北の領地の魔獣討伐1
翌日、早朝から、ルーカス王子達は出発し、アルフレッド公と私は、領都の視察をすることになった。
館に閉じ籠っていてもいても良かったのだけれど、せっかく、王宮から出て来たので、この国の普通の街を見てみたかった。
北の領地は、田舎だから何もありませんよ、と領主のガルディア伯爵が謙遜していたけれど、領主のお膝元である、領都は、けっこう、賑やかだった。
市場を中心に回ってみれば、食料品も雑貨も、物が豊富にある。
値段がどうか、アルフレッド公に聞けば、王都と比べても、普通だと言う。
「この国は、豊か、なのですね?」
アルフレッド公に聞けば、うなずかれる。
「ああ。少なくとも、ここ100年近く、戦争も無いので、民の生活が落ち着いている。ただ、君を召喚せざるをえなかったように、魔獣の被害が、5年くらい前から酷くなっている以外は、ね。」
「その魔獣も、減っていけば、もっと、民の生活は豊かになりますか?」
「ああ。きっとね。」
「じゃ、私も、がんばらないと!」
「ふふ。居てくれるだけで、いいんだから。」
市場を歩いているうちに、お昼になり、私は、お腹が少しすいてきた。
「アルフレッド様。おなかすきません?・・・屋台がたくさんあるので、何か買えたらうれしいのですけど。」
「・・・すまない。外で、食べ物を買うことはできないから、館に戻るまで、我慢して?」
「え?」
こそっと、アルフレッド公が、私の耳に、ささやく。
「毒を警戒しているんだ。」
はっとした。
そうか、アルフレッド公は、王族。外で、買い食いできる立場じゃなかったんだ。
「そ、そうですね。ごめんなさい。私、まだ危機管理ができていなくて。」
「気にしないで。・・・でも、屋台の食べ物も食べてみたいよね?あとで、誰かに買いに行かせるから。買ったものを、毒見してもらえれば、食べられるから、ね?」
「ありがとうございます。」
館に戻る途中、街道がにぎやかになってきた、と思ったら、ルーカス王子が戻ってきたところだった。
「ユーリ!」
私に気付いた、リリアナが、馬上から声をかけてくる。うわ、鎧に身を包んで、りりしい!
近くに来て、しゅたっと馬から飛び降りてくるリリアナに、首をかしげる。
「ずいぶん、早く戻られたのね?」
「ちょっと、厄介なことになってね?・・・あとで、館で話すわ。」
結局、ルーカス王子とリリアナ、アルフレッド公と私の3人は、館に戻り、お昼ご飯を食べながら、魔獣の調査結果を聞いた。
魔獣の数が、多すぎたそうだ。
山に入るが早いか、小型の魔獣に襲われ、それらを退治しながら、山の奥に進もうとしたけれども、魔獣が途切れることなく出てくるので、調査どころでなかったらしい。
「それほど、魔獣が増えるのは、考えられないな?」
アルフレッド公が、難しい顔をして、考え込む。
「そうなんだ。俺も、今まで、たくさんの魔獣を討伐しているけれど、あの山は、異常だ。奥には、おそらく、強大な魔獣が居ると思うんだが、そこまでたどり着けるかどうか?山の入り口付近の魔獣討伐だけでも、何日もかかりそうで。」
「援軍を頼むか?」
「まだ不要だが、状況によっては、必要かもしれない。」
翌朝、まだ薄暗いうちに、何か、臭い気がして、目がさめ、むくりと起き上がった。
「ユーリ、どうした?まだ、外は暗いけれど。」
「あ、おはようございます。何か、臭いません?」
「ああ、これか。・・・ドリアンの臭いだな。」
「ドリアン?なんで?」
「魔獣の大好物だ。ルーカスは、山のふもとの平地に魔獣を呼び寄せて、四方から囲んで討伐しようとしている。森の中よりは、平地の方が、攻撃しやすいからな。」
「なるほど・・・。」
着替えて、庭に出れば、たくさんの荷馬車の上に、ドリアンが山積みになっていた。
こっちの世界にもドリアンがあって、同じように臭くて、しかも、魔獣の好物だなんて!荷馬車は、日が昇る前に、山のふもとへ出発していったので、臭いが無くなって、ほっとしたけれど、ルーカス王子達が心配だ。
「ルーカス様たち、大丈夫でしょうか。」
「心配いらない。山の中に入らないのであれば、ルーカスとリリアナ嬢が使う、炎の魔法で、一気に燃やし尽くすことができるだろう。」
その日から、ルーカス王子とリリアナは、館には戻ってこないで、野営地で過ごし、毎日、魔獣がたくさん、討伐している。でも、数がなかなか減らず、山の奥には、まだ行けないと聞いた。
私がこの国に居れば、魔獣が弱くなって、数も減るんじゃなかったの?
私が、北の領地に来て、すでに、1か月近く、経っている。
私、本当に、神の御使いなんだろうか。
・・・少しずつ、不安で、気持ちが沈んでいく。




