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南の領地の魔獣討伐5



「ユーリ!目がさめた?」

 うっすらと目をあけると、アルフレッド公、ルーカス王子夫妻の心配そうな目が、私を覗き込んでいた。


「ん・・・?ここは?」

「野営地のテントだ。ユーリ?具合は?どこか痛まないか?」

 私は、首を振り、起き上がろうとしたら、アルフレッド公が、背中に手を添えて、起こしてくれた。

「私、どうしたんでしたっけ?」


 アルフレッド公の説明によれば、私は、大地を浄化したらしい。

そして、魔力切れを起こして、2日、眠っていたそうだ。

私は、何をしたか、説明をさせられる。


「治癒する対象に、手の平を当てることが、大事なのかな?」

 アルフレッド公が、首をかしげる。

「そうかも、しれません。あの・・・。私の国には、『手当て』という言葉があるんです。手のひらから、癒しの力が出ている、という考えです。小さいころ、どこか痛いと、母が、手でなでて、痛みが取れるようにって、おまじないしてくれて。母は医者なのに、薬を塗らないで、いつも、最初は、おまじないをしてくれてました。それを、思い出して。・・・。あ、そういえば、この南の領地の大地、全てを浄化できたのですか?」

「いや、全部ではない。森の奥がまだで、奥の方には、強い魔獣が残っている。」

 ルーカス王子が、教えてくれる。

「たぶん、広範囲だから、君の魔力が切れて、そこまで浄化できなかったのだろう。」

 アルフレッド公が、ため息をつく。

「ユーリ。魔力切れは、下手すると、生命の危険にもつながる。魔力が完全に切れる前に、やめないと・・・。今度やる時は、私がそばにいるときにしてくれ。私なら、魔力が切れそうになったら、気付くから。」

「はい。ごめんなさい。」

「謝る必要はなくってよ、ユーリ!あなたの力、本当に素晴らしかったわ!神の御使いの力って、爽やかな風が吹き抜けたような感じがして。わたくし、知らずに涙が出ていてよ!」

 リリアナ妃が、私に抱きついてくる。

聞けば、真っ白い光が覆った部分の草木だけでなく、その場に立っていた、リリアナ妃初め、多くの騎士達は、大なり小なり怪我をしていたが、白い光が消えたら、その傷もすっかり癒されていたそうだ。


 テントから出てみれば、野営地に、たくさんの草花が咲き乱れ、はるかかなたに見える森の緑が、生き生きと目に痛いくらい輝いている。

私を見つけた、騎士達が、その場で、次々と、膝をつき、胸に手を当てて、頭を下げてくる。

さすがに、そこまで敬意をもってもらうのは、恥ずかしかったので、やめてもらえるよう、ルーカス王子に頼んで、皆、自分の勤務に戻っていく。


「大地が、本当に、元気になったのですね・・・。」




 私が目覚めた翌日、王都から、増援を頼んでいた、騎士団が到着した。

要求したとおり、300名。野営地は、一気に狭く感じられるようになった。

もともと、南の領主、サウザント侯爵の横暴を警戒しての増援だったけれど、ルーカス王子は、森の奥まで、全員で、攻め込むことを決めた。

一日も早く、南の領地から去るため、森の奥近くまで、魔獣を討伐するために。

ある程度、森の奥まで来たら、そこで、浄化する、という作戦だ。

私を絶対に魔獣で傷つけないため、私の左右を、アルフレッド公とリリアナ妃が固め、前後は、5人の女騎士が固める。その周りに私を護るだけ、という任務を命じられた50人の騎士が配置された。彼らは、私が襲われた時だけ、魔獣と戦う。


 厳重に護られ、森の奥に移動する。

囲まれているので、状況が見えないけれど、魔獣の咆哮、戦う音、むっとする不快な臭い、などで、時々、びくっと震え、そのたび、アルフレッド公の手がぎゅっと私を励ますように握ってくくれ、とにかく、足場が悪い森の中を、転ばないよう、必死でついていく。


「このあたり、だろうか?ユーリ嬢、頼む。」

 森の奥近くに、やや開けた場所が現れ、ルーカス王子の声が、響く。

私は、うなずいて、その場に跪く。

アルフレッド公が、一緒に跪き、私を見守る位置に着き、ルーカス王子、リリアナ妃が抜剣したまま、油断なく四方に目を走らせつつ2人を護る体形になる。そして、私から、1メートルくらい離れて、全騎士が、円形に、私達を護る陣形を組んだ。

