49⑩
古井戸町内5LDK、45坪程の白い一軒家。家族3人が暮らすには十分な広さ、ごく平凡なその家は。
しばしば深夜に出掛け帰宅する高校生の娘と、ソレを気に留めるが気に留めない40代の父親と30代後半の母親。虎白一家は不思議なバランスで成り立っていた。
「パパ、携帯ほしい!」
「け、携帯だぁ!?」
「うん。だってミレーがこのままじゃ原始人JKだって!」
「美玲くんがか……いや原始人は言いす」
「ちょっと家の固定電話があるでしょ子春」
「えー、だって筒抜けじゃんー!」
「「筒抜け!?」」
落ち着いた色合いのダイニングテーブルは、ガタリ。
フォークがガタリ、夕食のナスとトマトのアラビアータパスタは父の当番で作ったもの。
「そんなの気にしてなかったでしょ子春」
「そそうだ子春! おまえは恥じらいのない元気の良いかわ」
「うーん……そうだけど、気になり出したら気になっちゃった! ねぇいいでしょワタシ原始人JKヤメタイ!!」
子春の切り出したカード原始人JKヤメタイ宣言に若い夫婦は圧倒され。
▼▼▼
▽▽▽
虎白一家に訪れた衝撃。それは子春がしばしば深夜に徘徊する事ではなかった。
結局その日の夕食時、その場では何とかはぐらかし事なきを得たものの。
少し元気を失った本人が「ちょっとランニング!」と称し、外出しいなくなった時間を見計らい。
煙草の匂いが染み付いた夫婦の一室、そこで今日は愛は育まない、作戦会議が開かれていた。
「流石に携帯ぐらい持ってないと不自然だよな……チエ」
どこにでもいるどこか人懐っこい顔の40代の男、眉間に年季の入った皺を寄せ母親にうかがう表情を向けている。
「あの元気っ子なら不自然じゃないでしょ」
チエ、父親にそう呼ばれた女性。30代なのにチャレンジ精神溢れるグレーの長髪。ここ最近は伸ばし続けて、しっかりと手入れもされた美しい艶髪が妖しい魅力を放っている。
「でもよ」
「それは分かっているわ。与えてみればいいじゃない、バード」
「あっさり!? いいのか」
驚く男、提案はしたものの彼は携帯が虎白一家にもたらす影響力を恐れていた。
「馬鹿ねバード。こっちから連絡を取れた方が操りやすいじゃないの。コンビニで何味のアイスを食べたかまで」
「……へへ、そりゃそうか。流石だぜチエ」
「アンタは顔だけが取り柄なんだから」
「いやーオレってば、まじで顔だけだ! はははは」
煙草をふかし、くすりと笑うチエ。いつも2人はバードが投げかけそれに対しチエが知恵を回す。そうして虎白一家はひどく一般的ごく平凡な家庭として成り立っていた。
「しかしすっかり髪も伸びたな」
「これぐらいは母親の仕事の内よ。せっかくだもの」
指先でなぞり、グレーに染めた長髪をぱらぱらと宙に跳ねさせる。
「ま、普通に生活していた方がいいってもんだな。オレはどうも遊び足りないのか? 子春みたいに深夜徘徊にパチン」
「アナタはそれでいいのよ。大好きなアニメのフィギュアでも好きなだけ買えば?」
ずらり、棚の上いたる所に並ぶ、海外のヒーロー達、フィギュアの数々。その多勢は子供部屋の内では飽き足らず夫婦部屋にまで侵食していたが。
チエは目配せをし遠回しに指摘をした。
「コ、これは子春の趣味だしな……」
「はぁ、いらないヒーローは処分する事ね」
「これは悪役だぜ?」
「子供の趣味なのによく知ってる……。縁起が悪いわねヒーローを取り囲んで処分すればいいじゃない」
「子春と相談しないとだな……ヒーロー抹殺会議」
苦笑い、何かを察した男。流石に一般家庭を侵食しすぎたフィギュア軍を子春と相談し片さないといけない事になった。
「…………」
しばしの沈黙に、男は手に取りながめる悪役フィギュア、コーヒーと煙草の夫婦部屋での一服。
「それに」
煙草は貝殻を模した灰皿にくしゃり、押し付けられ。
「他人の娘を、原始人JKなんて言われて腹が立つじゃないの」
夜は更けてそれぞれの寝床へと戻る。煙草の匂いの染み付いた場を嫌う父親はリビングのソファーを支配し、母親は知らず夜の街へと溶け込んで。
予期せぬ事態に起こった夫婦会議。その日の内に虎白一家は元の安定を取り戻し、子供の失った元気は秘密裏の会議を経てのちに取り戻されることになった。
▼▼▼
▽▽▽
ただのいけない深夜徘徊、ではなくオカルト探偵部。彼彼女らの古井戸町内パトロール、その活動活躍により町内の怪異は目に見えて減っていた。
