6
「爆王斬!!」
巨大な炎球が敵陣を呑み込み緑の地におおきく咲き誇る。
「ふぅ、知ってはいるけど石像たちが襲いかかってくるのは地味にホラーだな」
探索を進めた父親と女神石像のパーティーは遭遇した野良の石像たちを難なく打ち倒していった。
遭遇した敵の殲滅後父親が振り返ると。
後衛を努めていた女神石像は露骨なジェスチャーでため息を吐いた。
「ごめんごめん! そんな気を落とさなくても……。この辺はまだ弱いからさ、ハハ」
父親は明らかに不満気な態度の女神石像を励ました。
女神石像は、うーん、といった少しむっとした表情で腰に両手を当て父親の方を見返した。
女神石像は父親が魔法の発動前に敵を殲滅してしまったのが気に食わなかったようだ。
ゲームではこんなこと起こらないのに……。RPGの後衛魔法使いってフラストレーションの溜まりやすい職業なのかもな、ハハ。怒っているところもかわいいがあまり怒らせるのも良くないなマルチプレイは接待も大事だ。
ほんとに感情が豊かなようで、もはやすこし別ゲーの気分だな。
少しぷんすかしている女神石像をなだめになだめ、先へと歩を進める父親パーティー。
「にしても腹が減ったよ母さん」
水がある分マシだが、水だけじゃ現実と同じく空腹は満たされないものだな。
まあこんな地味にヤバイ状況なのにシコって貴重な栄養を草地にオモラシして余計腹が減っちゃったんだが……。
エロいゲームやはりバグが多い。
さて、そんなことよりこのだだっ広い草原は。
主人公専用の機能ドークスが使えたのならばと──
「アートル」
父親は右の手のひらを広げ、見る。
緑に光る手のひらに描かれる小さな赤い点々。赤い足跡がある。
「おお、使えて良かった……」
【アートル右】
エロいゲームのマップ機能。手のひらを緑色に発光させ自身の歩いた軌跡を赤い足跡で表し、現在位置を黄色い矢印で教えてくれる親切な機能。普通にマップを見せてくれたらいいのに……このエロいゲームなぜか格好から入りたがる傾向があるようだ。不便を強いているとかじゃないとは思う、あの2人は好きにやっているようにも見えちゃったり?
「そんでっと……」
同じく左の手のひらを広げ、見ると。
青く発光した左の手のひら、それを一度握り、また開く。
開いた手の各々の指に縦に書かれていた白い文字。無駄にオシャレな機能に目を凝らしていく。
石の街
ペンギンステッカー
ターバン石像商人
石の城
エメラルドハルバード
「なんだこれは……」
【アートル左】
エロいゲームのしゃれた機能。この階層にあるだいじなモノを教えてくれる機能。アイテムがどこにあるのか分かりづらい、取り逃がしたと誰かに言われ急遽実装されたこの機能であるがぶっちゃけ甘えである。今はその甘えのおかげで大いに助かっていて感謝しかない。やっぱりあの2人不便強いてるわ!
