動き始める
若葉は、何も話せなかった。
大輝の顔もちゃんと見れなかった。
ずっと下を向いたまま
何も自分の口から話掛ける事が出来なかった。
蓮に腕を引かれているのを見られたと思ったのだ。
蓮と千花は少しだけ話したが
若葉は話せなかった。
話しかけてももらえなかった。
自分の気持ちも大輝の事も
わからなかった。
何も声を掛けてくれない事が
ショックだった。
泣きそうになった。
いい加減、自分の気持ちにも気付き始めるが
無理やり自分の気持ちに蓋をしていた。
大輝も若葉も似たもの同士なのだ。
詩音は休憩から戻った後にすぐに
大輝の様子がおかしいことに気付いてた。
「大輝君、大丈夫?」
と、聞いても笑顔で大丈夫と言ってくる。
詩音には、大丈夫そうに見えなかったが
大輝がそう言うなら何も出来ない。
文化祭も途中なので大輝も作業に戻ってしまった。
心配だが今は様子を見ようと思ったのだ。
若葉は、そのあとの文化祭を
楽しく感じられなかった。
そんな若葉の様子に
蓮と、千花も気付いた。
「大丈夫?若葉?」
と、千花と蓮が心配そうに尋ねてきて。
若葉も、流石に悪いと思い、
「ちょっと体調が悪くなっちゃって。
ちょっと休めば大丈夫!」
と、二人に伝えた。
すると
「今日はもう楽しんだから
みんなに伝えて先に帰ろ。」
と、蓮が言ってきた。
「それは悪いから一人で帰るよ。」
と、若葉は言ったが、
「一人で帰させるわけには行かないでしょ。
うちが送って行くから、
白石君はみんなと合流して最後まで楽しんで。」
と、千花が言って先に帰ることになった。
帰り道も、
終始、千花は若葉を気遣ってくれたが、
今の若葉には、
相槌を返す事が精一杯だった。
ようやく家まで着き、
「今日はごめんね。
まだ時間あったのに
帰ることになっちゃって。
休めば良くなると思うから。」
と、若葉は伝えた。
「本当に大丈夫なの?
ゆっくり休んで体調良くなったら
すぐに連絡してね?」
と、千花は若葉に伝え帰って行った。
若葉は、家に入り
靴も脱がずに座り込んで
「蓮君にも千花にも迷惑かけちゃったな…
何してるんだろ私…」
と、落ち込んでいた。
大輝の事を思い出し、
「大輝…
私どうしちゃったんだろ…」
と、上を向き
大輝に話しかけるように
独り言を言っていた。
ようやく自分の気持ちに
気付き始めた若葉だったが、
大輝との気持ちは
完全にすれ違ってしまっていたのだ。
文化祭当日の朝、
大輝は、嫌な予感がしていた。
なんだかわからないが、
嫌な事があるような気持ちでいた。
学校に向かっていても
気持ちは晴れなかった。
学校に着き、
大輝はクラスのみんなと準備をしていた。
詩音達も可愛い衣装に着替え
男子はみんな盛り上がっていた。
詩音は特に人気だった為
みんなに囲まれていた。
詩音が大輝のところに来て
「この衣装どうですか?」
と、言ってきたので
大輝は素直に
「すごく似合ってるよ!
