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40⑥

『苦しんでるよ?』


『大丈夫よ。みんなで神に祈りを捧げましょう』


『……でも────』






「はぁはぁ……」




目を覚ました……きっと朝じゃない。明かりは豆電球の暖色だけだ。


パジャマ、足にべたつき張り付く感覚が気持ち悪い。


寝汗やば……。


「……お爺ちゃんかよ俺は」


上体を起こし、ごろっと何かが手からこぼれ落ちた。


明かりをつけ。


少し寝ぼけた視界に入った。


そこに置いたはずのない橙色の石が床にあった。


サン様……助けてくれたのか。



最近変な何か夢を見ては忘れている。そんな気がする。



ベッドから起き上がり、蛇口から透明グラスに注いだ水を飲み干した。


「はぁ……うまい」


今から寝るエネルギーあるかな……。


「変な時間に起きちまったな」


洗面所横のラックからするりと取り出した白いタオルで寝汗を拭きべたつく身体をリセットして可黒美玲の早すぎる1日がスタートした。







深夜3時、さんかく公園にて。


公園の明かりは常時それなりの光量で点いている。それが公園だ。



「8つ……0.1秒位内。いけるか」


「石より俺自身の問題だなこれは……」



公園の木のベンチに黒髪黒ジャージは1人座る。ぶつぶつと呟きながら静かな夜に思考を展開していく。


腕を素早くクロスさせ何かの動作を確かめている。


あったかいミルクコーヒー缶は横にコンと置かれ、古い木のベンチとジャージと缶コーヒーの赤。公園で見かけても違和感のない光景がその場を占めていた。


最近糖分摂りすぎてんなぁ。人生ではじめて頭使い出したからか? ……そんなことないよな……。


静かな時間帯、冷たい夜風が流れ吹きじっとするよりは何かを考え身体を動かす方が合っている。



突然。


ドゴゴっと。


鈍く大きな音が鳴り響いた。

 

