エルダー国の教育
エルダー国の貴族が、家庭教師から学ぶ講義は、文学、外国語、数学、歴史、法律、経営学、マナー、ダンスくらいであり、それに男性は、剣などの武芸、女性は、刺繍や音楽、適性がある場合は、魔法学が入って来る。
薬学や医学などの専門学は、その道の権威者に弟子入りしないと教えてもらえないそうで、一般の貴族は学ぶ機会がほとんどない。
ドルチェとレーテが教えてくれたところによると、アルフレッド公は、それらすべてを習得している天才だそうで、病気や怪我に効く薬も、何種類か新しいものを作って、国内に流通させているらしい。ただし、開発者の名前は伏せて。
アルフレッド公は、この国一番の学者と、レジナルド王に最初から聞いていたので、それにはあまり驚かなかったけれど、魔法があることに、心が惹かれた。
「魔法って、どんなことができるの?空を飛ぶとか?火を出すとか?」
わくわくしながら、ドルチェとレーテに聞いてみれば、
「一般的には、火や水、雷などを呪文を唱えて、出すことができます。魔力の量で、規模は変わってきますが。あと、空は飛べないですが、身体強化をかけて、早く動いたり、高く跳躍することはできます。主に、騎士団が使っていますわ。」
「アルフレッド様はじめ、レジナルド王、ルーカス王子は、この国でもトップクラスの魔力をお持ちです。軍隊が手に負えないような強大な魔獣が出現したときは、王族のどなたかが、討伐に向かわれ、魔法と剣で、倒していらっしゃいます。今のところ、近衛騎士団長のルーカス王子が出向かれることが多いですわね。」
「とはいえ、魔法は、普段、あまり使われておりません。補助的なものです。」
「治癒魔法はあるの?」
「いえ、それはございません。」
「魔力を持つ人は、多いの?」
「多くはございません。王族は、ほぼ全員、魔力をお持ちですが、貴族だと、1割程度、でしょうか。平民の魔力持ちは聞いたことがございません。」
「遺伝するのかしら?」
「そうかもしれません。魔力を持つ貴族の家は、だいたい、決まっておりますから。」
「ドルチェとレーテも使えるの?」
「わたくし共は、魔力を持っておりません。」
「そうなの。・・・私も、魔法を使いたいなあ、無理かしら?」
「魔力があれば、お使いになれますが・・・。」
「魔力の有無は、調べられるの?」
「はい。魔力量を測る道具がございます。アルフレッド様にご相談されてはいかがでしょうか。」
「ありがとう。今度、聞いてみますね。」
*****
「魔法?」
怪訝そうに、アルフレッド公が、私を見る。
「はい、私にも使えないかな、って思って。」
たぶん、顔が、また、赤くなってると思う。
アルフレッド公が、前髪を切ってから、彼と目を合わせるたびに、心臓がドキドキとウルサイ音を立てるので、その音を聞かれないか、いつも気になる。
だって、本当に、深い深い青の瞳が、きれいなんだもの。
「魔力を測る器械は、王宮にあるが、申請が必要だな。・・・ふむ。とりあえず、魔力を持っていれば、魔力の流れを感じることができるから。ユーリ、手を。」
アルフレッド公が、左手をかざすように差し伸べてくる。
「君の右の手のひらを、私に合わせて?」
言われたとおり、彼の手のひらに、私の手のひらを重ねると、軽く、指をからめてきた。
・・・きゃ・・・。心の中で、悲鳴を上げる。
私の焦りには、まったく気づかないのか、アルフレッド公は、憎たらしいくらい、平静だ。
「私の魔力を、手のひらを通して、君に流してみるから、何か、感じたら、教えて?」
・・・いけない、いけない。魔力を感じるテストだった。
気を取り直して、うなずく。
「あ・・・!」
「どう?感じる?」
「・・・何か、あたたかいものが、手のひらから、腕に向かって、流れています。」
「ああ、感じるんだ。じゃ、ユーリは、魔力がありそうだね。」
にっこりと、アルフレッド公が微笑む。
・・・近い!顔が近すぎる!!!
「ユーリ?顔が赤いけれど、魔力で、酔った?気持ち悪くない?」
「え!?いえ、大丈夫ですっ!」
あわてて、手のひらを離そうとしたけれど、いきなり、ぎゅっと、そのまま強く握られる。
「ユーリ?私と手を合わせるのは、嫌?」
「そんなことは、ありましぇん!」
噛んだ。
くっと、笑った、アルフレッド公が、空いている右手で、ぐいっと私の腰を引き寄せ、アルフレッド公の胸に抱き寄せられる。
思わず、握られた手を振りほどき、空いている手で、彼の胸を押しのけてしまう。
やだ、彼の顔が見られない!
「しちゅれいしましゅ!」
思いっきり噛みまくって、自室に猛ダッシュした。