「石の街、石の城、ターバン石像商人…………」
「なんだこれ!?」
「ちょっと待てよく意味が分からないぞぉ」
「こんなのちょっと知らないぞ!」
俺はそんなヘヴィー過ぎるゲームマニアってほどではないがラヴあスはシコりながらかなりやり込んだつもりだ。このミジュクセカイの塔に石の街や石の城なんてものは存在しないはず……。しなかったはずだ。
だとすると。
「俺の知らないセカイってことか、ここは」
父親が髪をかきあげ、眺めるもの。
遠くまでつづく緑の地。ただのゲームに与えられたマップを進んでいるのか、それとも。
ふいに、真剣な背につんつんと硬いものが軽く突き刺さる。
「うおっ!」
慌てて振り返ると。
女神石像は困った顔で、行かないの? と少し首をかしげ背の翼をぱたぱたと動かしている。
「あぁ悪い……。そうだな行くしかないかぁ」
ひとつ息を大きく吐いた父親。女神石像の顔を見てフッと微かに微笑む。
そんなに真剣になるような事だったのかと、このエロいゲームの世界に問い。
「よし! 女神石像メシだメシ! ペンギンステッカー見つけるぞぉ、ペンギン知ってるかお嬢さん、ハハ」
女神石像はリーダーのみせる元気さに釣られてか、いつものようにうんうんと元気良く頷いている。
外でのゲームプレイでは存在しなかったモノ。それがこのゲームのセカイには存在していた。ワクワクよりも未知の恐怖、恐怖よりも興味? 一介のゲーマー山田燕慈は何を思ったのだろうか。
父親と女神石像のパーティーは減る腹でペンギンステッカーなる物を求め、また未探索の緑の地を歩き始めた。
▼
▽
アートルを駆使しながら未探索の草原を赤く塗り潰していくように探索していった父親パーティーは。
「石の街って……おそらくこれだよな……」
石の積まれ土で補強された簡素な低い外壁で囲まれている。石のアーチ状の門をひとつ構えた、街らしきものが見えてきていた。
中に石の屋根や色とりどりの木の屋根らしき建物の集まりが見える。
「……なんかおっ始めているんだが」
迎え撃つ街の石像住民と思わしき者たちと侵略しようとする母乳石像とションベンオヤジの野良石像の大群が外壁の外で戦っていた。
石像同士の珍しい戦い模様にプレイヤーはすこし唖然。
「何やってんだこれ……バカみたいな光景だな。イカれたB級映画かよ」
街の前の草原は魔法とチンコレーザーが飛び交う戦場と化していた。剣や槍を持った石像自警団が前衛の母乳石像とぶつかり合い砕いていく。
騒がしくドンパチがつづいている。
初めての事態に遭遇し、そんな様子を未だ眺めて悩むプレイヤー。
「……さて、どうするか何が敵で何が味方やら」
すこし考え込んだ父親が後ろを振り返ると、
女神石像が祈りを捧げている。
盛大なる祈りを。
宙に大きなみずいろの魔法陣が構築されていく。
まさかのいつの間にやらの戦闘参加にプレイヤーは見つけ次第慌て、
「ちょっと待てちょってェ待って!!」
父親は女神石像に近寄り両手と必死の表情で待て待てと、感情表現をし伝えた。
女神石像は合わせた両手の祈りをやめ構築されていた魔法陣を解き、手を横に広げなぜ? とリーダーの不可解な行動に不満気な石の表情をしている。
「アクアバイバイは禁止!!」
それはチカラ強い両腕で成すバッテン。
受け取った女神石像は広げた両手を縦にぶんぶん振り、なんで! と怒っている。
フラストレーション溜まってんなぁ。この感覚なつかしい、暇な弟とエロくないゲームをマルチプレイして喧嘩してるみたいだぜ。弟いないけど。
「待て待て冷静に見ろ、みえるアレは街で、街の住人巻き込んじゃうから」
父親は石の街を指差し目線を配り、女神石像もその方向を見た。
女神石像は軽く握った右の拳を顎と口元に当てかわいい仕草で考え込んでいる。怒り次第やわらぎ、
「アクアスナイプでションベンオヤジたちを狙撃してくれ」
リーダーは代わりに次の指示を出した。
使う魔法を指定しつつ。
女神石像はじゅうぶんに考え込んだ仕草を解き、ポンと右拳と左手のひらを合わせ、なるほどと石の口をすぼめ納得している。
そしてうんうんと父親に2回頷いた。
どうやら承諾してくれたようだ。危ないところだった……。あのままだと石像の街相手に戦争仕掛けるところだったぜ……。普通のゲームならそういう悪役プレイもたのしいけど、これはセーブできないエロいゲームだからな!
街があるって事はきっと中立か味方だと期待するのが普通だよな。
なぁに判断ミスっててもどうにかなるさ父親だもん!
「今まさに避けて通れないイベントが起こっている……街を賊から守って英雄になれ作戦で行くか」
考えをざっくりとまとめキメた父親は白蜜を抜刀し、パーティーの前衛を努める準備に入った。
女神石像も祈りを捧げみずいろの魔法陣を宙に構築していく。アクアスナイプで各個撃破し父親を支援する作戦を決行した。
「よしならばガーンと行こう! この草原は立ちション立ち母乳散らしは禁止だぜええ」
「女神石像ガーンとイクゾ!!」
石の街を襲うヤツらを賊と認定、明確な敵は定まった野良石像の敵陣へと父親は白蜜を右手に流し緑の地を駆けて行った。