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▼ミジュクセカイの塔5202階▼
4000階のアグニとの激闘から日々、父親パーティーは新たに得たチカラを試しつつ順調過ぎる程順調にミジュクセカイの塔の攻略を進めていた。
寝静まりかえった礼拝堂。ステンドグラスから降り注ぐ陽は祈りを捧げる女神石像を照らしている。壁に立てかけられた石の壁、不思議にもその体勢ですやすやと眠っている。
ベッドは2つ、必要な人間は2人。長旅ゆえに飽きないようその寝場所を交代していた父親とサム。
「王!!」
「────うぶッ! ナンダ!? なんだ、サム……!?」
乱れたピンク髪はドタドタと階段を駆け上がり白いベッドへとダイブし主人をはげしく揺らし起こした。
訳の分からない起こされ方をし不機嫌そうな顔を見せるいつものスーツではなく白いシャツ姿の黒髪。
「……ナ、なんか地下室にうるさい穴が……突然!!」
「穴? うるさい?」
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▽▽▽
「アッまだありましたほらこれです!!」
父親は燭台の緑の炎を調整して辺りを明るく照らし直した。
いつもより散らかった部屋。置かれていた本棚、本の一部がサムが指し示すその黒い穴に呑み込まれた事がうかがえる。
黒い穴、うるさく低くうなる音を鳴らしつづけるその激しく渦巻く平面穴。
「ほんとにうるさい穴だな……これはなんだ?」
「さぁ、なんでしょう? 私知りません!」
父親はスッキリとした黒い髪を掻きむしりながらそのよく分からない光景に不思議しかめた顔で思考していく。
穴? なんでここにこんなものが…………待て、穴といえば。……似ているな。
「今って体内時計的に深夜だよなサム」
「えと……私の体内時計的にもそなんじゃないかと! ま、ま、ここに来てから朝と夜はあんまり分からないですけど!」
穴はどこかへと繋がるゲート。そんなものはミジュクセカイの塔にはない、ステッカーはあるがそういうことでもないよな。いや、閉じ込められていた父親の俺はあったか? アレは……ゲーム的なその場繋ぎで特に意味はないだろう。だが…………そもそもモンスター、怪異はどこからやって来る? ミジュクセカイの塔の1階、低層は裏要素なのに何故あんなにも弱い? ゲームの攻略には全く関係ないが、ガバガバのくせにどうでもいい変なディテールにこだわるヤツらだ、それは────。
いつもの長考、その横顔を見つめるサムだが今は黙っている。今は自分の出番ではない。共に旅して王の性格を少し学んでいたからだ。
そして考えのまとまった王は彼女に対し口を開いた。
「夜と死……古井戸? ……サム。こいつは思わぬ大チャンスかもしれないッ、ちょっと一瞬だけ覗いて来るーー!!」
「ちょ、ちょと待ってください王ー!!」
一瞬の覚悟を決めた。ラヴあス2の父親役、山田燕慈の持ち前のゲーム脳の前ではそれは怖さより興味。本来のゲーム上にはなかった不確かな確信でもあった。
ただの穴ではない。穴の空いたスペースシャトル、激しく中から外へと吸い寄せるように呼吸する異様なモノとの距離を取り壁際へと。
父親はうるさく渦巻く穴へと駆けその身をダイブさせた。
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▽▽▽
……さて、この先に何があるっていうんだ。来いよラヴあス、サハラ、俺の古井戸!!
