3
勢いでこの教会を出ていこうかと思ったがここは門番モンスターも倒して……いわゆる安地になっている。
……何も考えていなかったな……。せっかくだ一息、出発する前に色々と確認しておこう。
こいつと……連携取れるのかな、俺の言葉はわかってたようだしとりあえず話しかけてみるか。
父親はぴったりと背をついて来る石像の方を振り返り見つめ会話を試みた。
「なぁおまえは何者なんだ?」
「…………?」
女神石像はきょとんとした石の顔をしている。
「はぁ、んーと俺に協力してくれるのか?」
女神石像は2回頷いた。
「名前は?」
顎に人差し指をあて少し考える素振りをしやがて両手を広げて、さぁ、という人間らしいジャスチャーをした。
そんなのされると、ちょっとかわいい。
「……ま、名前はいっか。うーん、何もないのもあれだし。白い女神石像だから、ホワイト、で!」
右の手銃で彼女を指し示しキメた。父親のイケている渋い顔でウインクまでし恰好をつけた命名行為に、
女神石像は両腕をクロスさせばつ印のジェスチャーをしている。
「ええ!? まじかよ! せ石像に拒否られた!?」
人差し指をちょいちょいとこちらに指し、ちょっと怒った表情をしている。
たいへん失礼があったようだ、言動を理解しているそりゃそうだ。
でもしかし石像に怒られるとは……。
「あぁごめん、でも【俺の秘蔵のホワイト】がダメならヤバいぞ……女神石像女神石像、メガセキ!!」
ばつ
「メガ」
ばつ
「セキ」
ばつ
「エンジェル」
ばつ
「エンジェリックメガセキ」
ばつ。ぶーっと石の唇を尖らせ一層怒っている。
「んあああああ、はぁはぁ……まじかよっ!! もうないぞ!!」
出す名前出す名前すべてばつ。俺のネーミングセンスがさっき知り合ったばかりの女神石像さんにコテンパンにされている。
そうか、数撃ちゃ当たるなんて命名じゃない。
父親は考える、大事な名付けだ。考える。考えに考え頭の中で数々の組み合わせを生み出し、頭のコンピューターをフル稼働させそして導き出された名前。
左拳をデコに当てながら────その真剣な表情に白い女神も表情に期待感をのぞかせる。
「んー、保留!」
ででーーん。
と、ひらひらと踊らせ突き出した左の手のひらで歌舞伎役者のような見栄を切る。
下手な役者のような……男は表情凄みながらも笑っている。
ソレを受けた女神は期待感を返してほしいとでも言いたげに、
はぁ、と少しうなだれため息をついている。
せ石像に呆れられるとは……。
いや保留なんて言われちゃ言われた側に呆れられても文句は言えねーな。
んー、でもここまで拒否られるとは……ハハハハ。
おもしろいなコイツ。
「まあいいやッ……保留ってことで許してもらうとしてッ! じゃ戦闘では後衛をたのむぞ女神石像!」
ぐっとした、左拳の甲を見せつけたギラつく瞳の男の熱意が伝わったのか、
しっかりとこちらの顔を見つめ返す美しい女神がいる、
そしてそんな綺麗精巧な顔がヤル気に満ちているのは少しおかしく見えた、
両の拳のガッツポーズを顔に寄せ元気よく頷いている。
▼
▽
ひとつ改めて確認しておきたいことがある。
ここは2208階であると。
素人には何を言っているか分からないと思うが俺と女神石像が居るという事は2208階なんだ。
海外出張しているはずの父親が仲間になるこの階層、2208階。
【ミジュクセカイの塔】このエロいゲームの裏オマケ要素であり人によっては本番でもある。
1階から攻略をスタートして行くんだが2208……お分かりだろうフツウに考えれば果てしないと。
主人公俺の息子が相当上手くやり時間をかけないと助けに来れないのは明白だろう。
まぁこればっかりは主人公が今どんな事をしているのか謎だし強さの程もわからない、舐めちゃいないけどまぁおそらくすぐには来れないと思う。
さて……これから囚われの父親が先ず目指すべきやるべき目標なんだが。
それはハッキリとわかっている。
一つ、3936階までたどり着きエロいヒロインを仲間にする。
ひとまずこれを目標にしたい。
【サム】というエロい隠しヒロインがこのミジュクセカイの塔にはいる。
クセはあるが……そこそこには、いや使う人が使えば大いに有能だから俺が裏世界で生き抜くためのかなりの助けになるだろう。
俺は主人公じゃないので仲間になってくれる保証はないが……ドークスも使えた今楽観的に考えたいと思う。
二つ、腹が減った。とんでもなく腹が減ったゲームなのに。
どうやらこのゲームセカイがリアルになった分飢える要素が追加されているようだ。
グレープグレープ天然水は美味くて当面の水も確保出来てありがたいが……。
バトルにバトルボス戦と言っていいバトルで俺の腹ゲージはガンガン減っていっている。
だが朗報にもエロいゲームにも確か食える飯がある。早いとこ店を見つけて腹を満たさなければいけない。
とにかく腹が減る以上この裏世界で少しでもまともな生活をし生き残ることが二つ目の目標……いや違うな、俺のこれからの日常になるんだろう。
心で再確認を済ませ、
準備と息をばっちり整え礼拝堂を出た父親と白い女神石像のパーティー。
その先に待ち受けていたもの────
目の前にひろがる景色、目の冴えるだだっ広い緑の草原が広がっていた。
やっと出れた────ミドリの空気に思わずおおきく深呼吸。
新たな展開が始まる予感が既に、
その草原にぽつりぽつりと見えるバラエティー豊かな石像たちの姿。
男はなつかしのモンスターたちを眺めては笑う。
「えらい解放的な美術館だな」
「そんで……爆王斬!!」
突如走りだし白蜜を抜刀し悪魔のような羽の生えた背姿の石像に──斬──巨大な炎球をお見舞いした父親。
石像はその背後からの一撃で焼け崩れ光の粒へと還って行った。
「ガーゴイルさん後ろからごめんなさい」
教会の建物、草原へと降りる緩い階段の両端に設置されていた翼の生えた人型の悪魔ガーゴイル石像。
眠っている石像の状態から生身の肉体へとその姿を変え飛び襲いかかって来ることで有名なガーゴイルというモンスターであるが……白い教会に背を向ける形で置かれていたそれらは教会から出てきた父親たちにどうぞ背後から斬って壊してくださいと言わんばかりのボーナスエネミーになっていた。
逆走する事で味わえる要素に軽く笑い。
「うんうん爆王斬でイチゲキかー。じゃ、もう一体もぼんっと片付けて行くか女神石像さん」
振り返ると女神石像は父親に向けてパチパチと、おおぅ、という感心の表情で拍手をしていた。
……なんだこのかわいい生物。あの必死な女神石像ファンはこうやって生まれていくのか。
俺も今からファンやっていいかい? ハハ。
んなことより、石像に萌えるよりも……。
父親は再び走り出し教会側にふくらみ回り込むようもう一端に置かれた石像の背後から元気よく斬りかかった。
「爆王斬!!」
立ち塞がる敵を燃やしていけ、なんてな。
その炎は特別。悪魔をイチゲキで焼く父親の炎。