「ほんとにすっきりしてんな」
「白旗上がるかなぁー?」
深夜をお馴染みの白黒のジャージのペアで出歩く2人。何度か一緒に近場のホームセンターで買い替えているその防寒着、兼、戦闘着。
2人は戦闘経験を積みそこまで怪異相手に苦戦する事も無くなっていた、その証拠に比較的新しい状態に保たれ綻びのない戦闘着。
このところ怪異は減り遭遇バトルの頻度も減っているのを2人は実感していた。
この日は暴れたりないのか奇声は上げず独自の型を見せ拳と蹴りを空に散らす子春。
黒ジャージの彼には見慣れた日常風景。慣れた様子でそれを気にせず話し続ける。
「白旗は上がらないだろけど、怪異も兵隊を失ったなら」
「悪の女幹部の登場だね!」
「なんでそうなる……いや合ってるか……」
▼
▽
この日のパトロール。その最中に仕掛けは既に施され条件は整っていた。可黒美玲はある事を試すため一緒に古井戸町内のパトロールをしていた子春と一旦別れた。
『子春いいか』
「うん聴こえてるよ!! これが現代人JK!!」
『そうだな現代人。さて文明の利器ってヤツを使ってオカルトな実験をしちまおうぜ現代人JK!』
「ハイミレー! 現代人JK的、実験開始!!」
『開始だァァァ』
たったっだっダっ。スニーカーは深夜のアスファルトを蹴り。
実験は開始され子春はカスタマイズされた地図と土地勘を頼りに予め美玲に指定されたそのポイントへと駆けて行った。
▼
▽
『Bだ』
「おーー!」
▼
▽
『C』
「うそーー!!」
▼
▽
『A』
「負けないよ!」
▼
▽
『A』
「すごいよミレー超能力者みたい。私コンビニでアイス買って食べてフェイント入れたのに」
ビリリと天に突き上げた青い拳。纏ったのは荒々しい青いオーラ。
子春はこれ見よがしに聳え立つ見上げるほどのマンションに向かい神座のチカラを解放していた。
『おい、なんで途中から俺と戦ってんだよ! てか最初からじゃねーか』
「ええ!? だって時間でバレちゃうよ?」
『言われてみればこの実験ガバガバだったな……悪りぃ。イヤでも待て! そもそもが勝負じゃねぇそこまで求め』
「そうだよミレー! これが現代人JKの頭脳!」
『現代人JKって言いたいだけだろ、もはや』
「気に入ったらアイスでもなんでもばっかりのここぞだよミレー! ミレーはチョコでよかった? チョコミント?」
『さんきゅー今日はちょうどチョコの日だ。チョコミントは人類には俺にはまだ早い』
『っておい、んなことより! 可黒美玲のオカルト開発実験結果……!! 子春、よく聴け超能力ではないぞ……これぐらいは理論的かつフツウだろ。そもそも俺の考えじゃないオルゴナイトのおかげだ。宇宙的な平面感覚の縮図を脳内に展開して名付けて並べてあとは現実に並べ置かれた陣が勝手にネガティブエネルギーをポジティブエネルギーに変えているだけだし』
「お、オル? オルゴールごりら? 現代人JK的に何言ってるかわからないよ!?」
『と、とにかく実験成功だ! これでパトロールも楽になる』
美玲が発明した石のレーダー。適当な女性の名前を名付けた石を4つ置き、その四角エリア内のネガティブエネルギーをポジティブエネルギーに変換することで神座で発したエネルギーや怪異の存在を脳内に描いた平面地図で察知する事が出来る装置。
今は3ヶ所が限界だな。毎日のようにぷらぷらパトロールなんて効率が悪すぎるぜ。だが、ソレも無駄にしないのが可黒流。掃除して張って待つ。意味不明な怪異を捕まえるにはフツウにちゃんとしたオカルトは必須だ。
「むしろ今まで俺って無知すぎた? このところフツウを取り戻しつつあるなっ、オレっ!!」
誰もいない深夜の古井戸。ありふれた路地、アスファルトの上に立ち電柱にもたれかかる黒ジャージの彼の元に彼女は元気よく白いケータイの手を振りながら。
▼
▽
仕事終わり、この日は実験終わり。いつものように2人は夜更かしの24時間営業アイスを頬張る。
穏やかで静かな学生二人だけの夜。
「おいこれ中イチゴじゃん」
「苺チョコ、フェイントだよミレー!」
「まぁこの酸味……悪くはないけど」
「ふふアイスもオカルトも無限大だよミレー!」
「美味いのは認めるけどさ、無限大か。無限大まではいらねぇけど……フツウの組み合わせはもっとあるよな」
このところ絶好調の可黒美玲は物思いに耽ながら、酸味のきいた甘酸っぱいアイスを美味しそうに頬張った。