通り抜けた記憶とセカイのラグ、暗がりは明け。
その穴は入口とは違い静かであった、だがメラメラと燃えている。
「なんだ……これ」
彼の眼に映る、見渡す、一瞬にして変わった景色。
どこかへと繋がる黒いゲートは荒れる炎の海に囲まれていた。
燃え盛る炎、その、期待していたものとは違うまさかの光景に父親は思わず目を細める。
「王ーーわぷっ!!」
静かにうなる黒い平面穴から出現、勢いあまり白い背にぶつかってしまったピンク髪。
「うお、びっくりした……て、なんで来てんだサム……」
「スーツ忘れてたので……ってナ、ナナンデスこれ!?!? ひっ、炎!? オ、王がヤッタのデスカ!?」
「……今考えるからちょっと黙ってろ」
「は、ハイ……ひ」
ざりざりとした砂を黒い靴で掻き。
「考えるまでもない!!!!」
「ヤバイヤバ過ぎる!!!!」
「え、ナンデス!?? 戻ります!??」
突如、サムから黒いスーツをぶん取った父親。
そして、すぐさまそれを羽織った。
「逆だ、戻れない!!!! ここで戻ったらプレイヤーとして俺の負けだ行くぞサム!!!!」
白い刀は電子の荷から取り出され、父親の手に。そして炎の中を駆けた。悠長に決める覚悟どころではなかったのだ。ここがどこでどういう状況であるかが……プレイヤーの知るゲームの結末へと繋がっていく。
「え、ええーーちょ王また!!!!」
「爆王斬!! ぐぴっと……ついて来れなければ置いていく!! 急げ!!」
繰り出された巨大な炎球が辺りの炎の海の威力を上回り焼き払いそのエフェクトを消し去った。
「ハ、ハイ!! ──────ってうわああああ敵さんが!?」
一気に開けた視界、命令に従い追う黒い背。獲物を見つけたのかソレにうじゃうじゃと群がる様々なカタチのモンスターたち。
「かまうな食らっても痛くない雑魚だ、相手もするな王命だ!! 爆炎斬!! 道を開けろおおおお爆炎斬!! チッ、ついて来るなら残すわけにも、サム王命だそいつら片付けとけ、さんかく公園に来い!!」
「ええ!? どっ、わ、テキカク分かりました!!!! ッて、てて古井戸!?!?」
駆けていく深夜の古井戸、学園の塀を飛び越えショートカット。黒スーツはVRゲームで何度も体験した状況と重ね身体を動かし、脳裏に浮かべた良からぬシーンのさんかく公園へと向かった。
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とにかく全てを振り払うように走り抜けた、ふらふらと路地をゆく。身体はその1本の電柱にすがりつき。
「はぁはぁ……ゥゥゥ」
荒れた息、少し軽くなった絶望は振り切っても蘇りまだ終わってくれない。ひどく乱した髪、滴り落ちる汗の球。
ぽたり……ぽたり、コツ、コツ、コツ。
ソレは自分のものではない、足音に振り返る。
目に映る黒紫。ツノが生えていて、ここが地獄だとすぐにわかった。
ギロリと光るエメラルドは、じっと。
「なんだよ……見るなよ……ミルなァァァァァァ」
かざした左手。
青年の絶望とともに放出された黒い炎は、悪を見せ続ける夢幻を黒く塗り潰し彼の精神を安定させた。
「はぁはぁ……ハハハハ」
黒く燃え上がった悪鬼。いつの間にかソイツは黒い刃を手に持ち。飛び交った、迫った青い斬撃波。
青い三日月、本能で身体を反らしソレを避ける。
更に襲う三日月は勝手に鍋の蓋が防いでいた。
ガラン、がらっ、と舞い落ちた2つの鍋。
終わらない夜の終わりへとフツウじゃない身を引きずりながら、生命はまだ精神を纏い逃げ場を求める。
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「がああああああああ」
黒い刃はついにその身に届き、電子体を一閃した。
苦悶、絶叫、よたよたと下がる、まだ死んではいないようだ。
黒い炎は通じていない、絶望を吐き出してもなおその黒紫は黒く塗り潰せない。
なおも逃げる、何故かその無言で寄る黒紫の悪鬼に背は見せれない。
斬られた身は確かに痛いだが彼は生きている、それは自分の身でありながら恐ろしく。
次々と逃げても迫る絶望に。
斬られた痛む腹を抑え、エメラルドを見つめ立ち尽くす。
もういいや……なんで避けてんだろう……はやく……コレから……解放されたい……。
「炎は……コロス……」
何かを喋った。構えられた黒い刃は、斬撃を。
放った。
青い三日月は彼の最後を飾るにはもったいないぐらい綺麗だった。
ゆっくりと綺麗にみえた。
「ハハ……ありがとう……」
もうサダメはそこまで迫り。神に祈ることもなかった、ここでいいと────
『バクエンザン』
終わりを迎えかすむ目の前が黒く塗りつぶされた。
心臓は止まってくれていない。
「可黒美玲ィィィィ、悪ぃオソくなった間に合ったァァァ!!!!」
その声は、その背は、ラヴあスの可黒美玲を終わらせない。
「な……だれ……」
「主人公、おまえの父親だ!! 爆炎斬!!」