詩音にピッタリだね!」
と、伝えると詩音も嬉しそうにしていた。
詩音と話していると不思議と癒される。
気持ちが晴れて
文化祭を楽しめそうな気分になったのだ。
そのまま準備をしながら、
休憩の時間の確認などをし
文化祭の始まる時間を待った。
いよいよ文化祭のスタートである。
大輝のクラスは、
教室で、カフェ風たこ焼きのお店だったので
すぐには、
人が来なかったが、
時間が経つにつれて忙しくなっていった。
お昼前には、席がいっぱいになり
大忙しとなり、みんなで協力して
たこ焼きを焼いたり
ドリンクを出したりと働いていた。
地元の友達もちょこちょこと顔を出してくれた。
若葉と白石の姿はまだ見ていない。
大輝は、少し安心していた。
ようやく落ち着いて来たので、
大輝は休憩に入る事になった。
急いで教室から出て
他の教室を見て回った。
若葉達に会わないように
周りを確認しながら
文化祭を楽しんでいた。
休憩時間も終わりが近づき
そろそろ戻らないといけない
時間になり
教室に戻る事にした。
大輝はこの時、
油断していた。
文化祭を楽しんでいたのもそうだが、
若葉と白石に会わずにすみそうだと
思ってしまっていたのだ。
詩音から
休憩の時間が終わるよと連絡が来たので
教室に戻ろう向かっていると
詩音が来てくれた。
二人で話しながら廊下を歩き、
大輝は自分の教室を向かった。
教室の手前まで来て詩音は休憩行ってくると
大輝から離れていった。
一緒にここまで来てくれるなんて良い子だなと
大輝は思っていた所に声をかけられた。
千花が声をかけてきたのだ。
大輝の動きが止まった。
その後ろから、
若葉が白石に腕を引かれながら歩いてきた。
大輝は、一気に胸が苦しくなった。
大輝は、なんとか普通にしなければと
必死に胸の痛みを我慢した。
「大輝どこ行ってたの?
探したんだよ。」
と、千花に言ってきたので、
大輝は、なんとか平静を保ちながら
「丁度、休憩だったんだ。
みんな別に来たの?
休憩に入る前にもみんな来てたよ?」
と、伝えた。
「みんなとは、途中で別行動になったんだ。」
と、蓮が話に加わってきた。
「そうなんだ。」
としか、大輝は答えられなかった。
若葉の腕を掴んだままだったからだ。
大輝は、若葉の姿を見て
もう耐えられそうになかった。
「ごめん、もう交代の時間だから行くね。
楽しんでね!」
と、逃げるように教室に入って行った。
その後の仕事では、
なかなか集中出来ずに
クラスのみんなに迷惑をかけてしまった。
みんな心配してくれたが、
大丈夫としか言えなかった。
なんとか文化祭を終える事が出来た。
みんなで打ち上げにいき、
みんなに合わせて騒いだ。
詩音がずっと隣にいてくれた。
なんとなく詩音が、
大輝の様子に気づいている気がしていた。
詩音が近くにいてくれることで
安心することが出来た。
だが、ふと思い出してしまう。
今日見た事を忘れる為に、
いつもより騒いだのだ。
詩音も一緒に打ち上げに参加したのだが
大輝がいつもより
明るく振る舞っているように見えて
心配だったのでなるべく大輝の隣で
様子を見ることにしていた。
だが、明日には普通に戻っているだろうと思い
今日のところは気にしないようにしたのだ。
大輝の頭の中ではずっと
白石が若葉の腕を掴んでいる姿が
流れていた。
打ち上げが終わったあと
大輝は、一人で歩きながら
父親の言葉を思い出していた。
「後悔してからじゃないと気付けないんだ…」
と、今までの事をずっと後悔していた。
手を繋いでいる人達がを
見るたびに思い出し、
胸が苦しくなった。
「若葉を応援するってきめてたのに…
僕は、情けないなぁ…」
と、一人嘆いていた。
涙の一つでも流せれば
気持ちもスッキリしたかもしれない。
大輝は、今も泣けなかった。
それからの日々は、
憂鬱なものになったが
みんなに心配されない為に
いつも以上に明るく振る舞った。
詩音はいつも大輝を気に掛けてくれていた。
大輝もそのことには気付いていたので
詩音にはなるべく心配をかけないように
意識していたのだ。
だが、いつの間にか
顔に笑顔が張り付いたように
笑顔以外の顔ができなくなってしまった。
前にも増して、
自分の気持ちを
表に出せなくなってしまったのだ。




