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顔が見たい



 部屋を案内してくれた後、すぐ、アルフレッド公の居間で、お茶に誘われた。

そして、お茶を入れてくれている30歳くらいの男性を、彼が紹介してくれる。


「彼は、私の従僕で、ブレアと言います。乳兄弟なので、信頼してもらって大丈夫です。」


 ブレアが、ポットをワゴンに置いてから、右手を胸のあたりにあて、お辞儀をしてくれる。

「ブレア・ボードです。爵位は伯爵。31歳になりました。妻と子供が2人おります。」「ブレア様ですね。友里子です。ユーリと呼んでください。」

「ユーリ様。私は、従僕なので、敬称は付けずに、呼び捨ててください。」

「え、でも、目上の方で、伯爵様ですし。」


 その時、アルフレッド公が、少し厳しい声をかけてきた。

「ユーリ様。この世界は、身分制度が厳格です。ブレアは、私の従僕です。その従僕と、私達王族に同じ敬称を付けるなら、王族とその仕える者が同等ということになり、むしろ、無礼になります。」


 顔がひきつる。貴族制度、めんどくさい。


「わ、わかりました。では、ブレア・・・、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ユーリ様。」


 アルフレッド公が、軽く、左手を振る。丁寧に頭を下げて、ブレアが退室していった。

「ユーリ様。この国について、明日から、さっそく勉強したほうが良いですね?」

「はい。アルフレッド様が、教師になってくださるのですよね?」

「そのつもりです。・・・3か月後の婚約式では、他国の王侯貴族が集まるので、その時に困らないよう、我が国の歴史と、貴族法を最初に学びましょうか。ユーリ様?」

「お願いします。あの、それと、あの、『様』はいりません。ユーリと呼んでください。」

「え?それは、できません・・・。」

「あの、私は、教えてもらう立場です。それに、元の世界では、平民でした!『様』付けされると、なんだか、落ち着かないのです。だから、お願いします。あの、できれば、国王陛下、王弟殿下にも、そうしてもらいたいのですが!」

「神の御使い殿のご命令ですか?」

「命令ではなく、お願い、なのですけれど・・・。」


 アルフレッド公が、小さくため息をついた。


「ご命令とあれば。・・・他に何か望みはございませんか?」


「えっと、できれば、でいいのですけど、その・・・。」

「なんでしょう?」

「不敬かもしれませんけど、アルフレッド公のお顔を見たいです。」

「はい?」

「・・・あの、前髪を切るか、その、後ろになでつけるとか、紐でまとめるとか・・・。」

「・・・なぜでしょう?」


 アルフレッド公の声が、困惑に満ちている。


「目を見て、話をしたいと、思って・・・。」


 これから、毎日、会う人なのだ。できれば、目を合わせて会話したいし、表情を見たい。


「私の顔は、女性に、恐れられています。」

「私は、怖くありませんでした!」


 つい、大きな声を出してしまった。


「あ、ごめんなさい。・・・あの、私、アルフレッド様のお顔、本当に怖くなかったです。むしろ、隠すのがもったいないくらい綺麗だなあ、って。」


 そこまで言って、赤面した。何を言ってるの、私ってば!

真っ赤な顔を見られたくなくて、思わず、顔を両手で覆って、うつむいてしまう。その頭上に、小さな声が降ってきた。


「・・・あなたは、本当に?本当に、私の顔をきれいだとおっしゃるのですか?」


 自信が無さげなその声に、ばっと顔を上げる。


「はい!私は、アルフレッド様のお顔が好きです!」

「は?・・・好き?」


 口を両手でバッと、覆った。私ってば、何を言ってるの!