散策園路の方だ。


「なんだ!?」


普通の公園に聞こえるはずのないその轟音にベンチからゆっくりと腰を上げ立ち上がった可黒美玲。


何かが羽音を立てて向かってきている。本能が危険を知らせるような嫌な羽音だ。


白と黒の縞。

じっと向かって来るソレを見つめた。


事態に理解が追いつかず反応が遅れた可黒美玲はベンチから離れ。


「蜂とか冗談!!」


うるさく迫って来た尾の針の連続攻撃を避けつづけた。


「深夜に尖ってるのは怖いに決まってんだろ!!!」


電子の荷から取り出した鍋のフタが針の直進を火花を上げながら滑らせいなす。


「蜂は甘いハチミツだけ作ってろ!!」


ベルトで腕に固定された改良された鍋のフタを勢いよく払い宙を舞う巨大蜂を殴打し吹っ飛ばした。


手応えありの一撃を浴びせた可黒美玲はすぐさま自作の盾を電子の荷に戻し。


「俺の距離」


踊るように両手から素早いモーションで投げ放たれた。


石のマシンガン。


巨体に似合わない俊敏な動きで宙でステップを踏むように舞う巨大蜂。

しかし圧倒的な石の弾幕に対応出来ずついに捉えられた。


捉えた隙は当然逃さない。


大量の石をその身に浴びボロボロになった巨大蜂の怪異は地に落ち、光の粒へと還っていった。


「はぁはぁオカルト探偵部は年中無休じゃないんだぞ……」


息を上げ、息を整え。


「終わったか?」


音のあった遠方、散策園路の方をしばらく見つめ木のベンチへと戻った。


「よしよし無事だったか」


無事だったミルクコーヒーの缶を手に取り少し熱の下がったそれを飲んでいく。


「ハァ……一般人が1人で出歩くもんじゃないなこの町は」


たったった、と足音。ざっざっざと蹴る地の色は変わっていき。


何かに気づいた可黒美玲。


再び散策園路の方を、目に見えたのは風になびく黒い外套。


「ぷはぁ!? な、なんだ!?」




遠方に見える黒い外套と目が合った気がした。


フードは何故か風に飛ばされず。


「ちょっと待てよ……向かってきてないか」


「来てるよね!!」


可黒美玲に一直線。


この勢いはハグではないだろう。


敵の攻撃の予感を感じた可黒美玲は、それを引き付けて。

素早く左へと転がり込むように避ける。


赤いオーラを纏ったダイナミックな飛び蹴りは風を切り砂地を滑り走って行き。

ざざざと、黒い外套は左手を地につけブレーキの代わりにした。


ものすごい威力だと感覚と肌で分かった可黒美玲。砂を払いながら体勢を立て直す。


「ちょっと待て!! 敵じゃないって!!」

「きっと敵じゃない!! 人間同士だって!!」


敵じゃない、アピールも虚しく黒い外套は再び可黒美玲に突っ込んできた。

彼は優柔不断という訳ではない。

人の形をした黒い外套が敵かどうかの明確なラインをはかっていた。

可黒美玲の発した警告は無視され黒い外套は走り迫る。ということは。


「来るってんなら、うまく避けろよ!!」


容赦のない石のマシンガン投法が前傾気味の黒い外套にぶつかり続けた。


赤いオーラを纏った腕を前に出しガードを固めながら直進して来る敵、絶え間ない石の直撃に耐えかねたのか地を蹴り宙へと舞い上がった。

石で敵を怯ませて距離を取ろうとしていた可黒美玲に襲いかかる勢いだ。

予想外のスピードのある跳躍、だが同時にチャンスでもあった。


「空中は避けられないって決まりがある!」


素早いモーション右と左交互から放たれ続ける石の弾丸。


「ほんとだ、しらなかった」


身を縮めながら面積を狭め腕と足を纏ったオーラは石の連射をバチりと音を立てながら弾き飛ばしていく。


黒い外套は身体を開き直し。攻撃の姿勢に戻る。落下地点にいる敵に対し躍動感あふれる赤いオーラが突き刺さろうと。


狙い澄ました石が通じなかった。


絶対絶命まで0.1秒。


やるっきゃない。


右ふたつ左フタツ。


「サン弾!!」


一瞬にして放たれた8つの石が同時にぶつかり反応した弱まっていた赤いオーラガードを消し飛ばし。


再び。両腕をクロス4つの弾丸が飛び、クロスした両腕は再び元へと戻されるように開かれまた4つの石が向かっていく。


石の散弾。


8つでガードを破壊。すぐさま放たれた8つが黒い外套の上半身に荒く、鈍く、鋭く突き刺さった。


この間0.19秒。


未知の敵相手のぶっつけ本番にて可黒美玲のサン弾は成功した。



「よっしやうおッ!?」


赤い左脚の一閃。喜びを見せようとした可黒美玲に、体勢を崩しながらも放った美しい空中横なぎ蹴りが決まった。


思ったよりも伸びた美脚ブーツが可黒美玲にクリーンヒット、砂塵を巻き上げながら彼方へと吹き飛び木のベンチへと突き刺さっていった。




「────痛ッつぅ」


コツコツと迫り来る黒いテラッとしたブーツ。

穴の空いた外套のフードは下ろされ覗かれた青黒い美しく妖しい長髪が彼を見下げる。


「はぁはぁ……タンマ……」


「……タンマ?」


彼女は首をこくりと傾げきょとんとした顔で静止した。


「こら勝手に遊ぶなニュウ」


散策園路の方からもう1人。少し背の高い黒い外套が近寄って来ていた。


その男は倒れていた美玲に大きな手を差し出し。

美玲は躊躇いつつも躊躇わずその手を取った。


「えっと、ありがとう……ございます……」


差し伸べられ掴んだ手に支えられてダメージを負った身体を奮わせ立ち上がり。