「絶対に、あなたに、魔獣は近づけない。」

 ルーカス王子の声に、大きくうなずき、手を大地に触れさせ、目をつぶる。


「神よ。どうか、この傷ついた大地に癒しを与えてください。赤竜ロート。あなたの身をむしばむ、黒い靄が浄化されますように。」

 小さな声で、祈りの言葉を紡ぐ。

南の領地の皆の幸せを、そして、魔獣達にも、地下での平和な暮らしを、祈る。

手のひらが、熱くなってくるのを、感じた。


 白い光が、私を中心に、円形に広がっていく。


「・・・これが、神の御使い殿の、浄化の光・・・。」

 驚愕と敬意に満ちた声が、騎士達から、あがる。



 一心に祈っていたら、途中で、アルフレッド公が、私の手を、大地から放させ、私の体を、引き寄せる。


「ユーリ、ここまでだ。これ以上やると、魔力が枯渇する。」

「はい・・・。」


 アルフレッド公に助けおこされ、立ち上がった時、軽い眩暈がして、よろけた。

でも、転ぶ前に、アルフレッド公が、横抱きに抱き上げる。

頭の芯が、少し痛み、ぼーっとしていたので、抵抗することもなく、身を任せた。

「ルーカス。野営地に戻るぞ?」

「そうですね、叔父上。私は、森の奥を確認してきます。騎士達を、2つに分けましょう。1/4が、私についてこい。残りは、ユーリ嬢を護り、野営地まで送れ。」

「いや、ルーカス。半分ずつで良い。恐らく、野営地までは、魔獣に会うまい。森の奥の方が心配だ。」


 騎士の配置について、打ち合わせる声を聞きながら、眠りに落ちた。



 目が覚めると、野営地のテントで寝ていて、テントの布越しに、外が、興奮したざわめきで賑やかなことに気付く。


「アル?」

「ああ、ユーリ、目覚めたか?」

「今は?」

「数時間前に、ここに戻ったばかりだ。体調は?」

 起き上がり、自分の体調を確認する。

「もう、大丈夫みたい。」


 テントから出れば、ルーカス王子が、目ざとく、私を見つけて、速足で近づいてくる。そして、私の前で、いきなり、膝をついた。

それを見た騎士達が、次々と、彼らが居る場所で、膝をつく。


「ユーリ様。神の御使い。私は、あなたに永遠の忠誠を誓いましょう。」

 私は、仰天して、後ろにさがる。

「え?え?立ってください。ルーカス王子。困ります。いきなり、どうされたんですか?」

「森の奥に入って行ったら、魔獣達がたくさん居ました。でも、彼らは、我々を襲おうとしなかった。我々に背を向け、森のさらに奥に、移動していました。北の領地で見たのと同じ光景です。恐らく、魔獣達は、地下に帰って行こうとしている。赤竜殿が、きっと、浄化されたのでしょう。それを、成し遂げたのは、あなたです。ユーリ様。この国の大地を癒し、魔獣から人々を護る、神。」

「いや、私は、神じゃありません!!!」


 泣きそうになって、必死で、ルーカス王子を立たせ、騎士達にも、立ってもらう。


「私は、ただの人間です!人間で居させて!」


 アルフレッド公が、苦笑しつつ、私の頭をなでてくれる。


「ルーカス。そこまでにしておけ。ユーリは、神の浄化の力を持っているかもしれないが、特別視は、望んでいない。・・・神の御使いの希望だ。今まで通り、接するべきだろう?」

「・・・そう、ですね。それが、神の御使い殿の命令であれば。」



 その日の野営地では、お酒がふるまわれ、南の領地の魔獣討伐が終わったことを喜ぶ、宴会となった。

未成年だから、お酒は飲めないけれど、南の領地の民がこれで魔獣に襲われる心配がなくなったことと、皆で、無事に王都に帰れることが、うれしくて、騎士の皆さんと一緒に楽しく話をしながら夜を過ごした。

 赤竜ロートに会ってみたかったな・・・と思いながら。



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