「あの、あの、お茶、ごちそうさまでした!」


 アルフレッド公を見ていられなくなって、席を立ち、廊下に飛び出し、自室に走りこむ。


「私ってば、何言ってるの!?」


 自分の居室で、絨毯にぺたんと座り込んで、頭を抱えて唸っていたら、


「ユーリ様!?どこか、具合が?」


 と、ドルチェとレーテが、駆け寄ってきて、背中にそっと手をあてて、さすってくれる。


「あ、いえ。具合は大丈夫です。ちょっと、その、自分が嫌になっただけで?」

「はあ・・・?」

「と、ともかく、ソファにお座りくださいませ。」


 ドルチェが手を貸して、立ち上がらせてくれ、窓際のソファに座らせてくれる。

そのソファの横に、持ち運び用の小さなテーブルを、レーテが抱えて持ってくる。

そして、ドルチェが退室して行ったと思う間もなく、ワゴンを押して入ってきて、お茶を入れ、テーブルにカップが置かれる。


 至れり尽くせりの流れるような動作に、落ち込んでいたことを、一時的に忘れ、感心してしまう。と、お礼を忘れていることに気付き、あわてて、2人にお礼を言う。


「ドルチェ、レーテ。ありがとうございます。」

「とんでもございません。これが私共の仕事でございますゆえ。」


 2人が、にっこり笑う。でも、2人とも、さりげなく、私の顔ではなく、私の首元に視線を下げている。


「・・・あの、ごめんなさい。視線を避けるって、大変ですよね?」


 本当に申し訳なくて、しょんぼりと声をかけると、2人が、慌てたように手を振る。


「いえ!私たちは、ユーリ様の魅了にかかっても良いと思って、侍女に立候補してるので、大変だとは思っていないのです!ただ、魅了にかかると、ユーリ様のお世話に支障が出ることが増えると教えてもらったので、なるべく魅了にかからないようにしようとしているだけなのです!だから、大変じゃないです!その美しい瞳を見られなくて、とっても残念なのですけど!」


「命令されて、仕方なく、私についているんじゃないの?」

「とんでもございません!」


 ドルチェとレーテが、いかにして、私の侍女のポジションを獲得したか、熱弁を振るってくれた。

 神の御使いの侍女に選ばれるのは、非常に名誉なこととされ、競争率がむちゃくちゃ高いのだそうだ。

神の御使いを召喚することが決まり、侍女が事前募集されたとたん、貴族令嬢の応募が殺到し、選考会が開かれ、家柄、学歴、容姿、侍女のスペックなど複数の選考を経て、選ばれたのが、ドルチェとレーテ。

 ドルチェが17歳で、レーテが22歳。二人とも独身で、伯爵家の令嬢だった。

なんでも、王族につく侍女や従僕は、貴族でないと、なれないらしい。

レーテは婚約者がいるそうだが、ドルチェはまだ決まった人がいない。


 逆に、貴族につく侍女や従僕は、平民から選ばれるそうだ。新しく外から採用されることは稀で、代々、その家に仕える一族がいるそうだ。

ドルチェとレーテも、自分の侍女は平民で、親に仕える侍女の子供だとか。


「私共、王族の侍女や従僕は、仕える王族の宮殿に隣接している宮に部屋を賜っております。」

「・・・寮みたいなもの?」

「寮?貴族学院の寮のことでしょうか。としたら、違いますわね。」


 彼女たちの部屋は、自分の屋敷の自室よりも、はるかに豪華だと言う。

私の部屋の間取りと似ていて、ここよりは狭いけれど、居室と寝室とクローゼットルーム、浴室が付いているそうだ。

そして、彼女たちにも侍女が居て、その侍女は平民用の建物で、寝起きをしているとのこと。

 王宮って、どれだけ広いんだろう?まあ、ベルサイユも一つの街だったし。そんな感じかな?


ともあれ、2人とのおしゃべりは楽しく、気が付いたら、夕食の時間になっていた。


 アルフレッド公から、国王や宰相と打ち合わせが長引いていて、戻れないと連絡があったので、夕食は、1人で、居室で食べることになった。

アルフレッド公と、ちょっと顔を合わせるのが恥ずかしかったので、少しだけ、ほっとした。




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