175cmの自分、より背の高い男と目を合わせた。



「君か。もう帰りなさい」


「……え?」


「長い人の生、無駄な争いは避けるべきだと思わないか。何が変わるわけでもない事だ」


「それは、そう思います……ね」


「賢い子は嫌いじゃない。今日の事は忘れなさい。我々ももうここを離れよう」


「は、はい……」




「……平和とは何か考えたことはあるか」



「……ない、ですね……」


「それでいい。知れば知るほど遠退いていく事もある」


「…………」


落ち着いた大人の声と緊張からか定まらない青年の声が公園に静かに響き渡った。




「なべのふた?」


地に転がっていた折れ曲がった鍋のフタらしきものを手に取り眺める不思議なミルク色の瞳。


「あぁこれは…………鍋のフタ」



「フフフやっぱり」


突然どこかの物語の少女のように明るくルンルンとした雰囲気で笑い出した。


「彼女もご機嫌のようだ。ありがとう可黒美玲」


「え、はい。って俺の名前……」


「ありがとうタグロビレー!」

「さようならタグロビレー!」




「さ、さようならあ……」



2人の黒い外套は背を見せ公園の入り口の方へと向かい。

可黒美玲は元気に手を振る姿が視界から消えるまでそれを眺めた。



「なんだったんだ……」



極度の緊張は解けそれと同時にゆっくりとざらつく砂地に呆気に取られた顔で座り込んだ。


汗でべたついた身体に吹き抜ける夜風が身体を冷やしていく。


何かを考え込むよりもさっさとその場を去りたい気分と状態だ。



可黒美玲は砂を払い帰路に就き、忘れられない今日という日を忘れる事にした。




▼▼▼

▽▽▽




──深部体温を計測────死亡推定時刻午後3時半頃。


8歳の男の子古井戸町マンション転落事故、は事故だが事故ではない。ヤツらの実験だろう。それか単なる事故で何らかのひらめきを得たのか。


ヤツらが大きく活動するのは決まって夜だ。


2件、3件とつづいている高層ビルマンション集合住宅の不審死。全てが古井戸町内、深夜から朝にかけてだ。


報道はされていないが私の情報網には入ってきている。警察もバカばかりじゃないってことだ。【上】には逆らえないのはどいつも一緒だがな。まぁ私に筒抜けということは私の行動も監視されてはいるんだろうがな。どうでもいい存在なのかあるいは遊んでいるのか、それとも私のファンか?


警察官としての正義感……? フフフ違うな。忠誠心だ。エサとアメに食いつくバカでどうしようもないヤツらめ。病んでいるのか狂っているのか。認めたくはないが私もそのような人間とある意味同種ではあるんだろうな、フフ。


新しめのマンションの一部屋。家賃に見合った本来の小綺麗な空間は改造され。


刀やナイフ様々な刃、様々な武器がゴタゴタと取り出されては黒い威圧感のある箱に丁寧に仕舞われていた。


「これも屑だな」



「あるいは私が屑か? オーラならそこらの腑抜けた一般人よりはありそうなものなのだがな」


「見掛け倒しということか、フフ」


彼女はその物置小屋改め武器庫を出て、リビングへと戻った。

お気に入りの黄色いソファーにドスりと座りもたれかかっていく。



3件の不審死これらを照らし合わせると繋がり見えてくるのは馬鹿でも分かるシンプルだ。


夜と死。


つまり怪異、ヤツらの実験素材。この町は実験場ということだろうか。


強引であろうがオカルトとはそういうモノだ。コレとこじつけてアタリをつける、すると案外アタっていたりするものだ。もちろん8割はハズしているがな、今も屑拾いばかりだ。


マァ、実験だとか実験場だとかそんな大枠の外はいくら考えても終点にはたどり着けやしない。敵とみなすには得体が知れず強大、私ごときの力ではな。


だからそうだな……このマークのヤツらは……私の推しといった感じだろうな。



『平和を 待つなら 武器を取れ! アイドルクロニクル♪』


彼女が最近になり買い足したアルバム、その3曲目はやはり王道な曲調を置きたがる傾向がある。


ソファーの前の木の机の上、置かれた年季の入ったCDプレイヤーから流れる楽しげ王道な大音量のメロディーがおしゃれな部屋に響き渡っていった。


「武器を取れ♪  か、この歳で急に玩具が欲しくなるなんてな」


「ガキの遊びに混ぜてもらうには……金か、あるいは誘惑、調教、フフフふ」


行きつけ喫茶店のオリジナルブレンドティー、華やぐ香りが紅茶の可能性を広げている。


ダージリンオータムナル、エルダーフラワー、アップルピース、ブルーベリー、少量のシナモン。


甘みと香り両方ともに特化した味わいといえる組み合わせ。


美しい口元が白い口の広いシンプルなカップにふれる。



「私自身のパワーアップ。とオカルト探偵部……可黒美玲か」



子春の話によると別人みたいにパワーアップしているみたいだなフフフ。フツウでいいとほざくあいつがな。


さて、問題は私自身だ。パワーアップ……対人バトルにはそれなりに自信があるが。怪異相手にそんなモノは意味はないゴミ屑だ。フツウじゃないヤツ美玲はもちろん私は格闘技素人の子春にすら劣るただの警察官だ。


神座……やはり神器それを見つけない事には月明かりの舞台には立てないということだろう。



「古井戸。アテにさせてもらうぞ私の乾いた人生の」

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