッタさん的にはわたしの低層階のレアアイテムを回収とクロシロによる中位モンスターの討伐と回収に期待しているそうだ。
最早コートさんの狩り場と化した飛び地へとわたしも入る。途中、見知らぬ分岐が出来ていた。後で行ってみよう。
例によって例の如くあの玉座のある広間へ。うん、いいね。オークキングだ。丁度いい。さすがにエンペラーだと今のクロシロでは致命傷を与えるのは難しい。
わたしが銃火器類を扱えればいいのではないかと思ったが、万が一ダンジョンに吸収されてしまうとそういった類のものも再現されてしまう可能性があるので止した方がいいと佐山くんに言われた。故に冒険者たちは非常に原始的な剣、槍、弓を使うのだ。「モンスターが散弾銃とか持ってたらやでしょ」と言っていた。やだわ。無抵抗のまま被害に遭う冒険者続出だよ。
「クロ、シロ。まずはキング。その後は一体ずつジェネラルね。わたしの指示通りに。」
了承の合図。良し。
「GO!〝キャンセル〟!〝オールスルー〟!」
シロは氷の刃を放ち、クロがかまいたちでそれを後押しする。切れ味抜群だ。だが、オークキングの首はまだつながっている。二人と共にわたしも移動。攻撃に合わせてスキルをオンオフする。
「〝キャンセル〟!〝オールスルー〟!」
シロが頭部を凍らせて、クロがかまいたちで頭部を胴体から切り離す。クロはオークの耳を好む。要するにオークのミミガー。スマホで下処理方法調べたわ。毛ごとそのまま生で食べて毛玉吐くから。
モンスター討伐はわたしにとって二人のご飯調達。モンスター肉を食べ始めてからクロは体長1mくらいになった。シャパリュは佐山くん曰くカラカルというネコ科の動物によく似ているとのことだ。耳の先に特徴的な毛が伸びていてコレがあるお陰で音をよく拾う。故にモンスターの気配をすぐ察知する。
シロは既にクロを越し、体長150cmくらい。フェンリルの成体はもっと大きいのでまだ子犬感がある。デカいのに。熱操作スキルによる遠隔攻撃と最大の武器である牙による近距離攻撃の手段を持つオールラウンダー。まあ、噛んじゃうと素材としての価値が下がるから牙は危機的状況以外は使わない。上位のドラゴンくらい大きければ多少噛んだって問題ないんだけど。
「〝キャンセル〟!〝オールスルー〟!」
「〝キャンセル〟!〝オールスルー〟!」
「〝キャンセル〟!〝オールスルー〟!」
「〝キャンセル〟!〝オールスルーレベル9〟!」
あとは小兵をお掃除するだけになった。わたしは今のうちにカーテンや玉座などを回収。キングとエンペラーのサイズの問題なのか、オークキングの時の方が玉座の大きさが小さい。下の宝物庫の分も回収。まいどあり。
ノーマルなオークももちろん回収し、ポーションを二人に飲ませて来た道を戻り、先程見つけた新しい支道に入る。
「抜け道?」
とはいえ、抜け道といえば坂道が鉄板。ここは階段だ。正規の昇降口と変わらない。
降り切ると大きな扉があった。さっきの広間みたいな感じ。またオーク軍でもいるのだろうか。
「クロ、シロ。いけそう?」
クロがしっぽを二回地面に叩きつけた。シロはやる気らしいが、クロは微妙な反応。
「無理はしないでおこう。中に何がいるか分かんないから、確認のために入るよ。それは大丈夫?」
大丈夫らしい。自分には手に余るモンスターがいるってことかな。扉はそのまま通り抜け、中に入るとオーク軍の広間よりも豪華な装飾の広間に入った。ヨーロッパの宮殿といったイメージだろうか。わ、シャンデリアだ。すご。アレ、高く売れそうだな。玉座も立派。モンスターの体格がいいから大きいわ。
うん。オーガ軍だった。鬼の群れだ。
構造はオーク軍の広間と大した変わらない。戦闘はやめて素材だけ回収していこうかな。オーガは日本の鬼のような姿をしていて、それをもっと巨大化させたモンスター。見上げると首が痛くなるくらいに背が高い。角、高く売れるんだよな。
単体ならまだしも、群れとなるとクロが難色を示すのも分かる。ノーマルなオークが下の中ならばノーマルなオーガは中の下。ちょっと面倒くさい。武器はオークよりもいいものを使ってるからそこそこの値段で買い取られる。
あんまり欲張りすぎて怪我をするのも嫌だ。玉座だけでも持って帰れないかな。オールスルー状態で玉座にマジックバッグを寄せて、キャンセルもしくはレベル9にした後で回収。しまうのは一瞬だからオーガキングは突然ずっこけるかもしれないが、まあ、それはわたしに関係ないし。あっちが攻撃して来てもオールスルーですり抜けてくし。
「クロ、シロ、護衛お願いね。玉座を獲りにいくよ。」
近くで見るとこの玉座すごいな。ルビー、サファイア、エメラルド、紫はアメジストなんだろうけど、全部でかっ。デザインの趣味悪っ。
「〝オールスルーレベル9〟〝オールスルー〟」
スドォォンと音を立ててオーガキングは尻もちをついた。あ、やっぱり下にも宝物庫があるな。部下たちが駆け寄り慌てて王を起こす。恥ずかしさからか怒りからかオーガキングの身体は震え、無意味に拳を振り回す。王の姿とは思えないダサさである。知能は多少なりともあるが、結局は殺戮するしか能のないモンスターなのか。
オーガ軍は突然の出来事に驚いて混乱したが、キングがケガをしたわけでもないので直ぐに落ち着いた。シロにちょっと狩りたいという顔をされたが、また今度ねと言うと素直に従った。
これは早急に知らせないとダメだな。飛び地からオーガが出て来たら高層階に潜ってる若い冒険者が犠牲になるかも。予定を変更して支部に戻ろう。
「オーガ軍かぁ。」
「大将は?」
「キングでした。多分。」
多分。オーガのキングはオークのエンペラーくらいなので間違いないと思う。
「あそこの飛び地、ちょっと厄介だな。」
「いい狩り場なんだけどな〜。」
「潰しますか?」
「潰すか。勿体ないが、安定した運営を優先しよう。領都に近過ぎる。」
人型モンスターの群れはスタンピードを引き起こしがちなので、飛び地は早々に廃棄が決まった。とはいえ廃棄ってどうするのだろうか。
「ボス、エレンスゲでしたっけ?」
ドラゴンというより七つ頭の蛇で八岐大蛇みたいなモンスターだ。ただやたらデカい。なるほど、ボスをやれば支道は更新される。同時に飛び地もだ。じゃあ、第一の中、結構変更になるな。
「アイツらのランクアップにも丁度いいだろ。」
「そうですね。」
支部所属のBランクパーティをAランクへ上げるのにはボスの攻略が必須。でもミドルクラスダンジョンでいいはずなんだけどな。ハイクラスダンジョンのボスはSランクへの昇級基準だから。
どうやら目をつけてるBランクパーティをどちらも連れて行くことになるようだ。キョウちゃん、がんば。
「何言ってんだ。お前も来るんだぞ。」
はい?何故?